〜Fate Hollow Early Days〜 

〜☆諸行無常遊戯(英霊編)〜



先日、ギルガメッシュ――――というか、子ギルから招待状が届いた。
何でも、聖杯戦争のマスターや英霊で懇談会を行いたいので、わくわくざぶーんに遊びに来てくれとのことだ。

当日は貸切であるし、こういう機会も早々ないので、俺は早速、朝一番からわくわくざぶーんに来たのだった。
――――もっとも、事態は俺の予想とは少し違った方向に進んでいたのだったが。



「あ、おにーさん、こんにちは」
「よう、先にくつろいでるぜ、ボウス」

着替えてプールサイドにたどり着くと、すでにそこには子ギルと、ランサーのコンビがまったりとくつろいでいた。
普段は人でごったがえするビーチサイドを占拠し、のんべんだらりと時間をつぶしていたようだった。

「お邪魔するよ。他のみんなは?」
「さぁ、どうでしょうか? 一応は招待状を送りましたけど、基本的には自由参加ですから――――セイバーさん達は、一緒じゃないんですか?」

真夏と錯覚するような日差しを全身に浴びながら、甘露甘露といったぐあいに、ふにゃっとした表情をする子ギル。
ランサーはアロハシャツとサングラスをつけながら、ビール片手にくつろいでいたりする。

「桜は、弓道部の出し物の締め切りが今日だからって、仕事に追われてる。ライダーはその付き添い。遠坂とセイバーは、ヴェルデで買い物中ってとこだ」
「おいおい、それじゃあ女性陣は全滅かよ、つまんねえなぁ」
「ランサーさん、ランサーさん。キャスターさんがまだ残ってますよ」

子ギルの言葉に、あぁ? といった表情を浮かべるランサー。どうも、子ギルの意見がお気に召さないらしい。

「あれを女性陣に入れるか? さすがに齢が経ちすぎてるだろ」
「ふむ、その意見はもっともだが、本人の前では、軽はずみに言わぬが吉だな」

ランサーに合いの手を打つ声は、背後から聞こえてきた。振り向くとそこには――――褌(ふんどし)一丁のアサシンが飄々とした笑みを浮かべていた。
さすが生粋の武士、なんというか海パンとは違った格好良さが有るような気がしないでもない。

「って、おい……どこから沸いて出たんだ、お前。山門から動けないんじゃなかったのか?」
「ああ、そのことだがな。今日の懇談会とやらには、マスターは出席しないのでな。私が代役ということで、寄り代を一時、山門からこの建物へと移したらしい」

おかげで久方ぶりに、のんびりと羽を伸ばすことが出来るというものだ。などと、ランサーの問いに答えるアサシン。
しかし、かなり濃いメンツがそろったな。こうまで男所帯というのも、どうかと思うけど。

「しかし、結局マスターでの参加はおにーさんだけですか。みんな、協調性が無いんですね……魔術師だから、しょうがないかもしれませんけど」

苦笑めいた表情で肩をすくめる子ギル。と、どこかで聞こえた声で、その言葉に疑問を投げかけたものがいた。

「それを言うなら、君たちのマスターはどうなのだ? 言峰が居なくなって代替わりしたマスターも、参加していないようだが」
「――――お前も居たのか」

ビーチサイドのフードショップ。貸切のはずなのに働いている人が居るな、と思ったら、それはアーチャーであった。
アーチャーは鮮やかな手つきで焼きそばを炒めながら、ふっ、とシニカルな笑みを浮かべる。

「参加する気は無かったのだがな、ま、気まぐれというやつだ」
「本当は、遠坂のおねーさんに気を遣って、早々と到着したんですよね。器用に見えて、アーチャーさんは不器用ですから」

さらりと、問題発言らしきことを言う子ギル。しかし、大人の余裕か、アーチャーは焼きそばを炒めながら、無言を通したのだった。
うーん、それにしても暑くなってきたな……いや、気温は変わってないんだろうけど、なんと言うか、周辺の空気が男ならぬ『漢』臭くなってるような……、

