〜Fate Hollow Early Days〜
〜プロローグ〜
そうして、オレは見慣れた場所へと戻ってきた。古めかしい調度品の並ぶ、洋館の一室。
無限に繰り返す、終着と始発との結合点――――……オレはそこに、ただ一人ぽつんと発生した。
「バゼットは―――……やっぱ、居ないよなぁ」
今頃あの堅物は、物事の終着点、聖杯の孔に引きこもっていらっしゃるだろう。一歩も踏み出せないまま、その場に頑なに留まり続ける頑固さには呆れる。
ま、それも今では、さほどの意味も生じはしないだろう。衛宮士郎は、すべての因果を成立させてしまった。あと何回か繰り返せば、確実にその身は奇跡(聖杯)に届く。
「しかし、そうすっと……オレはどうするかねぇ」
バゼット自身が望んでか否か、本人が大元にいるのでは、聖杯戦争の続きは引き起こせない。
もともと、バゼットの願いから始まった今回の戯曲――――主演女優がいない状況で幕が上がるはずもなかった。
ま、どの道まだこの身は、螺旋の因果にとどまっている。何をしてもしなくても、4日間までしか生きられず、いくら死んでも4日目にはリセットが掛かる。
このまま何もせず、ただ消えるのもありと思うんだが――――、
「おお、そう言やぁ……あれを完成させないとな」
部屋の隅に移動する。そこには変わらず、中途半端なままの合わせ絵が転がっていた。
そろそろ、終わりそうな気がするのはこっちも一緒か……感慨深げに、そんな事を思いながらパズルのピースを動かしてゆく。
そうして、程なくして、意外にもあっけなく絵は完成してしまった。小さな白い花の、そっけないパズル。
拍子抜けしたオレだが…………しかし、完成して程なく、おかしな違和感に気がついた――――それは。
「……あれ、この穴の部分って、どこにあるんだ?」
パズルとしての絵は完成しているのに、最後の部分――――ぽっかりと穴の空いた部分に嵌め込むべきピースが、どこにもなかった。
どこかに落ちているんだろうか。少なくとも、ここまで完成させておいて……肝心な部分が無いのでは、物足りない。
…………ったく、めんどくせぇなあ。ま、時間はゆっくりあるし、部屋の中を調べて、無かったらあちこち探してみるとしようか。
幸いにも、時間は腐るほどある。この世界の隅から隅まで探せば、それらしいものも見つかるだろう――――。
…………そんな、どこかの誰かの夢を見た。
「――――……」
寝ぼけた頭を振り、オレは――――俺は、一つ息をつく。明け方の部屋……普段はそっけない自室に物があふれかえっていた。
どうも、記憶があいまいだが……どうやら藤ねえが昨夜、俺の部屋に……また宅配便のごとく山盛りのガラクタを不法投棄したのだろう。
それを片づけしているうちに、そのまま倒れこむように眠ってしまったらしい。
「――――ぁ――――あ――――……」
かすれる喉から声が出て、俺はホッと胸をなでおろした。まるでさっきまで、自分の身体じゃないものに生まれ変わったような感じだったからだ。
声が出たら、後は簡単だった。脱力したままの四肢に力が戻り、俺は一つ伸びをして、明け方の眠気を払い落とした。
「ん、今日もいい天気みたいだな。そろそろ起きるとするか……!」
今日も外は快晴。そっけないほどの良い天気のようだ。さて、顔を洗ったら台所に行くとしようか。
ガラクタは、また後で片付ければいいし、せっかくの澄んだ朝――――冷たい空気でも胸一杯に吸っておくとしよう。