〜Fate Hollow Early Days〜 

〜ぷるぷるーん・ヨーグルト〜



「あ〜、いいお風呂だった」

皆が入った後、最後にお風呂に浸かって温まり終わり、ガスの元栓を締めてから一つ伸びをする。
ずいぶん長い間入っていたから、少しのぼせてしまったようだ。喉が少し渇いているような気がする。

「一杯引っ掛けてから、寝ることにしようか」

もちろん、一杯というのは間違ってもビールではない。台所にいけば、何か飲む物があるだろう。
無いなら、汁っ気の多い果物でも切るなり剥くなりして代わりにすることにしようか。
そんな事を考えながら、俺は浴室を出て、居間に向かうことにした――――。



居間に入ると、そこには先客がいた。最初それは、ちょっと誰だか判別がつかなかったのだが――――。

「あら、士郎じゃないの。お風呂はもう上がったの?」
「――――誰かと思ったら、遠坂か。髪を下ろしてたから、分からなかったな」

寝る前なのだろう。緩やかな黒髪を結ぶことなく流し、普段着の遠坂がのんべんだらりと寛いでいた。
その手元には、ガラスの器に入った白いもの。スプーンがささったそれは、ふるふると震えている。

「――――それ、なんだ?」
「これ? 単なるヨーグルトだけど。ま、一応、遠坂家特性のだけどね」

そう言って、容器を差し出してくる遠坂。何か、ヨーグルトにしては弾力があるような……ぱっと見、プリンに近いような気がする。
俺が黙っていると、遠坂はヨーグルトを口に運んでは、まるでセイバーみたいに満足そうに頬を緩ませた。

「うん、なかなか美味くできたわね。久しぶりだから、ちょっと不安だったけど」
「それは良かったな。だけど遠坂……寝る前にそんな甘いもの食べて、太らないか?」

俺のその言葉に、遠坂は硬直――――しなかった。どこか得意げな表情すら見せている…………何でだ?
疑問が顔に出ていたのか、遠坂は、にこやかな表情で眼鏡を掛けた。おお、どうやら説明してくれるらしい。

「ま、普通ならそうでしょうけど、これはちょっと特別でね。発汗作用を持つ粉末や、身体代謝を良くする鉱石が入ってるの」
「鉱石って……宝石のことか?」
「ううん、普通の石よ。ま、石といっても人体には無害だし、それも砂粒みたいなのが数個だからあまり目立たないけど」

つまりは、このヨーグルトには汗を掻きやすい成分と、身体を良く保てるようなものが入っているって事か……。
寝る前に食べる、ダイエット食品のようなものなのだろうか――――。

「ま、概ねそんな所ね。ここの所あまり食べてなかったけど、久しぶりに作ってみようかなって」
「ふぅん…………遠坂も、いろいろ苦労してんだな」

不摂生な生活をすることが多い魔術師。時には何日も徹夜することもあるのに、遠坂のプロポーションが一定に保たれてるのは努力の結果なのだろう。
遠坂はというと、俺の言葉に、はぁっ、と深い深ぁーい……溜息をついていたりする。

「そうなのよね。本当は無理をするつもりは無かったんだけど、このままだと一方的に離されるっていうのがね」
「――――?」
「だいたい、同じものを食べてるってのに、何であっちは発育が胸にばかりいくってのよ!」

がー、とお怒りになられる遠坂。いや、そんな事を俺に言われても…………なるほど、遠坂の専らのライバルは実の妹らしい。
まあ、確かに馬肥ゆる秋というか、ここの所……ちょっとばかり発育が良くなったようで、目のやり場にも少し困っていたのだけれど。

「ま、あまり気にするな。人の良さってのは、別に肉体的特長だけじゃないと思うぞ」
「衛宮君は、比較対称が居ないからそう言えるのよ――――ごちそうさま」

と、気づくといつの間にか遠坂はぺろりとヨーグルトを平らげてしまっていた。あっという間の早業である。
さっそく薬膳が効いてきたのか、遠坂の顔に赤みが差す。なるほど、寒い夜とかには便利なのかもな。

「ん…………さて、身体もあったまってきた事だし、寝るとしますか」
「そうか、いくら暑いからって、布団を蹴飛ばして寝るなよ」
「冗談、いくらなんでも、そこまで寝相は悪くないわよ。何なら――――、一緒に寝て、確認してみる?」
「っ」

ドクン、と急に身体が熱くなった。まったく、のぼせたばかりだってのに、また俺は遠坂にあてられてしまった。
そんな俺の反応に満足したのか、遠坂は満足そうな表情でこっちを見ている。

「ね、どうするの…………?」
「――――寝る」
「――――え、ええ!? ちょ、ちょっと、衛宮君」

わてわてと、急に挙動不振になる遠坂。いったい何を慌ててるんだろう。俺は溜息をつき、遠坂に背を向けた。

「ここに居ると、からかわれてばかりだからな。部屋に戻って寝るよ」
「あ――――そ、そういうことね……はは」


拍子抜けしたように苦笑する遠坂。まだ少し喉が渇いてたが、別段、我慢できないわけじゃない。
最後に一言声をかけて、俺は居間から出て、自室へと向かうことにした。それにしても――――、

「遠坂もあれで、いろいろ苦労してるんだな」

今度、ダイエット関係の本でも買ってきて、ちょっと料理の勉強でもしてみようか。
レパートリーも増えることだし、それはなかなか、良いアイディアのような気がした。