〜Fate GoldenMoon〜 

〜Another Seven Day〜



教会が燃えている。地下から出火したと思われた炎だったが、どうやら教会のあちこちからの出火があったようだ。
死者を多く孕んだ教会は、死者を送るかがり火のように、その炎を天まで吹き上がらせていた。

いつの間にか、銀色の髪の二人は姿を消していた。
俺達はへたり込んだままで、その光景を見ていた。何はともあれ、これで一段落は着いたんだろう。

聖杯戦争はまだまだ続く。それでも、今はこの戦いを無事に生き残れたことに感謝しよう。
頭上には金色の月。晴れ渡った夜空は、一本の流れ星とともに俺達を見守っていた。


「ねぇ、何か新都の方が騒がしいんだけど」
「本当ですね、あちらも明るいし、まるでお祭りのようですね」

その言葉に、新都のほうを見ると――――新都のあちこちから炎が上がっていた。
……え〜と、そういえば新都のあちこちで殺人事件ってあったんだよな。

ということは、ちょうど今、街中のあちこちで火事が起こったってことになる……よな。
ひょっとして、俺達のせい?


「ま、いいじゃないの。どの道こういう事になるんだから、早いか遅いかの違いよ」

非常に清々しい笑顔で、俺にもたれ掛かってくるトオサカサン。
俺は、なんとも言えず、頬をかいた。

「ともかく、帰るとしよう。いくら夜とはいえ、この暑さはこたえる」

一人、元気なギルガメッシュが夜道を歩きながら俺達の方を振り向いた。
しかし、ホントに元気だな。こっちはボロボロだってのに……。

「ま、ここにずっといたら、放火犯に間違えられるかもしれないしな……いこうか?」
「ええ、そうね……いきましょう、ジャネット」
「はい、マスター」

立ち上がった遠坂の手を、ジャネットが取って立ち上がる。何だかんだいって、すっかり仲が良くなったようだ。

「何をしている、早く行こうではないか」
「はいはい……」

道の先で急かすギルメッシュに、俺は苦笑しながら、彼の方へと歩み始めた。
行く先には英雄王、後ろからは信頼できる二人の仲間。
石畳の道を行く。行く先は家路。長い長い夜はこうして終わり、そうして次の朝を迎える。



「それじゃあ、私達はこっちだから」
「ああ」

深山町の交差点。俺と遠坂の屋敷へと続く、道の中心部に当たるそこで、俺と遠坂は声を掛け合う。
市街の殺人鬼の件は解決したが、これから先も、遠坂とは組んでいたかった。

「……それじゃあ、また明日な」
「ええ、それじゃあ」

その思いが通じたのか、俺の言葉にニッコリと微笑むと、遠坂はジャネットを連れ、坂を登っていった。
去りながら、ジャネットは何度かこちらを振り向いていた。何か気になるのか、その視線は俺の方を向いていたように感じる。



「ただいま〜……」

ガラガラと扉を開け、懐かしの我が家に到着した。家の中は電気も消え、ひっそりと静まっていたが、懐かしい空気にホッと胸をなでなおす。
電気をつける俺の横を、ギルガメッシュは通り過ぎる。靴を脱いで玄関をあがり、廊下の先に行く先は――――



「やっぱり、ここにいたのか」

畳敷きの居間、ブーン……と音のなる扇風機の前で、英雄王はいつもどおり、風に当たっていた。
俺の言葉を聞き、胡乱げにこちらに顔を向ける。その表情は相変わらず、尊大を地で行くタイプだった。

「仕方があるまい、この家では、ここが一番居心地が良いのだからな。是非もない」
「だからって、部屋を閉め切るなよ。障子ぐらいは開けないと」

苦笑をし、俺は外に続く障子を開け放った。縁側に面した外は、夜空に浮かぶ月と、それに照らされる庭が見える。
と、その光景が気に入ったのか、ギルガメッシュは縁側に出て、板張りの床にあぐらをかいた。

夏の風が、ギルガメッシュの髪を揺らす。縁側に備え付けてあった風鈴が、ちりちりんと鳴った。

「なるほど、悪くない」

どことなく満足げな表情のギルガメッシュ。俺は、スイカを切ってきて、ギルガメッシュの隣に腰を落ち着かせた。
塩を振って、スイカにかぶりつく。何の脈絡もない会話と、夏の風、冷たいスイカ……それが、勝利へのごほうび。

縁側に誰かと一緒に座り、こうやって取り留めの無い会話をするのは何時以来か。
金色の英雄王に出会った夏休み。激動の七日間はこうして終わりを告げようとしていた。


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