〜Fate GoldenMoon〜 

〜幕間・駆動する磯基〜


荒れた大地、空の見えぬ柳洞寺の地下にある洞窟の奥深く――――その最深部に、一つの祭壇が設けられていた。
岩と土に囲まれた空間は、それでも圧迫感を感じないほどに、広大な基盤を形成している。
その祭壇の麓、人の寄り付くことのないその場所で、一つの儀式が始まろうとしていた。

中空に、女性の身体が浮かぶ。大聖杯を動かす基となるその身体には、七つの魂が収められている。
その魂の彩は、単一のもの――――新都にその居を築き、殺戮の舞台を作ろうとした英霊の魂が使われていた。

「いよいよ、始まるのか……楽しみだね」

その光景を見て、少年は楽しそうに喝采を上げる。大聖杯を駆動させるのは、少年のマスターである、長身の魔術師。
彼が口にするのは、既に失われた時代の言符――――それが行われるたび、大聖杯は唸りをあげるように、その力を生み出してゆく。

怨念のような、軋むような轟音が起こる――――。
数がそろっているとはいえ、やはり単一の魂では不完全なのか、大聖杯はその力の素を周囲に求め――――周辺の魔力を根こそぎ吸い取ってゆく。

「――――――――」

その光景を、黙ったままで、傍観している英霊が一人。
赤い外套を纏う長身の騎士は、その光景を無感動に見つめていた。

二人が、何を行おうとしているのか、彼は知らない。もとより、その様なものは彼の興味の範疇外であった。
彼がここにいるのは、この大聖杯が遊蛾を集める炎の如く、一人の人間をこの場に呼び寄せるだろうと確信があったからである。

正義感の強い、あの少年の事だ。頼まれてもしないこの状況でも、きっと関わろうとこの場に現れるだろう。
その時は――――、

「随分と長い時を待ったものだ。思い返せば、一瞬のことではあるが」

目を細め、アーチャーは呟く。その先には、まるで篝火のような祭壇とそこで行われている儀式。
決戦の舞台は整った。あとは俳優の到着を待つばかり……その時は、そう遠くないように思われた。



戻る