〜Fate Hollow Early Days〜 

〜☆平穏の願望〜



日々の喧騒から離れ、なんとなく屋上で一人、のんびりと空を眺めていた。
ここ最近のせわしない状態は、確かに飽きることは無いが、気疲れすることも確かである。

「まぁ、たまにはこうやって、何も無い時間を過ごすのもいいもんだよなぁ」

授業の合間のわずかな間ではあるが、こうした心身のリフレッシュは、わずかでも大切なものだろう。
屋上の中央に腰を下ろし、そんな風にのんびりとくつろいでいると、屋上の扉が開いて、誰かの訪れを示した。

「おや、衛宮じゃないか、どうしたんだい、こんな所で?」
「ん? ……ああ、美綴か。ちょっと息抜きにな」

屋上に現れたのは、弓道部の女傑、元弓道部長の美綴綾子その人である。
俺の答えに、ふうん…………と、何やら感じ入った様子の美綴は、何を思ったのか、俺の隣に腰を下ろした。

「相変わらず、やることが読めないやつだね、アンタも」
「放っといてくれ。そういう美綴こそ、こんな所に何のようだ?」

もうそろそろ授業の始まる時間、今からここに来ても、何をするでもなく休み時間は終わってしまう。
根が真面目な美綴が、授業をサボるとも思えないし――――俺の疑問に、美綴は苦笑とともに、肩をすくめる。

「そうだね、あたしも少し、息抜きをしたかったかもしれないね」
「随分と疲れてるみたいだな、何かあったのか?」
「まぁ、今しがたに何かあったってわけじゃないけど、ここ最近、色々あったじゃない、特に、あー……ライダーさんがらみで」

言いづらそうに、美綴はそんなことを物申す。ただ、口調ほどにはライダーを嫌っていないようだ。
ライダーは、美人で気立ても良いから、嫌いになるのはなかなか難しいだろう。とはいえ、油断すると喰われそうになるから、美綴も気が気でないんだろうが。

「まぁ、ライダーは悪気があってやってるんじゃないんだ、できれば構ってやってくれると嬉しいんだが」
「――――そうしたいのは山々なんだけどね、どうも、あの人を目の前にすると、何だか身体が竦んじゃうのよね」

鋭い。魔術師で無いのに美綴は、ライダーの危険性を感知しているようだ――――ただ単に、貞操の危機を感じてるだけかもしれないけど。
そんなことを考えていると、次の授業の予鈴が鳴り響いた。美綴はそれを聞き、すっくと立ち上がる。

「さ、授業に行くとしますか。話を聞いてくれて、ありがとね。少しは気が楽になったよ」
「ああ、色々あるけど、めげずに頑張ってくれよ」
「あたしとしては、平穏に日々を送りたいんだけどね……」

苦笑めいた表情で、そんなことを言い、美綴は屋上から出て行った。見る限り、美綴は随分とお疲れの様子だ。
これはしばらく、美綴にちょっかいを出さないように……ライダーに釘を差しておくべきだろう。

「あと、随分と肩も凝ってるみたいだな――――部活に顔を出したときにでも、マッサージでもしてあげよう」

遠坂もご満悦だった、俺の肩揉みを受ければ、少しはリフレッシュになるだろう。
さて、そろそろ授業が始まる時間だ。サボる気にもなれないし、遅刻しないように教室に戻るとしよう――――。