〜Fate Hollow Early Days〜 

〜☆実典とライダー〜



夕暮れ時、商店街で買い物を済ませ、俺はのんびりと家路につく。今日は桜が家に来るというし、今頃は夕食の下ごしらえをやっていてくれるだろう。
やっぱり、料理を作るにしても洗濯するにしても、桜が居るといないとでは、手間が大いに違ってくる。

「ま、だからといって――――桜ばっかりに仕事をさせちゃ、申し訳が立たないんだけどな」

一応、我が家の家主として、また、桜の家事全般の師匠としても、桜だけに仕事をさせるわけには行かないと思っている。
出来ることなら、何をやるにしても共同でやるのが一番効率がいいんだが……俺も桜も楽しめるしな。

「――――よし、少し早く帰ることにしようか」

今から急いで帰れば……一品料理を作るくらいの、時間的な余裕は出来るだろう。
思い立ったら吉日という言葉もあるし、俺は少し早足で、我が家へと向かうことにした。商店街を出た俺は、その足で交差点へと差し掛かり――――、

「――――なんだ、ありゃ?」

そこで、奇妙な光景に出くわしたのである。 足を止めた俺の目の前……二つの人影がそこに有るのが分かった。
夕暮れの街角、我が家へと続く道で向かい合って立っているのは二つの人影。
紫紺の髪が夕日に映える、長身のライダーと、そのライダーに向かい合っているのは、見知った顔――――美綴弟こと、実典であった。

「――――……」
「――――……」

無言で対峙する両者。実典が右へ動くとライダーも右へ、左へ動くと左へと、まるでバスケのブロックを彷彿とさせる動きをしている。
傍目で見ていると面白いが、当の本人たちは真剣な表情である。何はともあれ、公共の道路である――――車の往来の激しい時間ではないが、近所迷惑ではあるだろう。
このままでは、俺も家に帰れないし――――とりあえず、声をかけてみることにしようか。

「二人とも、何をやってるんだ?」
「あ、シロウ――――お帰りですか」
「どうも、こんにちは」

俺の言葉に、笑みを浮かべるライダーと、憮然とした表情で、それでも礼儀正しく挨拶をしてくる実典。実に対照的な二人である。
しかし、いったいどういう経緯でこういう状況になったんだろうか? なんとなく……ライダーに聞いても、はぐらかされそうだし、ここは――――

「それで、実典。いったい何をやってるんだ? ライダーと一緒なんて、珍しいこともあるもんだな」
「別に、一緒ってわけじゃないっすよ。俺が用事があるのはアンタの家――――というか、間桐部長になんですけど」
「俺の家?」

オウム返しに問うと、実典はこくりと頷く。なにやらライダーは、ばつの悪そうな顔をしていた。

「なんか、弓道部の大切なプリントを、ねーちゃんが部長に返し忘れたんですよ。で、俺に行ってこいって押し付けられたんす」

一度、間桐邸に行ってみたものの、留守であり、おそらくは行き先は一つだろうと、交差点にとって引き返したところで、ライダーに捕まったそうだ。
実典が交差点につくなり、唐突に姿を現したライダーは、これ以上通さぬとばかりに、ブロックを仕掛けてきたのだそうだ。

「――――ですから、言付けは伺いましたし、その書類とやらも、私がサクラに渡します。ですから貴方はこれ以上進まないでほしいのですが」
「そういうわけには行きませんよ。一応重要書類ってことだし、部外者に見せて良い物かも分かりませんから」

ライダーの申し出を、礼儀正しく跳ね除ける実典。変に律儀なところは、姉弟そろって一緒のようだ。
さて、このままじゃ埒が開かないしな――――、

「ライダー、いいじゃないか。別に実典は悪いやつじゃないし、桜も後輩が遊びに来るのは歓迎だと思うぞ」
「シロウ? ですが……いえ、シロウがそう言うのなら、私の出る幕ではありませんね」

俺が声をかけると、ライダーは素直に引き下がり、実典に道を譲る。実典はというと、なぜか俺のほうをじろりと見つめてきた。

「ん、どうしたんだ?」
「いえ、ずいぶん余裕だなって思っただけですよ。ともかく、俺は行きますから」

ぶっきらぼうにそう言うと、実典は早足で歩いていってしまった。後に残ったのは俺とライダーである。



「その、よろしいのですか、シロウ?」
「ん、なにがさ?」

ライダーがおずおずと俺に聞いてきたのは、実典の姿が見えなくなってからのこと、どうやら実典には聞かれたくない話らしかった。

「ミノリの事です。お気づきでしょうが、彼はサクラに好意を持っています。万が一にもサクラがなびくとは思えませんが、気に留めたほうが宜しいのではないですか?」
「う〜ん、でもなぁ……俺は、そういうのは嫌なんだよ。好きな相手に近づくな――――って。それじゃあまるで」

そう、かつて、どこかの誰かが桜に犯した様な過ちは、俺はしたくなかった。
好きだから、大切だからといって、交友関係まで束縛する権利は、誰にもないのだから――――

「…………ま、ともかく帰ろうか。今日は面子も増えそうだし、ライダーも、そう気にしないで、楽しくやってくれ」
「――――はい、善処します」

まだどことなく、不満げな表情のライダーを引き連れて、俺は自宅へと向かう。
さて、ついでだし、実典も夕食に誘ってみよう――――今夜の夕食は、いつもとは異なった賑わいを見せそうだった。