〜Fate GoldenMoon〜
〜桜の手紙〜
先輩、それに姉さん……お元気ですか?
お二人が冬木市を出て行ってから、もう一月くらいが経ちました。
そちらでの暮らしは慣れましたか? 私が心配するまでもなく、喧嘩しないで、仲良く暮らしていると思いますけど……。
いつも電話などでお互いに連絡をしてますが、それでは話しきれなかった最近の出来事を、手紙に書き綴っていこうと思います。
思い返すと、二人がいなくなっても、私たちの日常に、あまり変化はありませんでした。
いつも、自分のする事をこなしながら、時々、先輩の屋敷にみんなで集まって、そうして騒いでは、日常に戻っていく……。
それは、今でも変わりありません。いつ、二人が戻ってきてもいいように、みんながまるで、意識してそうやっているかのようです。
藤村先生は、相変わらず弓道部の顧問として、みんなの指導に当たっています。
あ、そうだ、弓道部に、姉さんの心友(そう書いて置けと、本人に言われました)である、美綴先輩の弟さんが入ってきたんですよ。
控えめな男の子で、さっそく藤村先生にちょっかいを掛けられて、困惑している様子でした。
学校で、変わったことといえば……そうそう、先輩も出席しましたよね、葛木先生の結婚式。
その葛木先生の奥さんですけど……なんと、つい先日、穂群原学園に、化学の先生として赴任して来たんですよ。
メディア先生は、男子生徒に凄い人気ですけど、葛木先生はあまり気にしていないようでした。
確かに、結婚式の二人の様子を見ると、心配するのも馬鹿らしくなるほどの熱愛っぷりでしたけど……。
(よくよく見ると、その文章の下に消されたあとがある。いつか私も……と書き始めて、慌てて消したらしい)
姉さんの屋敷は、ここ数週間は、時折、泊り込みで掃除をさせてもらってますので、安心してください。
姉さんの屋敷に住み着いてる女の子は、ええと、ジャネットって言いましたっけ。
彼女は、ここ数日、書斎にこもりっきりです。なんでも、先輩と姉さんのところに行く為に、事象移動の魔術を研究してるそうです。
魔術が成功したら、会いにいくといってましたので、お伝えしておきますね。
(「あら、なかなか周到な心がけね。成功すれば、旅費が浮くし、期待して待つことにしましょうか」)
(「――――遠坂、なにもそこまで……」)
先輩のお屋敷の方は――――何と、今日からはイリヤちゃんが、住み着いて生活することになりました。
なんでも、住んでいるお家のほうが、全面的に改装に入るらしく、その間、先輩の家を生活の場所として使うことにしたらしいです。
聖杯のマスターであるイリヤちゃんですけど、先輩がいなくなった日から、だいぶ落ち込んでいました。
でも、ここ数日は吹っ切れたのか、また明るく爛漫な仕草で藤村先生と和気藹々と過ごしています。
聖杯の力を手に入れたイリヤちゃんですが、最近はその力で、冬木市の全域を支配しちゃっているみたいです。
もっとも、ライダー曰く「実害はないですので、放置しておけばいいと思います」だそうですけど……。
今日の引越しは、私も手伝う事になりました。けっこう、凄い模様替えでしたよ。
二人が帰ってきたら、きっと仰天するんじゃないでしょうか。今から楽しみです。
……そういえば、イリヤちゃんのメイドさんが、一人増えたのを、ご存知ですか?
名前はヒルダさんといって――――先輩と一緒に映画を見に行ったときに、出会った女の人です。
イリヤちゃんの親族の人で、身寄りがなかったので、彼女が身元引受人になったそうです。
ヒルダさんと一緒にいた……もう一人の男の人のことを聞いたら、何となく寂しく笑うだけでした。
なにか、あったんでしょうけど……何となく気がかりな人でした。
(「ヒルダさん……アインツベルンが引き取ったって聞いてたけど、どうやら元気らしいな」)
(「む、なんだか嬉しそうね、士郎」)
(「な、なんだよ、何を怒ってるんだ、遠坂」)
(「さ〜、どうしてでしょうね?」)
私はといえば、姉さんの管轄であった、遠坂の仕事をこなしながら、ライダーと二人三脚で日々を生きています。
相変わらず、冬木市の外には出づらいですけど、ライダーと一緒なら、数日は外出できる事が分かりました。
でも、あまり外の世界に外出をする気は起きません。私にとって、この町は家であり、安心できる場所ですから。
だから、私はこの町を住みよくするように、色々と頑張っていこうと思います。
いつでも姉さんが、先輩が帰ってきてもいいように、頑張っていきます。
ですから、気が向いたときにでも、どうか返ってきてくださいね。私もライダーも、藤村先生も、イリヤちゃんも、みんな待ってますから。
……数日前、色づき始めた桜の花を、同封して送っておきます。
きっと、そっちに着くころには色あせちゃっているでしょうけど……それでも、互いに桜の花を見るという約束を果たす為に。
また、お手紙をお送りします。それでは、また、出会う日まで。
(桜、元気でやっているな……そういえば、結局、ギルガメッシュのことは書かれていないか)
(「ん? どうしたの、士郎」)
(「いや、なんでもないんだ……あれ?」)
追伸・ライダーはなんだか、最近、落ち込んでいます。
なんでも、「シロウのような、味わいの相手がなかなかいない」って言ってましたけど、先輩、ライダーに何かしました?
あの、その……出来れば詳しい事を聞きたいなあって思ったので、追伸として書いておきますね。
(「…………」)
(「…………」)
(「…………さて、後片付けをしないとな」)
(「…………それはいいから、ちょっと座りなさい、っつーか、座れ」)
(何気に殺気立つ、遠坂。さて、どうしようか……俺は苦笑して、桜の手紙をテーブルの上に置いた)
(ともかく、遠坂が遅刻しないように、時間だけは気を配っておこう。そうして、朝の食卓は、おおむね平穏に? 過ぎ去っていったのであった)
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