〜Fate Hollow Early Days〜 

〜侍と野花と王さま〜



ふもとと山頂をつなげる、長い石段。円蔵山の中腹にそびえ立っている山門には、時折アサシンの姿を見かけることもある。
何とはなしに気まぐれに立ち寄ったものだが、せっかくだから一成に会いに行ってみようか。
長い長い石の階段を進む。そうして、山門付近に着くと、辺りが妙に騒がしいことに気づいた。

「――――?」

山門から、小さな子供達の笑い声が聞こえてくる。そちらのほうに目をやると、寺の境内に――――子供達と戯れるアサシンの姿があった。
なにやら小刀を持ち、木片を削っている。その手元を、興味心身に見つめる子供達。

「そら、できたぞ」
「おお〜、すげーっ、馬だぜ、馬!」
「学校の先生より上手ー! 私にも触らせて!」
「小次郎、次は鶴、鶴を彫ってくれよ!」

アサシンの周囲を取り囲み、やんややんやと騒ぐ子供達。と、その近くに見知った顔を二つ見つける。
遠坂のクラスの三枝と――――いつかに出会ったことのある、英雄王(小)である。

「あ、衛宮君、こんにちは」
「こんにちは、おにーさん」

陽だまりの様な眩しい笑顔をする二人。アサシンはというと、その声に俺のほうを一瞥するが、ふっ、と笑みを浮かべただけで手元に視線を戻した。
シャリ、シャリ、と流れるような手つきで木片を削る。長刀だけでなく、刃物の扱いはやはりどれをとっても一流のようだった。

「――――……」

他の子供達と同じように、瞳を輝かせてアサシンの手作業を見物する三枝。それとは対称に、退屈そうなのは、ギルガメッシュこと子ギルである。
俺は見物している子供達の邪魔にならないように、その場から少し離れてから、ちょいちょいと子ギルを手招きする。
向こうも暇をもてあましていたのか、俺の手招きに気づくと、トテトテと雛鳥のごとくこっちに駆け寄ってきた。

「何か御用ですか?」
「いや、御用というか、一体これはどういう状況なんだ?」

柳洞寺の片隅に出現した、いきなりの団欒風景は、確かに微笑ましいが――――なんとなく違和感が無いでもない。
そもそも、子供が普通……こんな所まで遊びに来ることは無い。遊ぶ場所なら、海浜公園や新都のあたりが妥当だからだ。
そんな俺の疑問を察してか、子ギルは困ったように、ふぅ、とため息をついた。

「それなんですけど、由紀香の提案で今日は幽霊の見物に来たんですけど……」
「幽霊――――」

その言葉を反芻し、俺は三枝たちのほうを見る。庭に面した縁側で、侍姿の英霊を囲んで子供達がはしゃぎ、三枝はそれを優しい笑顔で見つめていた。
そういえばどこかで、アサシンと三枝のそんな約束を耳にしたような気が――――……。

「その幽霊が、彼だとは思いませんでした。もう、すっかり人気者で、僕の立つ瀬が無いんですけどね」

はぁ……と、今度は幾分深めのため息をつく子ギル。子供達の人気者だったギルガメッシュにとって、アサシンの出現は少々問題のようだ。
まぁ、それでも即行で排除行動に出ないのは、慎み深い子供の状態だからだろう。

「それは気の毒にな――――って、それはそうと、アサシンって山門から動けないはずなんじゃ」

寺の中とはいえ、厳密にはここは、山門からかなり離れている。山門から動けないって呪いが掛けられていると、本人が言ってたはずだけど。
俺の疑問に、ああ、と子ギルは苦笑を浮かべると、

「それも、僕のせいです。いや、正確に言うと、彼のマスターであるキャスターの仕業なんですけど」



ことの詳細はこうである。三枝に連れられて山門にきた子供達+子ギル。最初は山門にアサシンの姿は無かった。
もともとアサシンとしては、あまりおおっぴらに他者に姿を見せる気は無かった。
雇い主であるキャスターが口うるさいのが原因らしいのだが。そんなわけで、アサシンは山門の上に登り、隠れていたのだった。

「あれ……? おかしいなぁ。小次郎さん?」

そんなこととは露知らず、子供達をつれた三枝は、そのまま山門から寺の境内に入り――――庭を掃除していたキャスターと鉢合わせになった。

「あら、いらっしゃい。珍しいわね、子供達がこんな所まで――――……!?」
「や、こんにちは。稀代の魔女さん」

子供達の集団の中に、ギルガメッシュがいることに気づくキャスター。まぁ、どうあっても目立つ彼を、見逃すことのほうが難しいだろうけど。
その時の、キャスターの慌てっぷりは見ものだったらしい。まぁ、彼女の死亡原因トップを行く英雄王が子供の姿とはいえ……いきなり現れれば驚きもするだろう。

「な、何で貴方が……こんなところに――――ええいっ、アサシン、何をやってるのよ!」
「?」

慌てるキャスターと、事の次第を理解しておらず、キョトンとする三枝と子供達。キャスターはギルガメッシュを睨みながら、口内で呟きを放った。
キャスターの手に持った竹箒が光を放つ。そうして、まるでその竹箒の光に引っ張られるように――――アサシンが空から降ってきたのであった。



「何でも、一時的に寄り代を移す術とか何なのか、そんなわけで、今の彼への束縛は、あの竹箒に集中してるみたいですね」

ギルガメッシュの指し示す先、団欒の傍らに、ぽつんと一本竹箒が立てかけられていた。
何のことは無い背景に、そんな意味が隠されていたとは――――世の中、まだまだ奥が深いな。

「なるほどな……まぁ、いいや。知りたいことも分かったし、俺はそろそろお暇するよ」
「そうですか。僕としても、こんな所にあまり長居はしたくないんですけどね……何しろあの魔女がアサシンを置き去りにして何をやっているのか不安ですし」

呪いの儀式の準備とか、してなきゃいいけど……などと不安そうに呟く、ギルガメッシュ。
ありえそう、というか、おそらくそうであろうから怖い。何せ、搦め手、不意打ち、権謀術数に長けているのがキャスターだからだ。

「まぁ、孝太たちのお守りを彼がやってくれると思えば、けっこうこの状況は悪くないですけどね。今なら由紀香をデートに誘うのに邪魔が入らないし」
「――――……」

そんな状況でも、暢気にそんなことを言うのは、やはり根が同じ人物だからか。状況を唯我独尊に判断するのに長けているようだ。

「三枝にちょっかい出すのも、ほどほどにしておけよ。なんだかアサシンも三枝のことを気に入ってるみたいだし、燕返しで三枚に下ろされても知らないからな」
「忠告は、ありがたく受け取っておきますよ。それじゃあ僕は、皆のところに戻りますから」

輝くような笑顔を見せて、子供達のほうに走っていく、子ギル。
――――さて、俺は俺で、ちょっと境内を見て回ってみるか…………。