〜Fate GoldenMoon〜 

〜Another Seven Day〜



マウント深山商店街に着くころには、日も落ちかかり、周囲は茜色に染まっていた。
桜と二人で商店街を歩きながら、俺達は買い物を行っていた。もっとも、本日の主役は桜であり、俺はもっぱら、荷物持ちの役だったが。

「最近暑くなってきましたし、今日も何か、体力のつくもののほうが良いかもしれませんね」
「ああ、もっとも、藤ねえもイリヤも暑さには強そうだけどな」

イリヤは元々が雪国の生まれだったらしく、非常に寒がりな半面、厚着、暖かい飲み物なの、熱さには耐性があるようだ。
藤ねえの場合は、なんといってもトラである。サバンナの気候に比べれば、昨今の暑さなど苦にもならないだろう。
……あれ、トラってサバンナにいたっけ?


まぁ、そんなこんなで、一通り買い物を済ませてから、俺達は帰路につくことにした。
夕飯の材料も買い終わり、そうしてしばらく歩いたときである。

「あれ……?」
「桜、どうした?」

急に足を止める桜に、俺も立ち止まり、桜の向いている方向に顔を向けた。
キコキコと、ブランコの揺れる音。夕暮れの公園に、その少年は一人、ブランコに乗っていた。

今朝、桜と遊んでいたルーという少年は、視線を感じたのか、こっちの方を向き、すぐに笑みを浮かべて駆け寄ってきた。

「桜ねーちゃん、それに、にいちゃんも……こんばんわ!」

相変わらず、お日様のような笑顔で少年は笑う。
公園には、その子の他には誰もいない。桜は少年の様子に少し戸惑い、そうして微笑を浮かべた。

「こんばんわ、ルー君。どうしたの? もう、おうちに帰る時間よ」

優しげな顔で言うその様子は、まるで小学校の先生のような感じだった。
桜の質問に、少年は不満そうに唇を尖らせる。

「そんなこといっても、迎えに来ないんだもん、しょうがないじゃん」
「そう……先輩、どうしましょうか?」

桜の言葉に、俺は考える。
迷子なら、警察に連れてくなり何なりしなきゃならないが、どうも、少年は誰かを待っているようだ。

「少し、待ってみようか。日が暮れるまでに来なかったら、警察に連れてくなりすればいいだろ」
「そうですね。それじゃあルー君、お姉さん達とお話しようか?」

桜の言葉に、少年は頷こうとし……止めた。何かに気づいたように、少年は視線をめぐらし、やがて、道の向こう側を見て顔を輝かせる。

「来た! おーい、エリン!」

道の向こう側に向けて、ブンブンと手を振る少年。
俺と桜は、そちらの方に視線を向けて、ギョッとなった。

「いや、すまない、遅れたようだ」

サラリーマン風の男は、少年の父親だろうか。年のころは若く、二十代後半くらいだろう。
だが、なんといっても特筆すべきのは背の高さだろう。俺より頭、二つ分くらい高い。おそらくは二メートル位はあるんじゃないだろうか。

そんな男に、少年は駆け寄ると、器用に男の体をよじ登り、肩車のように乗っかったのだった。

「遅いよ、朝からずっと待ってたんだからな!」
「いや、すまないすまない。それで、こっちの人は?」

頭の上の少年に謝りつつ、男の人はこちらを向いた。
なんとなく、上から見下ろされるのは落ち着かない。それは、桜も同じようだった。

「あの……」
「にいちゃんたちは、俺と遊んでくれたんだ。いい人たちなんだぜ!」

なんといっていいのか、口ごもった俺に、ルー君が助け舟を出してくれた。
それで、なんとなく張り詰めていた雰囲気がやわらかくなった。

「そうですか、どうもお世話になりました。私、エリンというものです。この子は親戚の子供で、二人でこの町に移り住んできたんですよ」

そういって、よろしく、と青年は頭を下げた。
そうして、青年と少年、大男と子供の組み合わせは、夕焼けの商店街を歩き去っていった。

「またあそぼーなっ!!」

エリンという青年の肩の上で、ブンブンと手を振るうルーが、とても印象に残った。


そうして、俺と桜はそのまま家路に着いた。
今日は遠坂は用事があるのか、家には来なかった。ただ、その分、桜ががんばっていたが。

ご飯に若菜のお味噌汁。それに、鰻と焼き豆腐の煮物など、バリエーションに富んだものだった。
桜の勢いは、食事の用意だけでなく、食事の時にも、それは続いていた。

今日の出来事を事細かに、あの時はああで、こうでと、話し続けたのだった。
そのせいで、他の女性陣である二人、藤ねえもイリヤも、デートについてひそかに燃えている節があった。

明日からも大変だな……俺は苦笑し、それでも元気になった桜を見て、デートをして良かったと思ったのだった。



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