〜Fate Hollow Early Days〜
〜プロローグ〜
夜の街角、故意か偶然か、ばったりと遭遇した出会い――――そうして、オレはそいつに殺された。
殺されること自体は、割と慣れているのでどうって事は無い。何しろオレは最弱なのだ。
そんじょそこらの三流では、一流の英霊相手に太刀打ちできるはずも無い。ただ、今回は少し状況が違った。
それは、相手が人間だって事――――人殺しなら負けないはずの俺が、逆に圧倒され、殺された。
まぁ、人間の中にだって、バゼットみたいなトンデモ人間は存在する。その点は別にいいだろう。
しかし、もう一つ、どうにも腑に落ちない点があった。それは、相手も同じ『衛宮士郎』の殻をかぶっていたことである。
おいおい、どういうことだ、それはオレの特許だぞ、使用料よこせー、という間もなく、一瞬にして殺られたから、確認はできない。
ただ、あれは間違いなく、衛宮士郎の殻だった。まかり間違っても、本人ではない。いや、どれをとって本人というか、それはそれで問題なのだが。
兎も角、衛宮士郎(オレ)は衛宮士郎(そいつ)に殺され、また、この場所に戻ってきてしまったのだった。
「しっかし、わかんねぇことだらけだな……」
バゼットの左腕になったはずのオレ、にも拘らず、オレはこの場に存在し、また、オレ以外の何者かも存在している。
よくよく考えれば、これからバゼットに会いに行くのも、衛宮士郎の殻を被ったオレなのだ。いや、厳密に言えば衛宮士郎でもあり――――、
「ああっ、こんがらがるなっ、ちくしょうっ!」
考えることは苦手だ。とりあえず、頭を覚ますため、手近にあった鏡を殴りつける。
鏡は砕け、拳からは血が滴り落ちる――――オーケー、頭はさめた。痛みのほうは、無視すりゃ問題ないだろう。
「ともかく、変なのが増えたってのは、問題だな」
とりあえず、方針は変わらない。パズルのピース探しを断念してまで、こそこそとする気は無かった。
どのみち死んでも、この場所に戻るだけなのだ。だったら、何もしないよりは、暇つぶしをしていたほうがいい。
まぁ、なるたけ殺されないように、今後は道を注意して歩くとしよう。
次の探し場所を考えながら、俺は屋敷からでて、気の向いた方向へと歩き出した――――。