〜Fate GoldenMoon〜 

〜Another Seven Day〜



その戦いを、男はビルの屋上から見つめていた。
眼下では、数百の亡者の群れを、蹴散らす三つの光。

銀髪の少女、魔術師の少女を守るように、三者は圧倒的な強さで亡者を蹴散らしている。
特筆すべきは、金色の青年だろう。上空に展開させた高密度の武器は、亡者達に降り注ぎ、容赦なくその体を寸断する。

青年は目を閉じ、開ける。その瞳には、碧眼の強い意志の光があった。
その時、オフィス街の一角から、戦いの現場のほうに歩いてくる人影があった。

中年のサラリーマンであるその男は、現場へ足を踏み入れると――――そのままそこを素通りした。
戦っている少年達も、そのことに気づいていない。同じ場所にいながら、位相の違うその空間は、固有結界と呼ばれるもの。

男は、変わらず眼下を見下ろす。
亡者達は、あっという間に数を減らされ、もはや勝敗の帰趨は決しているように見えた。
男は、地面をける。まるで、体重を感じさせない身のこなしで、ボディビルダー級の体格の大男は、少年達の前に降り立った。

『どうやら、本命のようだな』

金色の青年が、そういう。視線をめぐらした先には、双刀を持つ少年と、赤い魔術師の少女。
その背後には、銀髪の少女と、魔術師姿の少女がいた。

記憶、完了――――もはや、この体の役目は終わった。
男は、ほえる。右手より生み出したその刃を持ち手、その喉を切り裂かんと、突進する――――。




「……05が殺られた様だな」

郊外にある教会。そこの地下にうごめく者があった。
協会の地下祭壇に、一人の青年がいる。コートを着込んだその姿は、まるで陽炎のように、存在感のないものだった。


彼は、祭壇の奥に歩を進める。奥にあるその部屋からは、むっとする死臭が漂っていた。
そこに転がるのは、人間のパーツ。それを捏ね合わせ、つなぎ合わせ、狂ったように工作する男が一人、そこにいた。


「アルバート、いつまでこんなことをしている?」
「アハ、アハハハハっ、ジャック、まだ部品が足りないんだよ、何でもいい、もっと部品をもってこいよ!」

正気を失ったかのような、ひげ面の男、いや、すでに完全に理性というものは失われていた。
彼を動かすのは、狂った愛情と、妄執……。

「俺は、必要以上に殺すのは好みではない。特に、美女以外の殺しなど、好みでもなんでもないんだが」
「何言ってるんだよ、バーサーカーの分際で! ケハハハハハハハハハハハハハハハ!」

ぐしゃりと、臓器を踏み荒らしながら、アルバートは自らのサーヴァントに詰め寄る。

「お、お前は、僕の英霊なんだ、僕の命令に従わないで、どうしようってんだ!?」

酔っ払いが絡む様な物言いに、アルバートの瞳に宿るのは、失望に似た光だった。



「……外の様子を視てくる」
「いいか、明日にはあと五十体、被献体を持ってくるんだ! わかったな!」

怒鳴り声を背中に聞きながら、アルバートは礼拝堂に戻った。
腐った空気は、礼拝堂には不思議と届かず、アルバートは大きく息を吸う。

「もって、あと一、二日か……」

恐らくは、あの五人は早々に、この場所を嗅ぎ付けてくるだろう。
人を殺して、その奪い取った魔力をすべてを結集し、それでもようやく、互角程度だろう。

七人の英霊が一人。ジャックは礼拝堂の天井を見上げ、独白した。

「さて、誰が勝つのか、奴らか、わが命主か、それとも……」

つぶやきは、礼拝堂の中に消える。
かつての主を失った教会は、すべてを拒むかのような存在を、その内面に宿し始めていた。




〜キャラクター情報が追加されました〜


戻る