〜Fate Hollow Early Days〜
〜覚醒(真)〜
土蔵に入り、鍛錬を開始する。繰り返される日々の日課…………ふと、忘れていたことを思い出した。
長く平和に浸っていたせいか、輝きは失せ、刀身は埃を被り――――それでもなお、一度身につけた技法は衰えてはいなかった。
檄鉄をおろし、魔術回路を起動させる――――準備は流れるようにスムーズに行われ、後はトリガーを引くだけだった。
しかし、どうして忘れていたのだろうか。忘れようもない、戦いの記憶……その果てに身に着けた技法を俺は今――――、
「投影、開始」
静かに再現した。かつての栄華、偉人の業績すら映しえる技法――――自らの手になじむ鉄の感触は……どこか、懐かしさを感じていた。
だが、これだけではない――――本当に思い出さなければいけないのは…………、
「そう、投影じゃないんだ。俺が忘れていたのは」
俺が忘れていたのは、生と死の境界線――――、一瞬の判断の誤りが自らの命を危うくする、そんなギリギリの状態。
そんな時、自らの出来ること、出来ないことを冷酷なまでに判断し、実行に移す能力…………。
それは、セイバーとの日々の鍛錬で、培いながらも、使うべきときは訪れず、いつしか胸の奥深くに沈み込んでいたものだ。
「時が精神を磨耗させる、か――――」
繰り返される日常、平穏な日々…………それは貴重なものでありながらも、戦う者にとっては、ぬるま湯のような物足りなさに包まれる。
きっと、俺が忘れてしまっていたのも、使うべき時が訪れず、静かに記憶から消していったのだろう。
――――しかし、いずれは必要になる事も確かだった。魔術師として生きるには、必要不可欠な感覚。
思い出した感覚を、今度は忘れずに、心の片隅に置いておこう。
「さて、そろそろ風呂が開くころかな。後片付けをして戻ろう」
普段の日常の片隅で、そうしてひっそりと、俺は忘れていた自分を取り戻す。
いつかは分からない未来、必要になるであろう武器を、俺はこうして、ようやく取り戻すことが出来たのだった――――。