〜Fate GoldenMoon〜
〜Another Seven Day〜
その日の朝も、俺は桜やイリヤ、藤ねえと一緒に朝食をとっていた。
今日は、イリヤと駅前に出かけることになっている。当のイリヤは上機嫌で、終始ニコニコしていた。
しかし、テレビから流れ出したニュースが、その場の雰囲気を一変させた。
「臨時ニュースです……先日夜半過ぎ、冬木市の飲食店……」
「ねえ、あれって明日、私達が行こうとしていた店じゃない?」
「えっ?」
藤ねえに言われ、俺達はテレビの画面に注目する。
そこには、駅前にある高級料理店が映し出されていた。テレビではレポーターが、抑えた口調で話している。
「店内は、荒らされた形跡があり、店長はじめ、従業員は全員、鋭利な刃物で喉を切り裂かれ――――」
抑えたような声と、無表情な顔が、なんとなくミスマッチだった。
「ふーん、なんだか物騒なことになってるわねー」
はぐはぐ、と朝食のおかずを摘みながら、藤ねえは少々、心配そうに呟く。
ん〜、と考え込む仕草を見せた後、
「士郎、おかわり」
「はいはい」
藤ねえの差し出したお椀にご飯をよそい、手渡すと、藤ねえは再び食事に取り掛かった。
そうして、食事をしながらポツリと、
「今日のデートは、中止にした方がいいかもね」
そんな事を言った。
「ちょっと、それってどういうことよ、タイガ!?」
一瞬ほうけたようになり、キッと藤ねえを睨むイリヤ。対する藤ねえはというと。
「どういうことって、そのままの意味よ。駅前が物騒になってるんだから、そんな危ないとこに行こうなんて先生は認めませんよぅ」
めっ、という仕草で、藤ねえは学校の先生のようにイリヤに言う。実際に学校の先生なのだが。
その言葉を聴き、桜も肯定するように頷いた。
「そうですね、やっぱり今日くらいは、出かけるのをやめたほうがいいかも」
「桜は昨日、デートしてきたから、そんな事が言えるのよっ!」
だぁ――――! という仕草で桜に怒るイリヤ。
「ご、ごめんなさい……」
その剣幕に、たじたじとなる桜。
しかし、イリヤには悪いが、さすがに今日出かけるのは考えた方がいいんじゃないだろうか。
「そうはいってもなぁ、やっぱり今日は、さすがに危ないと思うぞ」
まだ、犯人も捕まってないんだし。そんな風な口調で俺は言うが……
「やだ、やだ、やだーーーーーっ!!」
お姫様は、ひどくご立腹だった。
たしかに、遠坂と桜とと、二日間も自慢話を聞かされたら、うらやましくもなるだろう。
「イリヤ!」
とはいえ、昨日殺人があった所に、のこのこと二人で行くというのも危険極まりない。
少々、語気を荒くしてイリヤの名前を呼ぶと、イリヤはうぅ、と詰まった後……
「いくったら、いくの――――――っ!!」
逆切れした。まぁ、元々おとなしく……説得されるとは思ってなかったけど。
「いいかげんにしなさいっ。先生、許しませんっていってるのっ」
駄々をこねるイリヤに、藤ねえが一言。しかし、それすら予想していたのか、イリヤは涼しい顔で、さらりと笑みを浮かべた。
あ、この笑みは、何かしら企みがあるな。そう気づいたときにはもう遅い。
「なんだったら、言いつけてもいいのよ。タイガ」
「う……な、何を」
誰に、何を、そういった要点を省くイリヤの言葉に、藤ねえは急に冷や汗だらだらで挙動不審になる。
対するイリヤは、余裕綽々といった風に、にこやかに笑っている。
そういえば、ここ最近は藤ねえはイリヤに頭が上がらない状態だった。
まぁ、何せ藤村組の総乗っ取りのようなことも、しでかしたイリヤだ。
藤ねえの弱みの一つや二つも握っているだろう。
と、すると。この戦いは、藤ねえの……
「どうするの? タイガの態度しだいでは、私も考えてもいいんだけどな〜」
「うう〜〜〜、卑怯者〜〜〜〜」
藤ねえ、籠絡。そんなわけで、最大反対派を味方に付けたお姫様は、結局自らの案を通らせたのでした。
「シロウ、はやくいこっ」
「はいはい。じゃ、いってくるから」
朝食を終え、早速出かけようと、玄関に飛び出すイリヤ。
その後を追って、玄関に降りて靴を履く俺は、ついてきた相手にそう言葉をかけた。
「はい、いってらっしゃい。先輩」
にこやかに、俺を送り出す桜。対照的に、
「む〜っ、イリヤなんか、いつか痛い目を見ればいいのよぅ」
と、藤ねえが拗ねてた。
「ほら、早く行きましょ、シロウ!」
「ああ、じゃ、いこうか」
差し出された、小さな手を握り、玄関から出る。
外の日差しは、充分に強く、本格的な夏の到来を感じさせた。
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