〜Fate GoldenMoon〜 

〜Another Seven Day〜




昼食を終えた後、俺とイリヤ、ギルガメッシュは道場に向かった。
この前の話、半年前の聖杯戦争の続きを話すためである。

「さて、半年前の戦の顛末とやらを、話してもらおうではないか」

道場に胡坐をかきながら座るギルガメッシュ。手には扇子を持っており、それでパタパタと自分を仰いでいる。
正座で座っている俺の隣では、イリヤが自家製のアイスを口にしていたりする。

「ああ、話は確か、バーサーカーの戦いの後だったな」

思い起こし、俺は半年前の記憶を元に、話を始める事にした。



バーサーカーとの激戦。勝ち残った俺達は、イリヤを保護することにした。
この時期は聖杯戦争も終わりに近づく頃、俺とセイバーの行く先も、予想できるようになっていた。

彼女、セイバーは、イングランドの王、アーサー王であった。
彼女は、最後のときまで王として生きるため、長い間、英霊として存在していた。

そうして、永遠の別れのときまで、その強さは決して折れることは無かった。




「……アーサー王が女性というのは、驚きだな」
「そういうものかな。俺は、アーサー王の伝承を詳しく知ってるわけじゃないし、あまりこだわらなかったんだが」

俺の言葉に、ギルガメッシュは苦笑すると、持っていた扇子をパチリと閉じる。
どうも、こういう和風の持ち物にも、ギルガメッシュは興味を持っているらしい。

「一度、会ってみたいものだな」
「いや、それは止めておいたほうがいいと思うけどなぁ」

ギルガメッシュは覚えていない……というか、『知ってはいない』が、セイバーはギルガメッシュのことを知っているのだ。
挨拶代わりに、『約束された勝利の剣』(エクスカリバー)あたりを叩き込まれかねないだろう。

「?」

知らぬが仏というか、当の本人はよく分かっていないようだったが。



そうして、戦いは終末まで一気に流れていく。
この屋敷への、キャスターの襲撃。セイバーとともに、竜牙兵を蹴散らし、庭でキャスターと対峙する。

危機一髪の戦いに終止符を打ったのは、金色のサーヴァント、ギルガメッシュだった。
セイバーと因縁関係にあるギルガメッシュとは、そのあと、二度の死闘を繰り広げる。

全ての英霊のうち、残ったのは騎士王と英雄王。
どうやって決着がついたのかは、俺は知らない。ただ、全ての決着がついたとき、聖杯の前には俺とセイバーだけが立っていた。

閃光が走る。そうして、聖杯を壊し、俺とセイバーの戦争は終わりを告げたのだった……。



話を終えたとき、ギルガメッシュは無言であった。
道場の外からは蝉時雨。話の合間に飲む麦茶も、冷やさないように入れていた魔法瓶の中には残っていなかった。

「十年前からの妄執……そして、敵として現れたわけか。我ながら、ずいぶんと波乱含みの話を紡いでいたのだな」
「ああ、今は味方だからいいけど、あの頃は生きた心地もしなかったな」

俺の言葉に、ギルガメッシュの扇子を仰ぐ手の動きが止まった。
ギルガメッシュは、俺のほうを静かに見て、淡々と質問する。

「敵である我を、憎いと思ったか?」
「……いや、そういう感情は無かったな。むしろ、彼女……セイバーが傷ついているのに、俺は何も出来ないのが、そのときは悔しかったな」
「ふむ……潔い返答だな」

そういうと、ギルガメッシュ立ち上がった。どうしたのかと、目を向ける俺に、

「風に当たってくる」

そう言って、道場を出て行ってしまった。おそらく、いつもの居間で、扇風機の風に当たりにいくのだろう。
俺は一息ついて天井を見上げる。目を閉じると、感じるものがある、掛け声、竹刀のはじきあう音、ぬとっとした感触…………ぬとっ?

「って、イリヤ、何やってるんだ!?」
「う〜、だって、暑くて暑くて……」

だらしなく着崩した格好、汗だくだくのままで、イリヤは俺にピットリと、へばりついていたのである。
夏服から覗く、下着に目を奪われそうになるが、ともかくイリヤを引っぺがそうと試みる。

「暑いんだったら離れるんだ。余計暑苦しいじゃないか」
「だって、士郎の身体、ひんやりして冷たいんだもん」

体感温度というヤツだけど、イリヤが冷たいと感じている部分は、俺にとっては非常に暑い。
うにゃ〜〜〜、と抱きついてくるイリヤにため息をつきつつ、その身体を抱き上げながら、俺は道場を出た。

