〜Fate GoldenMoon〜 

〜Another Seven Day〜



墓地を舞台に、大規模な轟音がこだまする。
それは、墓石の破壊音か、その下に眠っている亡者の悲鳴か。

爆音とともに、ギルガメッシュの周囲に巨大なクレーターが穿たれる。
霧の中、姿を現した巨大な影は、切れを叩き潰そうと、その腕を振るう。

ギルガメッシュは常に、その攻撃を紙一重でかわし、攻撃をその巨人に向けて放つが、さしたる効果も見受けられなかった。

「ふっ……」

巨人にめがけ、圧倒的な量の武器。かのバーサーカーすら葬れるであろう武器の嵐も、その巨人には、まったく聞いていなかった。
その様子を見て、どこからともなく、老紳士の声が聞こえてきた。

「そら、そうやって逃げ回っていて良いのですかな。あとがありませんよ」

その言葉どおり、外人墓地は、あちこちにクレーターができており、平地と呼べる部分は、ほとんどなくなっていた。
以下に鈍重な巨人の攻撃でも、これではギルガメッシュも避けきることは出来ない。

「終わりです」

愉悦に満ちたその言葉とともに、巨人の攻撃が、ギルガメッシュを直撃した。
轟音とともに、ギルガメッシュは押しつぶされるように、地面に飲み込まれる。



「意外に、時間がかかりましたな」

霧の置くより、老紳士が姿を現す。その目は、爛々と輝いており、普段の温厚な顔の置くには、表現しがたい狂気が秘められていた。
老紳士は、ギルガメッシュの屍を確かめるように、クレーターを覗き込む。

その瞬間――――

ザシュッ!


「ぬうっ!?」

穴の縁に手を掛けた、老紳士の右手の指が切断される。慌てた様子で、霧の中へと姿を消す老紳士。
それを追うように、穴からギルガメッシュが飛び出した。その姿は、まったくの無傷である。

「なるほど、なかなか歯ごたえのあるお方だ。しかし、同じ手が通用するとは思わないことですな」

舌打ちしそうな声が、霧の奥より聞こえてくると、再び巨人の姿が浮かび上がった。
ギルガメッシュは、その巨人を一瞥し、ややあって、おかしそうに笑った。

「何がおかしいのです?」
「いや、ずいぶんと大層な手品だと思ってな。だが、『同じ手が通用するとは思わないこと』だ」

明らかに、何かに気づいたような表情のギルガメッシュに、霧に揺らぐ影の巨人は、動揺したようにその姿を揺らす。
しかし、それを単なる牽制だと思ったのか、影の巨人は再び動き出した。

「手品かどうか、その身で試してみることですな!」

再び、巨人の攻撃か再開するそれを、紙一重で避けるギルガメッシュ。
金色の英雄王は、何やら確かめるように、相手の攻撃を限界までひきつけて、かわす。

三度、巨人の攻撃は地面をえぐり、クレーターを作り出した。
そうして、ギルガメッシュは動きを止める。もはや、穴だらけとなり大きく陥没した墓地は、彼の立つところ以外、無事なところは無かった。

「終わりです、その身を神に召しなさい」
「神に……か。殺人鬼には似つかわしくないうえ、我にとっては反吐が出る聞き口上だ!」

巨人の腕が振るわれる、その寸前、ギルガメッシュは一振りの剣を、虚空より取り出す。
そうして、数段高い爆音が、墓地に響き渡る――――!



「――――!?」

驚愕の、叫びにならない声。霧にかすむ巨人の腕、ギルガメッシュを押しつぶそうとしていたその手首が、消失していた。
巨人の腕の先には、ギルガメッシュ。巨人の手を消失させたのは、その剣が発する、風の唸りだった。

乖離剣――――エア。ギルガメッシュの持つ最強の剣が、その腕を吹き飛ばしたのである。

「ブロッケンの妖怪とは、聞いたこともあるが、流石に我の剣の前には無力だったようだな」
「そ、そんなばかな――――」

怯えたように、巨人が後ずさる。
老執事の能力は、霧の固有結界の中、自らの影を使い魔として使役する能力。しかし、それは術者の姿を投影する。
指を切られた右手は、忠実にもその姿を再現し、そのため、ギルガメッシュに看破されたのだった。

霧の巨人、本来ならば、答えが分かっても、どうしようもない筈であった。濃霧は晴れることも無く、巨人は不死身。
だが、ここに一つの新たな理が存在する。風は――――霧を吹き払う!

「流石に、時間を駆け過ぎたか。これで仕留めるとしよう――――!!!」

その言葉とともに、三枚の刃が回転を始める。
空間を断裂させ、霧の固有結界を切り刻み、全てを穿つ旋風を生み出す――――!!

「天地乖離す開闘の星――――!!」

空間を軋ませ、大気すら圧搾し、周囲に漂っていた全ての霧を吹き飛ばす。
その一撃は、霧の巨人を粉砕し、完全なる破壊を周囲に撒き散らした――――。



夜空の元、原型をとどめていない外人墓地にただ一人、ギルガメッシュは立っていた。
周囲には、生きているものは存在せず、もはや霧も発生しない。
いまだ唸り声を上げる乖離剣をその手に持ったまま、ギルガメッシュはポツリと漏らした。

「――――逃げたか、小賢しい」

ギルガメッシュの攻撃は手ごたえこそあったものの、完全に仕留めるまでは至っていないのを、直感で理解していた。

「とはいえ、もはやあの様子では、幾分も力など振るえないだろう。気にする必要もないか」

独白するように結論付けると、ギルガメッシュは踵を返した。
いまだ戦い続けているだろう彼のマスターの元へと、英雄王は向かい始めたのだった。



なぜ、こんな事になったのかは分からない。理解すら出来ない。
体中から血を流し、半死半生で老執事は、教会前へとたどり着いた。

もはや、体を維持することすら不可能である。このまま、消えてしまうのだろうか。

「そんな、馬鹿な……こんな、ことで――――」

身体を引きずるように、教会へ向かう、その前に、教会へと歩を進める、人影が二つ。
その人影を見たとき、死に掛かっていた老執事の顔に、精気がよみがえった。

「は、ぁ――――」

なんと言う僥倖か。あの二人を殺して魔力を啜れば、完治とは行かなくとも、動けるくらいにはなるだろう。
痛む身体を無視し、老執事は歩を進める。

もはや、姿を隠すなどといっていられない。早く、殺して魔力を奪い取らなければ。
足音に気づいたのか、二つの影は老執事のほうを見て、立ち止まった。

だが、老執事は構っていられない。懐から刃物を取り出すと、指のついている左手に持ち、影に向かって切りつける――――!

ザシュッ!

「キ、ヒ――――!」

手ごたえ、あり。喉を切り裂いた感触に、老執事は奇声を上げ、動きを止めた。
目の前の相手は、小揺るぎもしていない。確実に、喉を切り裂いたはずなのに、何が、何ゆえ、何故、なん――――

ザシュッ!

同じような音ともに、視界が流れる。それが、自分の首を切り飛ばされたという事であると、老執事は最後まで気づかなかった。



「大丈夫ですか?」
「ああ、しかし、こういった輩が出るということは、やはりここで正解ということだな」

倒れ付した、老執事の身体を見向きもせず、二つの影は囁きあう。
彼らは、教会より発せられた、天へと登る閃光と、周囲に響いた爆音に導かれ、ここを訪れたのだった。

二つの影は、互いに頷くと、教会内へと駆け出してゆく。
後に残ったのは、首の無い老執事の身体。しかし、それも、すぐに霧となり、後には何も残らなかった……。


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