〜Fate Hollow Early Days〜
〜拙い思い出〜
「ったく、また藤ねえは訳の分からない物を持ち込んで…………」
その日の午前中、取り立ててする事も無かったため、部屋の大掃除をすることにしたのだが――――何か掃除をするたびに、物が増えているような気がしてならない。
今日も今日とて、片付けを始めようと考えて改めて見ると、いつの間にか部屋には無数の段ボール箱が転がっていたのである。
そのうちの一つを開けてみる。中には昔ながらの玩具や、よく分からないカード類にトランプ、将棋やオセロの類まであった。
「古くなってるけど、綺麗にすれば、まだ使えるのもありそうだな……」
今度、暇ができたときにでも皆でトランプでもやってみようか――――意外に白熱しそうな気がする。
他にも使えそうなものといえば、オセロや将棋――――あとは…………手を伸ばしてダンボールの奥底を探ると、雑多なガラクタの中で、何か指に当たる感触があった。
「よっ……と」
二本の指に力を込めて、それを引っ張り出してみる。最初は朽ちた何かの箱かと思ったが、よく見ると……それは古ぼけた写真立てだった。
何が写っているのかと、埃にまみれた表面を拭いてみる。そこには、意外な写真が写っていた。
「これって、切嗣と藤ねえ…………か?」
今と変わらない、中庭から見る屋敷の風景。縁側に腰掛けて、切嗣と藤ねえが写っている写真。
ほんの少しの間を空けて座る二人。切嗣は俺の思い出そのままに、飄々とした表情で笑っている。藤ねえはどこか緊張した様子で、切嗣のほうに視線だけを向けていた。
「まったく、こうして見れば傍からバレバレだったのに、藤ねえにしてみれば必死だったんだよな」
そう、このころの藤ねえは、切嗣に会うことが目的で、屋敷に入ってくることが何度かあった。
そのたびに、俺と衝突しては、仲良くなっていったんだっけ――――過去に思いを馳せるが、新たな日々の記憶に埋もれ、なかなか明確には思い出せなかった。
「ああ、そういえば……このころの藤ねえって、髪を纏めてたんだっけ……」
くせっ毛をポニーテールにした藤ねえの姿。こうして写真を見てれば思い出せるが、普段では到底思い出せないだろう。それは、遠い過去の記録。
俺が新たな家族を得た時期――――切嗣が生きていた時間、藤ねえが俺と出会った頃の時間が、古ぼけた……この、何の変哲も無い写真に込められているような気がした。
「さて、これはどうするかな……」
ひとしきり写真を見終わった後、俺は……写真立てをガラクタの中に戻そうとし――――そこで、思いとどまった。
どうして藤ねえが、こんなガラクタの中に写真をしまったのかは分からない。しかし、これは紛れも無い、藤ねえの思い出の品だった。
一度、本人に確認を取ったほうが良いだろう。写真立ての風景に大切な何かを感じ、俺はこれを、藤ねえに渡してみることにした。
「そうだな――――どこに仕舞ったのか分からないままで、ガラクタの中に埋もれたって可能性もあるしな」
昼食か、夕食の時間くらいになれば、藤ねえの事だからひょっこり姿をあらわすだろう。
その時に写真を渡せば良いだろう――――ひょっとしたら、俺が忘れている、昔の出来事を話してくれるかもしれない。
「さて、そうと決まったら藤ねえが戻る前に他の事を済ませておくとするか」
改めて俺は、部屋を占拠するガラクタを片付けることにする。と、その前に、俺はもう一度、拙い過去を示す写真を見つめることにした。
古びた写真の中で、俺の大切な家族である、切嗣と藤ねえの二人は、微笑みと憧憬の表情を浮かべて今もそこに写っている。
それは、藤ねえの思い出――――いつか、どこかに置き去った……大切な思い出なんだと、俺は不思議とそんな風に感じていたのである。