〜Fate Hollow Early Days〜
〜プロローグ〜
伽藍が組みあがってゆく。世界の隙間が埋まるたび、伽藍もまた増え、彩りを増す。
それは終末の伽藍――――完全に組みあがったとき、世界は今度こそ、完全なる崩壊を見せるだろう。
永遠を望んだ彼の末路……それは、自らの手によって総ての幕を引くことだった。
虚空に浮かぶ伽藍には、中心にぽっかりと穴が開いている。彼とバゼットの出会いを持って、世界は完全に行き詰る。
数多くの可能性を凝結した、記録の伽藍。しかし、その完成には……もう幾許かの猶予があった。
彼を待ち続けるバゼット――――彼女の立つ伽藍の空間の隅で膝を抱え、空に浮かぶ伽藍を見上げる少女がいる。
片目しか開くことの無いその瞳で、虚空に浮かぶ伽藍をじっと見つめている。
「もう、時間があまり無いわね――――もっと早く、補わないと」
少女が行っていること……それは、世界の崩壊を止めようとする事に他ならない。
伽藍の完成を持って、この世界は完全に終わる。輪廻たる四日間から抜け、世界は五日目に歩を進める。
しかし、他の誰かと同じように、片目の彼女――――紫陽 真由(しよう まゆ)にはその先は存在しない。
伽藍の完成を前に、その一部を壊すということも考えたが――――それは出来なかった。
もとより彼女は、伽藍の中より出芽した存在…………伽藍の機能が損なわれることで、自らにどんな影響があるかも分からなかったからだ。
「でも、間に合わないわね…………いくら可能性を提示しても、それ以上に終わらせようとする力のほうが強い」
だからこそ、彼女が行っている方法は、回りくどく、手間の掛かる方法だった。
世界は、もはや新しい可能性を自ら作ることは無い。登場人物の想像力に適う出来事は、もうすでに出尽くしている。
だが……それ以外の人物ならどうだろうか? 第三者の視点から見れば、この四日間に起こりそうな出来事は、いくらでも沸いてくる。
彼女は自らの想像の赴くまま、停まっていたはずの四日間を無理やり廻していたのだった。
しかし、それも一時しのぎでしかない。いずれ最終的には、彼はここに来て、伽藍を壊すのだろう。
そんなことは、彼女もとうに理解していた。しかし、止めることも出来ない――――止まればそれは、世界の終幕を意味していたからだ。
伽藍は彩りをなお鮮やかに、完成された絵の上より、新たな絵の具を塗りつけるように――――流麗に、華美に飾り付けられていく。
壊れる運命であることを知りながら、それでも彼を待つバゼット。壊れることを知りながら、それでも補うのを止めようとしない真由。
遠く止まった世界で、互いにかかわることも無いまま、二人は同じように時を過ごす。
まるで虚空に浮かぶ月のように、巨大な伽藍はただ静かに、彼女達を照らし続けていた――――。
…………そんな、歪な夢を見た。