〜Fate GoldenMoon〜 

〜死闘〜



"Mywholelifewas――――unlimited blade works"

その言葉は、何処より聞こえてきたのか、それはこの身が刻み込んだ記憶にはないもの。それでも、俺はそれがどういったものか、瞬時に理解できた。
炎が、疾る。全てを焼き焦がすように、世界を塗り返すかのように、書き換えるかのように精製してゆく。

地には無数の剣が衝き立ち、空には軋んだ歯車が回る。俺達を取り込み、場を形成したのは、一つの世界の果て――――おそらく、アーチャーの能力だろう。

言うなれば、それは――――無数の剣の精製所。その主である赤い騎士は、世界の中心に立ち、静かに俺を見据えた。

「行くぞ、私の全てを使い、貴様という存在を消し去ってみせる」

その言葉には侮りはなく、その目には決意がともり、身体から染み出す気迫に、思わず喉がなった。
勝てようはずもない力の差――――未だ若輩の身である俺と、英霊という位を得たアーチャー(エミヤ)。その差は埋めようはずもない。

ただ、俺が持ちえて、相手の持ち得ないものもある。それは――――、

「口上は良いが、我の存在をないがしろにしてもらっては困るな。それに、偽者がただ一人で、これほどの数の英霊を相手に拮抗しえると思うか?」

呆れたように言葉を放つのは、ギルガメッシュ。俺の前に出て、先陣に立つように剣を構えるのは、ジャネット。
イリヤを地面に下ろしたバーサーカーは、唸り声を上げながら剣を構え、桜を背に負うライダーも、必要とあれば参戦する意思があるように、頷く。

それは、明らかに力関係から言っても圧倒的であった。この世界がどのような力を持っているとしても、複数の英霊相手にまともに戦いになるとは考えにくい。
しかし、それでもアーチャーの顔には断固とした決意が見えた。それは、いかなる事を持っても覆せぬ、鋼の意思。

「もちろん、思ってはいないさ、英雄王。だが、この”無限の剣製”内においての戦は、私に一分の長があることを、お前は知らない」

その言葉と共に、大地より生み出された十数本の剣が、アーチャーの周囲に浮かぶ。
生み出された剣を見て、俺は違和感を覚えた。それは確かに、名剣の類なのだろう。ただ、その剣が全て、同じものであったのだ。

「――――あれは!?」

その剣を見て、驚愕の声をあげたのは、ライダー。皆が、その声に気を取られた瞬間――――、

「――――dance of sword」(舞え、剣の如く)

アーチャーのその言葉と共に、周囲に浮かぶ剣群が意思を持ったかのように飛翔を始める。
いや、それだけではない。剣の柄より、それを握った手が現れた、手から伸びた先は腕につながり、肩、胴体へとその姿を現す。

それは、剣によって選ばれた持ち手か、亡霊とも生霊ともつかない騎士達が、その呪と共に、忽然とこの場に現れたのである。

「神代の名剣には、自らの意思で戦う剣が、幾本もあったらしいな。決戦を前に、これを見ることが出来たのは行幸というべきか」

その言葉と共に、アーチャーの周りには再び、同一の剣が無数に生み出される。
何をしようとしているのか、容易に想像がつく。いくら出鱈目な状況とはいえ――――、

「くっ、そうは――――」
「応酬せよ!」

アーチャーのもとへと駆け寄ろうとするが、それよりも早く、機先を制するかのように、アーチャーに生み出された十数体の魔剣の騎士が、俺達に迫ってくる!
半数は空を飛び、半数は大地を駆ける……それは、神代の時代より現れし、異形の集団――――!



「くっ――――!」

振るわれる斬撃を紙一重でかわす。騎士達の実力は、生半可なものではなかった。
その鋭さ、強さは英霊には劣ると言えど、英雄級の強さは持っているのかもしれない。

俺に攻撃を仕掛けてきたのは、魔剣の騎士のうち一体。ジャネットに二体、ライダーに一体、残りはバーサーカーへと襲い掛かっていった。
俺は身をかわしざま、反射的にその脇腹に干将を叩き込む! 魔剣の騎士は僅かに後退し、しかし再び、何事もないかのように襲い掛かってきた!

「なっ!?」

慌てて剣を構えなおすが、居を疲れた分、遅れ――――その瞬間、駆け寄ってきたジャネットの剣が、騎士の剣を両断した。
騎士の姿が掻き消える。おそらく、剣の方が本体だったのだろう。その剣も、折れると共にその身を中空へと消失させる。

「大丈夫か?」

聞いてくる声は、そっけない。それでも、その言葉には僅かに親しみを感じたのは、錯覚ではないだろう。

「あ、ああ。ジャネットの方は――――聞くまでもないか」
「当然だろう? いくら虚を突かれたと言っても、あれくらいの相手に遅れをとる理由はない。だが――――」

その時、世界を震わすような怒号が、剣製の場に響き渡る。
俺とジャネットが、そちらを見ると、そこには目を疑うような光景が繰り広げられていた。

「――――――――!!」


巨体が、地を揺るがす。その豪腕が一振りされるたび、大地が砕け、魔剣の欠片が砕け散る。
その戦闘能力において、最狂に由来されるバーサーカー……魔剣の騎士などは片手一振りで瞬殺するほどに、力の差は圧倒的であった。

しかし、その差すら凌駕するほどに、バーサーカーへと襲い掛かる騎士の数は、膨大であった。

最初の十体を倒せば、その次は二十体、二十体を倒しつくす頃には、さらに新たな騎士がと、ひっきりなしに攻めかかってくる。
まるでそれは――――巨大な熊が、狼の群れに襲われているかのような錯覚を、その光景に見ることが出来た。

