〜Fate GoldenMoon〜 

〜家政夫は見た、奥様は魔女?〜



お昼の少し過ぎ、マウント深山商店街は、相変わらずの、そこそこの賑わいを見せていた。
食料品を買い込むため、あちこちをフラフラと見て回っていた俺だが、そこに見知った顔を見つけた。

「おーい、一成!」
「ぬおっ、え、衛宮か……!」

商店街の店舗の下、影になる部分に立って、落ち柄なげに周囲を見渡していたのは、俺のクラスメートで、現生徒会長の一成だった。
俺が声をかけると、一成はホッとしたような、困ったような表情を見せる。

「なんだ、一成も買い物か?」
「う、うむ。兄弟子である宗一郎に頼まれてな……本人は先ほど、学校に呼ばれて、何か事件でもあったようだな」
「いや、そこまで聞いてはいないんだが……なにか、慌ててないか?」

なんだかその様子は、いつもの落ち着いた様子とは別のものであった。
言うならば、デートの待ち合わせのとき、クラスメートに声を掛けられたような――――

「一成さん、お待たせいたしました」
「――――!」

背後から声を掛けられ、一成は文字通り飛び上がった。
声のしたほうを見ると、そこには日傘を差した女の人がいた。買い物籠には、食料品が入っている。

温和な表情の美人で、若奥さんといったイメージがしっくり来る女の人だった。
一成は、ギクシャクした様子で女の人の方を振り向く。

「い、いえ、そんなことはありません。それより、買い物の方は終わりましたか?」
「ええ……これで、宗一郎様も喜んでいただければいいのですけど……」
「大丈夫ですよ、兄弟子は、ああ見えて、情が深いですから」

その様子を小耳に挟みながら、俺は一成の様子を伺った。
一成の表情は、明らかに普通とは違っていた。なんというか、完全に舞い上がっているような状態である。

あの、一成がねぇ……友人関係を続けて数年。こんな光景を見るの初めてである。
と、その時、その女の人と、目が合った。

「あの、一成さん……そちらの方は、どちら様でしょうか?」
「ああ、彼は自分の友人で、衛宮といいます。 衛宮、この人は葛木先生の婚約者で、メディアさんという」
「葛木先生の……婚約者!?」

俺は脳裏に、どこか柳のような細身の長身の、葛木先生の姿を思い浮かべた。
目の前にいる女の人と、葛木先生の組み合わせは、あまりにもミスマッチのようにも思えるが、不思議と似合っているようにも思えた。

「しかし、そんな話は聞いたこと無かったけど」
「うむ……実は半年前よりその話はあったのだが、つい先日までメディアさんが、実家の方に帰っていたので……延び延びになっていたのだ」
「ふ〜ん」

曖昧に相槌を打ったとき、妙なことに気がついた。一成と話しこんでいる俺を見ているメディアさん。
その目つきが、何か……睨まれているような感じがしたのである。

「あの、何か?」
「あ、いえ……なんだかとても仲の良さそうに話すんですもの……妬けちゃいますね」
「そ、そんなことは――――!」

笑顔に戻ったメディアさんの言葉に、慌てたように取り繕うとする一成。
そんな様子を眺めながら、俺は内心で首をかしげていた。
さっきのあの表情は、明らかに嫉妬というよりは、殺気に近いものを感じたからだった。

「それよりも戻りましょう。こんな炎天下、立ち話をするのは身体に良くありません!」
「あ、そうですね。それでは帰りましょうか?」
「はい、荷物持ちは自分に任せてください! 女性に荷物を持たし、手ぶらで帰るのは男子の名折れですから!」

慌てきった一成は、またギクシャクとした様子で、そんなふうに女の人を急かす。
そうして、荷物を持ちながら、俺のほうにと顔を向けてきた。

「衛宮、すまないが、これで失礼する。あと、今日のことは遠坂には――――」
「ああ、安心しろ。旧来の友人を売り渡すことはしないさ」

俺の言葉に一成は安心したように頷くと、スキップしそうな足取りでメディアさんの方へと駆けて行った。
完全に舞い上がっているな、あれは。

「しかし、あの葛木先生の婚約者か……」

どことなく気にはなったが、とりわけ害のある相手でも無い様なので、俺は気にせず、買い物を再開することにした。
まだ日差しは暑く、日の高い、そんな時分の出来事だった。

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