〜Fate Hollow Early Days〜 

〜リ・スタート〜



そうして、気がつけば周囲は荒れ野となっていた。天高くには蒼天に浮かぶ、黒色の月――――。
一体何時からこうなったのか、それとも、もともとが虚像であったのが浮き彫りにされたのか……。

(考えても仕方ない……か)

瓦礫の山となった自室で、俺は一人物思いにふける。ともかく、ここでこのままにしていては……埒が明かない。
最後の夜、世界が崩壊を迎える前に、行かねば成らない所が在ったはずだ。

「セイバー、遠坂……誰か、居ないのか?」

瓦礫の山を掻き分け、俺は崩れた塀を乗り越えて、屋敷の外に出る。
幸い、崩壊したのは俺達の住む屋敷だけのようだ。普段の夜の町並みに、幾分ほっとしながらも、俺は行き先を考える。

たしか……新都に行かなければならない。最後の時を迎えるため、新都で最も天に近い場所に行かなければ――――。
時間は限られている。俺は可能な限り、息が続く限り、新都へ向かって走った。

海浜公園に、たどり着く。遠くには、空へと立ち昇る新都のビル群。その最たる高き屋上に、天へと続く赤い光が見て取れた。
まだ、間に合うかもしれない。希望を持って、俺は橋へと向かい――――大橋が消失している事に、愕然とした。



新都と深山町を繋ぐ架け橋。それが、いかなる魔術か、橋の中ほどがポッカリと消失していた。
周囲には焼け焦げた魔力の残滓。激しい戦闘は、如何なる物証も残さぬほどの、完全な破戒によって締めくくられていた。

もはや、この大橋は使えない。どうする――――俺は迷いを見せ……その瞬間、俺は自身を見失った。
迷いを見せては成らなかった。いかに困難であろうとも、俺には進むしか選択肢が残されていないはずなのに……。

次の瞬間、目が見えなくなった、鼻が効かなくなった、ありとあらゆる感覚が遮断され、俺が今、どこに居るのかさえ分からなくなった。
そうして俺は――――オレは……、もとのオレに戻ってしまった。

暗くなった視界に、周りに蠢く者が見える。それは、オレと同じ、迷ってしまったシロモノ。
反転する世界の中、それは蟻のように無数にオレの周囲に現れた。いや、オレがこちらに戻ってきてしまった、というのが正しいか。

声が喉を通り、大気を振るわす。無数のオレは、崩壊した橋を渡り、新都へ向かおうとする。
だが、その身体は遥か虚空より飛び来る、一撃必中の武具に貫かれ、爆散し、崩壊を繰り返していた。

視界に、世界がよみがえる。先ほどまでは無かった一つの事実。砕けた大橋のアーチに陣取り、オレを狩る二人組み。
赤い女、朱い騎士――――たった二人の抵抗者は、オレたちめがけ、なおも攻撃を続けている。

『これで、どれくらい片付けたかしら、アーチャー……!?』
『さて、数えるだけ無駄だろうな。相手は無尽蔵な貯蓄(ストック)を持っている。私達に出来ることは、敵を食い止めるという事実の上書きだけだ!』

女の宝石魔術が、騎士の弓から放たれる武具が、橋の一部を削ぎ取り、オレをまた一つ消失させた。
そうして、次はどうやらオレ自身のようだ。騎士が構える弓が、明確に俺を狙っているのが知れる。

周囲の俺がいくらやられようと、オレの記憶は消えない。しかし、オレ自身が消えれば、もはやこの先を見続けることは出来ない。
それが、ほんの少し心残りだったが、まぁいいだろう。どのみち、オレはたどり着けなかった。
あの場所へ行くのに、どれほどの繰り返しが待つか分からない。だが、他のオレに期待をするほか無かった。

そうして、いつかの時のように、オレの額めがけ、躊躇無く、弓兵(アーチャー)は矢を放った。
世界が、ブラックアウトする。消えてゆく記憶の中で、オレは……何がいけなかったんだろうと、最後にそう思ったのだった。

Dead End Restart ....



※出会いの場所

目的が無ければ、道に迷う。ただ一人の例外である彼女に、会いに行かなければならない。
きっかけを探すため、今一度、町中を散策してみるべきだろう。