〜Fate Hollow Early Days〜 

〜姉弟&姉妹?〜



午前の授業も終わり、昼休みも半ば――――弁当を食べ終えた後、俺は何の気無しに廊下を歩いていた。
まだまだ午後の授業まで時間のある時間帯、廊下には俺と一緒で、暇を持て余している生徒が溢れている。
トイレに行く者、自販機に買い物に行く者、廊下に屯って話をする者など多々様々である。

と、そんな廊下に、見知った顔の一団が居るのに気がついた。俺は声を掛けようとして――――、ちょっと躊躇した。
なんというか、組み合わせにしては珍しく……、声を掛けて良いものなのか、判断がつかない。
と、廊下で話し込んでいたツインテールの彼女が、俺が声をかけるよりも先に、こっちに気づいたようである。

「あ、衛宮君じゃない。こっちを見てたけど、私に何か用事?」
「あ――――いや、そういう訳じゃないんだが、遠坂、これは一体どういう組み合わせなんだ?」

呼び止められた以上、無視するわけにはいかないだろう。そんな気はないし、そんな事をしたら後が怖い。
俺は、廊下の窓際に集まって、話しをしている彼女達に近づく。一人は遠坂であり、後の3人は――――、

「あ、先輩、こんにちは」
「…………ども」
「ああ、衛宮か。ちょうど良かった、衛宮の意見も聞いてみようか?」

笑顔で俺を出迎える桜と、憮然とした表情で、一応の挨拶をしてくる実典。で、満面の笑みの美綴がそこに居たのである。
遠坂&桜の姉妹と、美綴&実典の姉弟…………時折見るようで、なかなか見ない組み合わせではあった。

「俺の意見って――――美綴、話が見えてこないんだが」
「ああ、わるいね。いや、文化祭が近いだろ? 弓道部の出し物で、もうちょっと練りこみたくってさ」

美綴から事の次第を聞く――――……まだまだ、弓道部の文化祭の出し物について、考えがまとまっていない。
演劇の用意はしてはいるのだが、それも今ひとつ、どうもしっくり来ないということらしい。

そんなこんなで昼休み、元部長の美綴と現部長の桜で、廊下で立ち話をしていたのだが……、そこに通りかかったのが遠坂である。
もともと、見た目よりもおせっかいな彼女。親友と妹の悩みなら私に任せなさいと、井戸端会議に花が――――もとい、彼女達に意見を提供しようと、話に加わった。

で、それからしばらく経って、桜に会いに来たらしい実典が廊下に現れ――――実の姉に捕獲されて、今に至る、ということらしい。
なんだ、文化祭の出し物って、大体が決まってたと思うけど、まだ本決まりじゃなかったのか。

「だから、脚本はどっかの有名どころを参考に、適当にすっぱ抜けば良いじゃない」
「いや、ホントにそれで大丈夫か? 遠坂の事だから、変に凝りだして一大巨編に仕立て上げそうな気がするんだけど」
「あはは……やだなぁ、美綴先輩。いくら姉さ――――遠坂先輩でも、そんな事しませんよ」

遠坂の言葉に、美綴が的確に突っ込みをいれ、それを桜がとりなすという、実にバランスの良い会話が行われている。
で、俺と実典の二人は蚊帳の外――――話の弾む女性陣とは対照的に、居心地はともかく、会話には入りづらかった。

まぁ、俺はまだ良いだろう。実典の方は、俺より先にこの状況に巻き込まれているんだ。さぞや退屈だっただろう。
と、遠坂達を眺めていた俺を、何やらものいいたげな表情で実典が見つめているのに気がついた。

「なんだ、何か言いたそうだけど」
「――――……言いたい事ならたくさん、あるんすけどね」

俺が聞くと、実典はちらりと話し込む、遠坂達のほうに視線を向けた後、不満げな表情でボソリと言葉を続ける。

「センパイ、あの人と付き合ってるんでしょ?」
「あの人って……ああ、遠坂のことか。まぁ、そうだな」

あいにくと、胸を張って言い切れる自信がないので、俺も自然、こそこそと話をする。
実典は少し考え込むと、うーん、と唸り声のようなため息を漏らしながら、俺に聞いてきた。

「やっぱわかんねー……ねーちゃんみたいのならともかく、間桐部長とあの人なら、俺なら部長を選びますよ」
「いや、お前が言い切れるのは――――って、別に桜の事をないがしろにしてるわけじゃないぞ、俺は桜とも遠坂とも仲良くだな――――」

と、そこまで言って言葉が途切れる。いつの間にか、遠坂達の会話は止まっており、こっちの方をじぃっと見つめていたりする。
ん、どうしたんだ? と言いたげな表情の実典の肩に、わしっと置かれる手――――何というか、あの食い込み具合からして、万力並みだな、あれは。

「だだだ……痛い、痛いって、ねーちゃんっ!」
「実――――典。あんた、さっきアタシの悪口言ってなかった?」
「言ってない、言ってない……! 悪口に聞こえたんなら、自覚があるんだろ! もうちょっと女らしくしろよなっ!」

うわ、凄い。いくら遠坂でも、美綴にあそこまで言わないぞ――――そんな事を考えていると、俺の服のすそがくいくいと引っ張られた。
見ると、桜が真っ赤な顔で、俺を見上げてくる。う、その上目づかいは反則だぞ――――……。

「あの、先輩……先輩は私のこと、どう――――うやっ!?」
「はい、そこまで――――! 士郎は私のものだから、桜は手出ししちゃ駄目よ」

ポーン、と吹き飛ばされる桜。遠坂は満面の笑みで、俺の腕に胸を押し付けちゃってくれたりする。大盤振る舞いですな、ははは……(逃避)
当然、吹き飛ばされた桜が黙ってるはずもなく、俺に絡む遠坂に、むっとした表情で文句を言う。

「姉さんっ! 先輩を独占するなんて、ルール違反ですよ!」
「あー、そうだったかしら? まぁ、物事を決めるのは、いつもパワー&マネーって事だし……士郎がお金でなびく奴じゃないのは分かってるでしょ」
「――――つまりは、ちからづくって事ですか」

ゴゴゴと何やら黒いものが出始めちゃってますよ桜さん。いやそこで、宝石を取り出そうとしないでください遠坂さん。
あはは、どうしようもないなぁ、これは――――というか、怖い、怖いですこの姉妹……!

「ちょっ、放せよ、ねーちゃん! こんな事してる場合じゃないんだって!」
「ええい、やかましい! 一度お前には……姉への礼儀ってのを、叩き込まなきゃいけないね!」
「がっ?! 関節決めるな――――折れる折れる!」

あっちはあっちで、プロレスというよりも合気道のような感じで、美綴が実典を苛めてるし…………。
廊下に居た生徒達は、災厄の到来を予期してか、巣に逃げ帰るネズミのように、教室内へと避難してしまった。
人気の無くなった廊下、ビシビシとした緊張感が周囲に亀裂を――――というか、物理的に窓ガラスに亀裂が走っているぞ……。

「先輩を手離してもらいます、姉さんっ」
「言うじゃないの、桜……! 相手にとって不足なしっ……! 行くわよ、士郎!」
「だから、俺を巻き込むな――――!」

遠坂にヌイグルミの様に引きずられながら、俺は悲鳴を上げる……収集のつかないこの状況は、午後の始業のベルがなるまで続けられたのである。