〜Fate GoldenMoon〜 

〜Another Seven Day〜



新都の駅前にある高級料理店……いつもは深夜であろうと、明日の仕込みのために賑やかなその場所は、ひっそりと静まっていた。
高級料理店の厨房、そのドアが静かに開けられ、二人の人影が室内に入って来た。

「ひどいな……どうやら全滅らしい」
「そう、みたいですね……」

つがいのような銀の髪。シグとヒルダは、それぞれに、怒りと嫌悪の表情を見せながら、室内を見渡した。
部屋の中には、血の匂いが充満していた。調理服姿の人間は、全て喉から血を流し、事切れている。

シグは、死体の一つに手を当てると、眉をひそめた。

「ここもだ。死体に魔力の残滓が感じられない。どうやら、殺しながら、魔力を奪い取ったようだ」
「何で、こんなことを……」
「それが、敵のやり口だろう。決戦を前に、出来るだけ勝率を上げるために、な」

舌打ちをしつつ、シグは室内を見渡す。
ここで三件目。夜の街を見回っていた彼らは、新都の異常に最も早く気づいたものだった。

兆候が無かったわけではない。ただ、新都は広く、浮浪者の一人や二人が消えたところで、気に止めるものはいなかった。
そうして、それが今日、爆発的に増大する。裏路地に二つ。そうして今は、店内に一つ。無数の死体の山が築かれた。

「ともかく、ここを出るぞ。相手が魔力を溜めるのを早めたということは、ここで襲われても不思議じゃない」
「はい……」

シグの言葉にヒルダは頷き、店の外に出た。ヒルダは、顔色が悪く、すぐにも倒れそうだった。

「ヒルダ、ヒルダッ……しょうがない、どこか、落ち着けるところを探そう」

肩を支えるように、寄り添いながら歩くシグとヒルダは、ややあって、中央公園にたどり着いた。
まばらではあるが、カップルもいる夜の公園の外縁を横切り、シグとヒルダは中央にある広場に足を運んだ。

この一角だけは、人も寄り付かず、閑散としていた。
シグは、ヒルダを座らせると、その汗を拭く。ヒルダは疲れたように、シグのされるがままに顔を拭かせていた。

「落ち着いたようだな」
「すみません、ああいった光景を見るのは、初めてだったから……」

夜風をすい、幾分おちついた様子で、ヒルダはシグにいう。
シグは、そうか。と答えたきり、何もいわない。半端な慰めも、戒めも、意味が無いと分かっているからだろう。

聖杯戦争は、すでに始まっている。
今もこの街のどこかで、人を殺し、魔力を吸う輩がいるということなのだ。

「ともかく、一度城に戻るなり、どこかホテルに泊まるなりしましょう。相手の力も分からないままで、追いかけるのは危険です」
「ああ、そうしたいところだが……」

シグの手には、いつの間にか一振りの剣が握られていた。
剣を構えたまま、彼は周囲にすき無く視線を配る。そうして、一つの方向に視線を定め、彼は体ごと、そちらを向いた。

「シグ……?」
「敵のようだ、立てるか?」

シグの言葉に、ヒルダは驚き、それでも気丈にも立ち上がった。
その光景を横目で見つつ、微笑むと、シグは闇の中から出てくるその相手に視線を向けた。


闇の中から出てきたのは、大男と少年。シグ達は知らないだろうが、それは、士郎と桜の会っていたあの二人組みだった。
大男と少年、銀髪の男女は、天高く登った月の光の下、対峙をする。

「一つ、聞いておく」

シグが、剣を大男に向け、厳粛な口調で詰問する。

「街中の大量殺人、犯人は貴様達か?」
「…………」

しかし、シグの言葉に、大男は答えない。代わりに、傍らの少年を見て、頷いた。

「ちぇっ、またオレの出番かよ。エリン、人使い荒いぜ」
「……ルーフ」
「分かったよ、やればいいんだろ」

ルーフと呼ばれ、不機嫌そうに返答する少年は……次の瞬間、自分の背丈ほどもある槍を、虚空より取り出していた。
その様子を見て、ヒルダの顔に、驚愕の色が浮かぶ。

「シグ、あの少年……」
「ああ、俺と同じ、英霊だろう。武器から見て、相手はランサーか……」
「そういうアンタは、セイバーだろ。相手にとっちゃ、不足は無いよね」

ヒルダ達の会話が聞こえたのか、両手で武器を構え、朗らかに笑う少年。
ピリピリとした、緊迫した空気は感じない。しかし、シグは不思議と、輝く恒星が迫ってくるような錯覚を感じていた。

「ヒルダ、下がっていろ」
「エリン、ここは任せてよ」

互いの英霊の言葉に、両マスターは頷くと、双方共に後退する。
人気の途絶えた公園の広場で、剣士(セイバー)の青年と、槍兵(ランサー)の少年はじわじわと間合いをつめ――――

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「てりゃーーーーーーーーーっ!」

それが、半年振りに始まった、聖杯戦争の……最初に交わされた一撃であった。



〜キャラクター情報が追加されました〜


戻る