「ああっ、くそっ、こうなったらヨボヨボの婆でも、幼女でもいい、女は居ないのか、女は――――!」

さすがに、耐えられなくなったのか、ランサーが叫ぶ。まぁ、確かにその気持ちは分からなくないけど――――、

「女性なら、イリヤスフィールが居たと思ったが。先ほど、子供用のプールで戯れていたのを見たぞ」
「イリヤが――――? って……」

アーチャーの言葉に、子供用プールの方に視線を移すと、視界をさえぎるような形で、何やら結界めいた幕が張ってあった。
そして、その結界の前に、でーんと鎮座する巨漢の巌が一人。バーサーカーがプールサイドに座り、じっとそこを守っているようである。

「おお、あいつか――――なんであんな所にいるか、疑問に思ってたんだが――――どれどれ?」

その結界は音も通さないのか、中の様子をうかがい知ることが出来ない。ランサーは、もっと近くで見ようと、恐れる事も無く、バーサーカーの守る結界に近づいた。
バーサーカーは、近づいてくるランサーに気づいているのかいないのか、じっとその場から動かない、しかし――――、

「――――――――!!!」

「っと、あぶねえな、このやろ」

結界にあと数歩のところまで迫ったその時、バーサーカーが突如、咆哮をあげてランサーに襲い掛かったのである。
しかし、身軽さが身上のランサーもさる者、バーサーカーの振り回す拳を避けると、大きく後ろに跳び退ったのだった。

気分を害したのか、ランサーの立ち姿に変化が起こる。セイバーが鎧姿になるときのように、一瞬でアロハから鎧騎士へと姿を変える。
真紅の槍を狂戦士に向けるランサー。バーサーカーも、相手の害意を察知したのか、素手ながら唸り声を上げる。
…………なんか、雲行きが怪しくなってきたな。

「ふむ、それでは私も行くとするか。波の出るプールとやらは……向こうか」
「アサシン……? 刀なんかもって、何をするんだ?」

褌一丁で、手には六尺の長刀。そんな姿で大波のプールへと歩きながら、アサシンは俺の問いに笑みを浮かべる。

「なに、大波に私の剣が通じるか、試してみようと思ってな。このような機会、普段からしてありえぬのでなぁ」
「はぁ、そうか……ま、頑張ってくれ」

向こうでは、ランサーとバーサーカーが大暴れしているというのに、我関せずな余裕がうらやましい。
と、料理が終わったのか、アーチャーが焼きそばを持ってこっちに歩いてきた。

「ほら、できたぞ。冷めないうちに食べるんだな」
「わあっ、ありがとうございます、アーチャーさん」

アーチャーの差し出した皿を、ニコニコ笑顔で受け取る子ギル。子供には甘いのか、アーチャーも無愛想ながらつんけんした態度はとっていなかった。
――――さて、さすがにこの面子じゃいろんな意味で身の危険を感じるし、早いうちにお暇することにしよう。

「おらっ、かかって来いよ、デカブツ!」
「――――――――!」

なんかあっちでは、すでに聖杯戦争の再現のような大立ち回りが始まってるみたいだしな。

「あれ、帰っちゃうんですか、おにーさん」
「ああ、さすがに場違いみたいだからな…………俺はもう帰るとするよ。遠坂達がきたら、よろしく言っといてくれ」
「う〜ん、おにーさんも充分に、こっちがわの人だと思うんですけどね……分かりました。気が向いたら、戻ってきてくださいね」

子ギルはニコニコ笑顔で、俺を見送ってくれた。傍らのアーチャーは修行が足りないな、と馬鹿にしたような顔だったが、それでムキになって留まろうとは思わなかった。
わくわくざぶーんの外に出ると、穏やかな秋の日差しが、俺を暖かく照らしてくれた。

「ふぅ、なんかすごい状況だったな」

まるで遠い出来事のように、俺はさっきの光景を思い起こす。さながら秋の白昼夢――――とんでもない一軒はそうして終了したのであった。