バーサーカーは踏みとどまり、騎士達を迎え撃つ。後退するわけには行かない。
その背後には、マスターである銀髪の少女がいる。肉体能力において、彼女が最も脆弱であり、故に彼女に敵の手を及ぼすわけには行かなかった。

宙を駆け、彼女へと襲い掛かろうとする騎士達は、桜を背負ったライダーが迎撃している。

踏みとどまりつつ戦う、雄々しきヘラクレス。宙を駆ける、華麗なるメドゥーサ。
しかし、時が立つにつれ、ヘラクレスに対する敵の攻撃は密度を増し、その巨体を飲み込もうとするかのようであった。



「…………すごいな」
「ああ、流石にあれだけの数を食い止めるのは容易ではないが――――あれでは、何時まで持つか知れたものではないぞ」

ジャネットの、その言葉の通り。増え続ける魔剣の騎士の群れは、まるで巨岩を飲み込む濁流の如く、いつ決壊してもおかしくない力関係にまで傾いていた。
しかし、どうすればいい? 同じように投影で対抗するにしても、あれだけの数を生み出せるはずもない。だとすれば――――、

その時、風の途絶えたその世界に、凪が、旋風が、暴風が生み出された。

「――――!?」
「あれは――――!」

吹きすさぶ風の先、刃のない槍のような剣を持った、ギルガメッシュの姿があった。乖離剣と呼ばれし、その剣。
その様子に気づいた、アーチャーの傍にも、一つの影が浮かび上がった。

「!?」

それは、見たこともない剣だった。握り手と柄の部分は普通。しかし、十字架の如く、その刃は十字を描く剣。
鞘に収めようにも、収めるべき鞘は有り得ない――――その剣をもって、アーチャーはギルガメッシュの方を向く。

ギルガメッシュの剣が、その出力を上げる。空間を断層する風が、周囲に吹きすさんでいく――――!


「まずいっ!」
「きゃっ!?」

俺は、ジャネットを押し倒すように地面に伏せ――――視界の隅に、桜を背負ったライダーが、イリヤを庇いながら同様に大地に伏せるのを見た。
世界が軋む――――描き出されたキャンバスを引き裂くように、烈風を纏う剣を持った英雄王は――――、

「天地乖離す開闢の星――――!!!」(エヌマ・エリシュ――――!!!)

その真名を用いた最強の剣技を、発動させた――――!!



列の最後方、遠方より放たれた烈風。世界を刻み、空間を切り裂き、バーサーカーの脇をすり抜けたそれは、騎士達の大河を苦もなく削り進む!
直線状には、赤い騎士。いかなる武器も、この攻撃には対応しきれないはずである。

アーチャーは、手に持った十字剣を――――突き進む風に向かって投げつけた!
しかし、その様なもので、それは防げる代物ではない。当然の如く、十字剣は風に呑まれ、アーチャーは無手になる。

そうしてそのまま、その旋風がアーチャーを飲み込もうとした刹那――――、

「投影、開始――――」

剣を生み出すのに、投影など必要のない世界で、俺は、アーチャーがそう呟いたのが、何故か理解できた。



その瞬間、全てが純白に塗りつぶされた。世界を抉る旋風は、その光の先に進むこと適わず――――アーチャーの前に、それは姿を現していた。
それは、彼女の鞘。彼女の求めた理想の具現――――それは、絶対の一を持ってギルガメッシュの一撃を拒絶した。

「な、に――――?」

半年前を、思い出す。自分と彼女を繋ぐ絆――――聖剣の鞘は静かに光を放ち、あの時、あの瞬間を思い出す。
共鳴した理想、かなわなかった想い、それは、かつての遠き理想郷――――アーチャーは愛しげにそれを見つめ、そして、それを掻き消した。

後には、ツギハギだらけの空間と、呆然とエアを持ったまま立ち尽くすギルガメッシュ。
そして、アーチャーはその手を頭上に掲げた。一つの光が、その手に集う。それは、十字の歪な刃を持った一振りの剣。

驚いた事に、その剣はあの暴風の中、傷一つ負ってはいなかった。いや、それどころか――――その刃には、信じられない程の魔力が宿っている。
もしかして、乖離剣の魔力を吸い取ったのか――――そう考えた瞬間、肝が冷えた。

アーチャーは、ロザリオを掲げる神父のように、その剣を掲げると――――、

「報復せよ!!」

身を起こした、俺とジャネットに向け、そう宣言した。


ギャァァァァァァァァァァァァァンッ!!!



終末の鈴の音が鳴るかのような轟音。生み出された十文字の光は、俺とジャネットを飲み込むかのように、迫ってくる!
その出力は、おそらくはエアと同等か、それ以上の一撃……防ぐことなどできようもない。

「シロウ!」

遠くで、イリヤの叫ぶ声が聞こえる。世界は徐々に光に包まれ、何も見えなくなっていく。
傍らのジャネットに視線を向けた。彼女は呆然と、迫る光に目を向けていた。その横顔に、セイバーの姿が重なったのは、その時――――、

「投影」

知らず知らずのうちに、俺は右手を前に突き出し、

「開始――――」

口ずさんだ言葉と共に、『全て遠き理想郷』を具現化させていた――――。

宝具紹介

ルーフ(物語上ではアーチャーが投影して使用)

応酬せし者(アンサラー)  :B+    自動型の魔剣。その身を動かす為に生霊を召喚することも出来る。
報復せし者(フラガラッハ) :E〜EX  反射型の魔剣。刀身に相手の攻撃を受け、受けた魔力を射出する事が可能(飛び道具に限る)

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