〜Fate Hollow Early Days〜
〜くーるな女〜
夕食が終わり、とりたて何もない時間が流れる。今日は洗い物が少なかったので、桜が全部やってくれている。
セイバーは食後の運動をするとかで、居間から出て行き、ライダーも読みたい本があるからと、自室に戻った。
残された面々は、秋の夜長をまったり〜〜〜〜と擬音が出るくらいのノリで過ごしていた。
テレビからドキュメント映像が流れている。身近な驚き映像を流したり取材したりするやつである。
そんな番組をボーっと眺めていたあるお方が…………、
「教師じゃなくて、ニュースキャスターってのも良かったかもしれないわね〜」
などと、せんべい片手にポツリと呟いたのが始まりだった。
「――――唐突に、何だよ藤ねえ。そういうのに興味あったのか?」
そう、何とはなしに呟きを放ったのは、冬木の虎こと、藤村大河先生その人である。
奔放無法、荒唐無稽を地で行く藤ねえのことだから、多分に思いつきで行ったものだと思うが、念のため聞いてみたのだが……。
「ん〜、たった今、何となくね……ほら、取材をする女性記者さんってクールビューティって感じじゃない?」
「――――それって、タイガとは正反対の言葉よね」
やっぱり思いつき出会った藤ねえの発言を一刀両断で切り捨てたのは、俺の隣で涼んでいたイリヤである。
「そ、そんなことないわよぅっ……こう見えたって、行動力はあると思うし――――ね、士郎。私が記者になったら良い仕事できると思うでしょ?」
「ん〜」
藤ねえの言葉に、俺は考えてみる。確かに、藤ねえは行動力はあるし、意外に体力勝負らしいそういう職種にも向いているだろう。
しかし、しかしである――――。
『はーい、こちら藤村リポーターです。最近、真夜中の新都に怪しい快人物がいるということで取材に来ました〜』
『とりあえず、町の皆さんにそれとなく意見を聞いてみましょう。それでは、通りすがりの人、どうぞ〜!』
(黒い影、何気に現れる)
『……って、マーベラス! いきなりボスキャラにエンカウントっ!? あ、ちょっと、カメラさん逃げないでっ!』
『うは、とりこまれているよぅっ……ええいっ、神様仏様、虎神様、私に力を与えたまえ――――!』
(どすん、ばたんと黒い影と死闘を始める大河。その様子を映しながら、カメラは夜の街に消える)
『ふぉ――――! エマージェンシー、エマージェンシー! ブルマっ子部隊よ、通信兵を呼べー!』
「……すまん、どう贔屓目に見ても、バラエティのお笑いリポーターしか思い浮かばん」
「うわーん! なんでようぅっ!」
俺の返答が御気に召さないのか、どすんばたんと暴れだす藤ねえ。そんな様子を見て、事の様子を黙ってみていた遠坂は何の事はなしとポツリと――――、
「ま、人にはそれぞれ適材適所ってものがありますから。良いじゃないですか、バラエティのレポーターなら人気者になれますよ」
「え、そう?」
コロリと、機嫌を直す藤ねえ。遠坂はというと、ふふん、と俺に対して勝ち誇った笑みを浮かべている。
うーむ……いつの間にか、遠坂が藤ねえを手懐ける方法を熟知してしまっているようだった。
「でもねぇ……やっぱりクールなのにも憧れるんだけどなぁ」
「さすがにクールってのはどうかと思うぞ。クールビューティってのはライダーみたいな人を指すもんだと思うし」
俺が呟くと、それに賛同するような空気が居間に流れた。やっぱりみんなも、うすうすそう思っていたらしい。
と、調理場のほうから俺の言葉に反対するように、穏やかな声が聞こえてきた。
「そんなことはありませんよ。ライダーはああ見えても、充分に女の子らしいんですから」
「お、桜。洗い物は終わったみたいだな」
