〜Fate GoldenMoon〜
〜Another Seven Day〜
そんなこんなで、俺をイリヤの二人は午後からは新都の方で遊ぶことにした。
新都の駅前は、今日も変わらない賑わいを見せていた。
さすがに、事件のあった区域は立ち入り禁止となってはいたが、それ以外の区画では、今日も普通に店舗は開いていた。
そうして、ともかくイリヤの行きたい所に連れてこられたわけなのだが……。
「わぁっ、可愛いっ! ね、シロウもそう思うでしょ?」
「……ああ、確かに可愛いな」
はしゃぐイリヤを見て、俺はそう呟きを漏らす。
周囲を見ても、そこには可愛い可愛い、ぬいぐるみの山。
何の因果か、イリヤに連れてこられたのは、セイバーも連れてきた事のあるファンシーショップだった。
相変わらず、女性比率が高いこの場所は、それでも今日は親子連れや恋人同士などがいて、多少は気が楽な部分があった。
「あ、ほらほら、シロウ。フジヤマケンがいるっ!」
頭に富士山を載せた犬のぬいぐるみが、ワゴンセールのコーナーで売られていた。
昔、一時期テレビでも見たことのある、そのぬいぐるみは、イリヤの言うのとは違う名前だったような気もするが、突っ込むのはやめておこう。
「あ、今度はタイガのぬいぐるみだよ!」
「ほんとだ、トラのぬいぐるみ……(しかもこれって、藤ねえの竹刀についてるストラップと同じやつだ)」
わいわいと騒ぎながら、そんな風に俺達は、各コーナーを巡っていく。
しかし、意外と言えば意外なことに、イリヤはぬいぐるみをねだったりしなかった。
ぬいぐるみを見てはしゃぎこそすれ、それを買って欲しいと、俺に言ってこなかった。
「なぁ、イリヤ。何か欲しいぬいぐるみとかあったら、買ってもいいんだぞ?」
「ううん、別にいらないわよ。子供じゃあるまいし」
しばらくあちこち見て回って、俺がそう聞いた質問に、イリヤはしれっとした顔で、そんな風に答えを返す。
そうして、頬に指を当て、にっこりと何かたくらんだような笑みを浮かべた。
……なにやら、非常にいやな予感がするんだが。
「それに、買いたいものなら他にあるんだし」
「何ですか、それは」
俺の背中に、いやな汗が流れる。
そんな俺の心中を知ってかしらずか、イリヤは少し考え込み、ぽつりと言った。
「んーと……結婚指輪?」
「買・え・る・かー!」
「ど、どうして? リンには買ってあげたじゃないの」
俺の言葉に驚いたのか、声の大きさに驚いたのか、イリヤは驚きの顔でそのような事をのたまいます。
いや、何か勘違いをされておられますようで、イリヤさんは。
「あのなぁ……遠坂に買ったのは、普通の指輪だし、そんな他意はこもってません!」
「ふ〜ん、そうなんだ……よかった」
何が良かったのか分からないが、どうやら納得してくれたようだった。
「じゃあ、とりあえず、宝石屋さんに行こっ」
「……」
ぜんぜん、分かっていないようだった。
「納得したんじゃなかったのか!?」
「リンの指輪の件は、納得したわよ。でも――――やっぱり私も、指輪が欲しいもん!」
「……」
「そんなわけで、行きましょ、シロウっ! ニイタカヤマノボレっ!」
割けの分からない張り切りようを見せるイリヤに引きずられ、俺は逆らえないことを本能で感じ取っていた。
……とほほ。
「きれい……ありがとう、シロウ!」
「ああ、喜んでくれてよかったよ」
右手をクルクルと回すように見つめ、感嘆の声をあげるイリヤに、俺もホッとしたようにため息を漏らした。
結局、イリヤを連れて訪れたのは、遠坂といったアンティークショップ。
そこのディスプレイに陳列されていた指輪を見せたところ、即断即決でお気に入りの指輪を見つけ、即購入の流れとなったのだった。
値段も、そこまで高いわけじゃなかったので、買った後も、俺の財布にはまだ余裕もあった。
指輪は、イリヤの右手の薬指にピッタリとはまっていた。
直感、というのが当たっているとすれば、その指輪は、まるでイリヤのために作られたようだった。
無色の石は、ダイヤモンドとか、そういうものではないようだった。
だが、飾りの無いその宝石の色は、イリヤにピッタリだとも思った。
その後も俺達は、駅前パークを中心に、付近を散歩がてら、遊びまわった。
アンティークショップのあるデパート内を探索することから始まり、外にでて、ファーストフードで買い食いもした。
イリヤは、運動が苦手っぽかったので、スポーツ系統はあまり好評ではなかったが、それでも小さな体をいっぱいに使って遊ぶさまは、可愛らしかった。
「それにしても、凄いんだ、シロウって。ボウリングって、普通はもっと点数が低いんでしょ」
「ん、まぁ、あれも細かいコントロールが必要だからな。弓道に通じるところがあるんだよ」
ボウリングで1ゲームだけ遊び、外にでる。
イリヤは、店を出る際にもらったスコア票をものめずらしそうに眺めていた。
ちなみに点数は俺がパーフェクトの300で、イリヤが120である。
そこそこやったことある俺はともかく、イリヤも初めてなのに、けっこう凄い点数をとっていたが……そういえば、店員が驚いた表情で見ていたな。
まぁ、それでも常時、ボウリング場は人であふれていたし、そこまで目立ってはいないだろう。
その他にも、駅前のクレープ屋さんで、イリヤが何を注文しようか真剣に悩む姿を、ほほえましく見たり、
賭博場に間違えて入りそうになる、イリヤを慌てて止めたり(なにやら、確信犯っぽい気もしたが)、
まるで社会見学のように、あちこちに聳え立つビルディングを見に、歩き回ったりもした。
イリヤは実に子供らしく、また、時折、妙にお姉さんぶったりして、それがまた面白かった。
そうして遊ぶうち、気がついたら、時刻は6時を回っていた。
「さ、次はどこに行くの?」
「いや、そろそろ帰る時間だ。もう、夕方を回ってる」
「え……もう、そんな時間なんだ」
周囲を見つつ、ポツリと呟くイリヤ。
時刻に反し、周囲はまだまだ明るい。しかし、事件のこともあってか、駅前も人はまばらになっていた。
「それじゃあ、しょうがないよね。タイガを心配させちゃいけないし」
寂しそうに微笑むと、イリヤは俺の腕に絡ませた手を、ぎゅ……っと握った。
時間が来る……シンデレラの魔法は解け、帰らないといけない時間だった。
「また、暇があったら遊びに来よう」
「ほんと……?」
俺を見上げ、おずおずと聞いてくる赤色の瞳。俺は微笑みながら、頷き返した。
「お姫様が望むなら、な」
「……うん!」
冗談めかした俺の口調に、イリヤは満面の微笑で、そう返事をした。
家路に帰る人の波にのり、俺とイリヤも、深山町に帰るバスに乗るため、駅前のバス停に向かった。
戻る