〜Fate GoldenMoon〜
〜Another Seven Day〜
冴え渡る刃鳴りの音。耳元を残光が通過する。
風すら切り裂き、ただ殺すためにのみ生み出されし斬光は、喉元を狙う死神の鎌のよう。
しかし、それでも何とか、その攻撃を俺は……しのぎ続けていた。
生み出す武器のイメージさえ不動ならば、その武器の強度は現実のものと変わらない。
その点が、俺を救っていた。いかな神速を誇る冴えといっても、俺の投影した双刀と、七夜の持つナイフ。
ナイフ一振りで、俺の双刀を砕くことは適わない。ありえない故に、両手の武器は無頼の強度を誇っていた。
「ほう、ねばるなっ……!」
「――――!」
しかし、それでもその速さは反則だった。腕の振り、武器の速度が速いのではない。
七夜の名を持つ少年は、その全身そのものを、一個の武器として振るっている。
その動きには無駄というものはなく、視認できるはずの攻撃は、反撃する隙すら見出せなかった。
それは、人としての本能なのかもしれない。その一撃をよけなければ死ぬ――――そんな攻撃を放たれ続けているのだ。
反撃する暇などない。ただ、奈落の底の一歩手前で、踏ん張っているような状態だった。
「斬――――!」
至峰斬殺――――無軌道に、ほぼ同時に振るわれる四本の斬線を、急所を庇うやり方で何とか受け止めた。
しかし、軌道を離れた一本の線が、俺の腕に食い込んだ!
「ぐぅっ!」
痛みに、喉の奥で悲鳴を噛み殺す。筋肉の筋は、無事だ。鋭い斬撃は、肉を切り裂き血を流すが、致命傷には至っていなかった。
すでに初手から十数分。半年前では一分と持たないであろうレベルの攻撃を、俺は凌いでいる。
「どうした、俺はまだ生きているぞ」
わざと、余裕のあるように言ってみる。
それは、相手の焦りと、怒りを誘う手法。だが、
「ああ、そのようだな。もう少し、あっけないものだと思っていたが」
ひどく楽しそうに、手に持ったナイフをもてあそびながら、七夜はそんな事をのたまった。
さすがに、生粋の死神。やっぱり、相手のほうが格が上のようだ。
あとの望みは、ジャネットが相手のマスターを倒し、魔力の供給が切れて少年が消えるという事態だが……。
「それでは、逝くとしようか――――煩悩は無尽なり、誓って断ぜんことを願う……」
その言葉とともに、七夜の目つきが変わった……来る!
「くっ!」
「極彩と――――」
とっさに、少年の攻撃を防ごうと、双刀で防御を固める。しかし、視線の先に見たものに、内心が凍りついた。
七夜の腕の軌道は、今までの横なぎのものではなく、野球のオーバースローのような、大振り。
狙いは、俺の武器――――イメージが……
「散れ!」
ガシャァァァァンッ!!!
「士郎――――っ!!」
十坂の叫びが聞こえる中、吹き飛ばされ、俺は地面を二転三転する。
やられた――――ナイフでの斬撃に慣らされた俺の感覚は、激しい一撃にイメージをかき乱されたのだ。
双刀を砕かれ、俺は何とか身を起こす。
しかし、すでに目の前にはナイフを構えた少年が――――
「ぁ――――」
「理我斬剥――――八殺生戒!!!」
基点は一、だが、その軌道から放たれた斬撃は、八閃に連なった――――
霧に包まれた教会の裏手、多くの者が眠る墓地へと移動し、両者は戦いを続けていた。
金色の英雄王、ギルガメッシュは絶え間なく武器を生み出しては、老紳士へと浴びせかける。
しかし、身軽な動きで老紳士は、そのことごとくをかわしきっている。
それがいっそう、ギルガメッシュを不快にさせた。
「どうした、逃げ回るだけが取り柄というわけではあるまい!」
ギルガメッシュの攻撃が、墓石を削り、あるいは粉砕する。しかし、肝心要の老紳士には、やはり当たらなかった。
「そう、焦らなくともよろしいでしょう……今夜は、こんなに良い月が出ているのに」
霧の向こうより、老人の声がする。その声は徐々に、どこか陶然とした響きを帯びていく。
月が出ると、人を殺したくなる――――生前、そうマスコミに語った殺人鬼がいた。
月は、人の隠された本性を浮き彫りにする。
「ああ……そうです、こうやって月の光を浴びていると、無性に殺しをしたくなる」
「ふん……快楽殺人主義か、下らぬな」
「そうでしょうか、人は元来、殺戮を好む習性があるのですよ」
目を爛々と輝かせた老紳士。礼儀正しさの中に、どこか獰猛な獣の気配を感じ、ギルガメッシュはさらに多くの武器を空間から取り出す。
だが、その時、ギルガメッシュの頭上が大きく翳った。
「ぬっ!?」
潜在的な危険を感じ、ギルガメッシュは真横に飛ぶ――――
ごばぁっ!!!
直後、ギルガメッシュの立っていた地面の部分が、大きく抉れ、剥き出しの土を見せていた。
それは、まるでショベルカーで彫られたときのような抉れ方。
「ほう――――先ほどから感じていた違和感の正体は、これか!」
ギルガメッシュは興味深そうに、快哉の声を上げる。
彼の目の前には、一体の巨人がいた。正確には巨人のような影である。
人型のそれは、巨大な魔力の塊のようだった。
その一撃が、墓地の地面を砕き、巨大な穴を作ったのである。決して侮れない相手であった。
ギルガメッシュは悠然と手を上げると、パチリ、と指を鳴らす。
轟音とともに、背後の空間より生み出された武器が、巨人に向かって飛ぶ――――だが、
「!?」
巨人には、傷ひとつない。宙を走った武器は、巨人に命中することなく、その体をすり抜ける。
驚きの表情を浮かべるギルガメッシュに、嘲りを含んだ老紳士の笑い声がとんだ。
「無駄ですよ、それは貴方では、傷ひとつつけることはできない。その事を、身体で分かっていただきましょうか!」
その言葉とともに、巨人の手が、ギルガメッシュに向かって伸ばされる!
再び周囲に、轟音が響き渡った――――。
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