俺の声にはい、と頷く桜。居間に入ってきた桜は、俺の隣に座る。ちょうど俺を挟んで、向かいにイリヤのいる位置である。
「そうですね、クールビューティっていうのなら――――私は美綴先輩みたいな人の事を指すと思います」
「――――それこそどうかしら? 美綴はクールってのはちょっと違うと思うけど」
「そうですか?」
遠坂の言葉に、きょとんとする桜。確かに、後輩である桜からみれば、美綴は頼りになる美貌の先輩なのだろう。
しかし、同学年である俺や遠坂にとっては、きっぷのいい気さくな友人に思えるのだ。
だけどそうすると、誰からみても完全なクールビューティってのは居ないのかもしれないな……そんなことを考えていると、ちょんちょんと袖を引っ張られた。
「ね、ね、シロウ。私は?」
そう言ったのは、アインツベルンのお嬢様こと、イリヤである。期待に目を輝かせているけど、なんと言うか……。
「――――いや、イリヤは違うだろ」
「え、どうして? クールビューティって要するに冷酷な美人ってことでしょ?」
はてな、と首をかしげるイリヤ。そんなイリヤに対し、桜も苦笑しながら言う。
「そうですね。冷酷って言うか、容赦ないところはあるっていっても、イリヤさんの場合、後の方が――――」
「む――――何よ、まるで自分は違うみたいな言い方するじゃない。見た目と違って、中身はドロドロしてるのに」
ぴきっ
…………あれ、なんか空気が凍りついたような――――。
藤ねえも落ちつか無げに、周りをきょろきょろと見渡している。そんな中、冷風とも寒波ともいえる空気が、なんか俺の周囲に展開しだした。
こ、これはひょっとして……完全無欠の微笑みが生み出す、拒絶のプリザードっ!?
「ふふ、言うじゃないですか、イリヤさん。今のはちょっと、胸にズシッと来ましたよ。この実感、分けてあげたいくらいです」
「――――あれば良いって物じゃないわよ。大切なのはバランスって、誰かさんも言ってたわ。いっそ、これ以上大きくならないように呪でも掛けたほうが良いんじゃない?」
バシバシバシッ!!!!
痛い痛い、寒くて熱いっ! いや、どっちかだけでも困るけど――――って、あれ、藤ねえは?
視線をめぐらすと、こそこそと居間の隅から廊下へと足音を立てずに中腰で出て行く藤ねえ。さすが猫科。足音を消すのはお手の物らしい。
そんなことを考えていると、両腕にぴとっ、ふにょん、という感覚があたった。
どうやら、片腕にイリヤ、片腕に桜が抱きついてきたようだった――――どうしろと!?
「せ、先輩はどう思ってるんですか!? やっぱりこういうのは、先輩の好みもあるし……」
「シロウ、シロウは私が好きなのよね!? ホルスタイン見たいに大きいだけが、存在価値じゃないと思うわよねっ!」
二人に挟まれた状態。普段なら、確かにうれしいだろうけど、返答しだいではどちらも夜叉になるこの状況では、冗談抜きで死にそうである。
そんな中、そんなに遠くないはずなのに、居間の隅で楽しそうに事の次第を見つめている。遠坂の姿を発見した。
なんと言うか、無駄だと思うんじゃないかな――――などと不明瞭な判断で、とりあえず視線で救護を求めてみる。返答は――――、
(骨は拾ってあげる――――というか、骨は実験に有効利用させてもらうわ☆)
にこやかに、笑みを浮かべている遠坂が、一言一句も間違いなくそう思っていることを、なぜだか俺は実感できた。
「先輩!」
「シロウったら!」
「は、は、――――……」
声にならず、苦笑を浮かべる俺。本当にクールなのは誰なのか、如何とも分からぬまま、こうして夜は更けていく。
この混沌とした状況は、その後、居間に戻ってきたセイバーが参戦し、更なる惨状になったことを付け加えておこう――――閑話休題。