ともかく、冷たい飲み物でも上げないと、落ち着くこともなさそうだったからである。




夕刻過ぎ、遠坂とジャネットが家を訪れた。
今日も、新都の方で手がかりを見つけるのが目的ではあるが、夕飯を食べるのも目的だったらしい。

「はい、お待ちどう」
「う〜ん、この色、この香り…………夏はやっぱり、鰻よね!」

鰻丼を手に、遠坂は満足そうに声をあげる。どうやら、イリヤに電話で夕食の事を聞いて、ご同伴に預かることにしたらしい。

「あの、これは何なんでしょうか……?」

少々不器用に箸を持ちながら、ジャネットはそう質問する。ギルガメッシュも同意見なのか、箸を付ける前にこっちを見ている。

「ああ、これは鰻といって、日本だとポピュラーな食材だな。夏のこの時期、食べると体力がつくといわれているんだ」
「ふ〜ん、ねえ、シロウ。この白いふわふわしたのは何?」
「それは山芋を摩り下ろしたもの。意外に鰻にあうんだ。まぁ、騙されたと思って食べてみなって」

俺にそういわれ、三者三様で、鰻を口につける。そして、「お〜」という歓声が上がった。

「なかなかに、美味であるな」
「そうですね、食が進みそうな良い味をしてます」

ギルガメッシュとジャネットがそう言い、思わず顔を見合わせると。
ジャネットは何処か恥ずかしそうに目をそらし、ギルガメッシュはなんとなく勝ち誇った顔をしてにやりと笑った。

「シロウ……苦い(にがい)」

だが、どうやらイリヤには不評だったようだ。箸を持ったままで、次の一口を動かそうとしなかった。

「ん……そうだ、ちょっと待ってるんだ」

そういうと、俺は台所にとって返し、再び居間に戻ると、イリヤの丼にある物を入れた。

「?」
「さぁ、食べてみて」
「う……うん…………あれ? これ、すっごくおいしいっ!」

イリヤの反応をみて、ちょっとホッとする。イリヤの味覚の場合、甘いたれの方があっていたんだな。

「それにしても、よく鰻なんて思いついたわね」
「ああ、商店街の魚屋に大量に仕入れてあってさ。どうやら、親戚の方から仕入れたんだって。聞いた話だと、雄踏、舞阪、弁天……浜名湖の周辺らしい」
「そのあたりって、今は花博をやってるところよね……花を見て、楽しいのかしら?」

いや、遠坂、それって女の子の言う台詞じゃないだろ。
それに、意外に遠坂ってそういうところも好きそうな気もするんだがなぁ。

まぁ、確実にそういうのが好きそうなのは、桜だろうけど。
今度、桜を連れて行ってみるか。電車を使えば何とかいけるだろうし。

やいのやいのと、大騒ぎする食卓。それは、我が家のシンボルに思えた。



「それで、今日はどうするんだ?」

食事が終わって日が暮れて、共同で後片付けをしながら、俺は隣でお皿を拭いている遠坂に聞いてみた。
けっきょく昨日は、相手の一集団と戦った以外は、さしたる成果も無く終わったのだった。

ひょっとしたら、予想以上に厄介な敵なのかもしれない。
俺の質問に対し、遠坂も少々不満そうに返答を返した。

「ともかく、昨日と同じように新都へ行きましょう。目的は、連中の正体を突き止めることと……あと、敵の捕獲ね」

そういうと、遠坂は持っていたお皿を拭いてあるお皿の山の上に置く。
俺の洗った皿を受け取りながら、遠坂は思い起こすように、話を進める。

「敵の中に一体、明らかに毛色の違うやつが混じっていたでしょ。おそらくあれが、敵の中枢との繋がりを持つ者よ」
「じゃあ、そいつを捕らえれば、一気に本営を付けるってことか。でも、どうやって捉えるんだ?」

もともと、人間離れした能力を持っているやつらである。普通にやったら、捕獲できないことはわかりきっていた。

「それは、あの金ぴかに頼るしかないんじゃないの? なんだかまだ、怪しそうな、高そうなアイテムを持ってそうだし」

その言葉に、妙にトゲを感じ、俺はふと思いついたことを口にしてみた。

「ひょっとして遠坂……うらやましいのか?」
「〜〜〜〜」
「ごめんなさい、もう言いません」

無言の圧力を感じ、俺は早々に白旗を上げた。
そんな俺を、遠坂はしばしの間にらみ、ややあって、相好を崩して、俺の頬をぶにっ、とついた。

「頼りにしてるんだからね、士郎。新都の敵とか、金ぴかとかに負けるんじゃないわよ」
「あ、ああ……」

俺が頷くと、遠坂は満足そうに、よしよしと言って、お皿拭きを再開した。
その横顔に、違和感を感じなくなったのは何時からか。台所で俺と遠坂が料理をして、それを居間でセイバーが待つ。

懐かしさを感じ、ふと居間を覗く。そこに、セイバーの姿は無い。
だけど、新たに出合ったもの、知り合った者の姿がそこにあった。

夜も更けた頃、俺達は再び新都へと向かった。イリヤの手を引き、夜の道を歩く。
傍らには頼りになる同級生。前には無敵の英雄王。そして、まだよく分からないけど、信頼できる魔術師。

深く、暗い夜だったが、皆であれば、どこまでも歩いていけそうな気がしていた。


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