〜Fate GoldenMoon〜 

〜幕間・商店街の傍らで〜



店舗の壁に背中をつけて、何をするでもなく、学生服姿の少年は、その光景を見ていた。
視線の先には、買い物袋を手に提げて、話をする衛宮士郎の姿。

遠坂凛が、彼の手を引き、その場から立ち去ったあと、彼のすぐ近くから、男性の声がした。

「追跡しないのか? 今なら護衛は英雄王一人。三人でかかれば、倒すことも出来よう」
「追わないよ、今は。そんなに焦らなくても、すぐに戦うことになるんだから……アーチャー」
「それなら良いのだがな……そもそも、何故その様な格好をするのだ? ルーフ」

高校生くらいの少年は、霊体になっているアーチャーの問いに軽く肩をすくめて返答する。

「何でって言われても、この服が気に入ったからさ。他に理由が必要かい?」
「…………」

あけすけとした物言いに、アーチャーはそれ以上何も言わず、沈黙する。
そうして、少年――――ルーフは、傍らにいるであろう、もう一人の英霊に声をかけた。

「それで、アサシン……君の狙ってる女の人って、あの人?」

ルーフ達の眼前を、ぷりぷりと肩を怒らせて歩く藤ねえと、その後に従う、葛木先生が通る。
その姿をみて、しばらく沈黙したのか、アサシンの返答がきたのは、数秒後の事だった。

「いや、違うな。化生の者という点では、あの女人も相当なものではあるが……む、いや待て」
「?」

なにやら気配を感じ、少年は首を巡らし、なんともいえない表情を見せた。



「ううっ、なんでですか、宗一郎様ぁ……」

物陰に隠れ、グシュグシュ泣きながら、歩く藤ねえと葛木先生を追うように、こそこそとついて回る影一つ。
最初は、怒りにまかせて詰め寄ろうかとも思ったが、最悪の結果になるのが怖く、こうして後をつけることしか出来なかったのである。

半泣きのその表情は、実はかなり可愛らしいのだが、本人はその事に気づいておらず、自信なさげに追跡を続けている。
その姿を、見えなくなるまで少年が見送る頃、アサシンが信じられないものを見たという感じで口を開いた。



「…………あの、女だ。私を呼び出し、使役するために山門に縛り付けたのは……しかし」
「なんか、無害そうな人だよね。呼び出したときも、あんな感じだったし、放っておいても害はないと思うけど」
「いや、そういうわけには行かぬ。武士に対し、小姓に対するような態度、扱いを受けたのだ。報復を果たさぬうちは、安心して往生できぬ」

気を取り直したのか、願とした表情でキッパリと言うアサシンに、少年は肩をすくめる。
その表情は、態度とは裏腹に、面白そうに笑顔を浮かべていたりする。

「それじゃあ、決闘の準備をしないとね。君にしてみれば、大道芸のように通りの中央で、立ち会うのは本意じゃないんだろう?」
「ああ。これは私自らの誇りに対する、仇討ちだ。それ相応の舞台であるからこそ、果たす意味がある」
「うん、そうだね、それじゃあ、準備をする事にしようか」

少年は、ゆっくりと歩みを進める。藤ねえと葛木先生の歩いていった道を、足取りをたどるように、ゆっくりと進む。
その傍らには、人の目には決して見ることの出来ない、二人の英霊。
それを従え、ルーフの足どりは、ゆっくりとキャスターへと向けられていたのだった。


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