〜Fate GoldenMoon〜 

〜Another Seven Day〜



「さ、どれにする?」
「あの、先輩……ここって」
「ああ、見てのとおり、喫茶店だけど?」

おちつかなげな桜の声に、俺は単純にそう返答した。
桜を連れて訪れたのは、川沿いにある喫茶店である。遠坂に薦められて訪れた後は、何度か一人で訪れたこともある店だ。

お昼時も過ぎたせいか、店内の客もまばらであり、俺と桜はお目当ての窓際の席に座ることができた。

「お勧めは紅茶だけど……なにか、小腹に入れたほうが良いかもな。これから映画も見るんだし」
「はぁ……えっ?」

曖昧に返事をして、桜はメニューを開き、そこに書かれていた金額に絶句した。
まぁ、普段なら俺だって頻繁に訪れようとは思わない。それくらいな金額だからな。

「桜は、何かランチメニューにしたほうがいいな。さっきの弁当じゃ、ぜんぜん満腹にはならないだろ」
「そ、そんなことありませんっ。先輩は私がそんなに大喰らいだと思ってるんですかっ!?」

俺の言葉に、不満そうに頬を染める桜。
桜は、藤ねえほどじゃないけど、やっぱり食事を多めに取るほうだと思うけどな。

「いや、さっきの弁当、俺がかなり食っちまったからな。桜も、もう少し食ったほうが良いと思ってな」
「そう……ですか。そうですよね、それじゃあ」

俺の言葉に納得したのか、ランチメニューを注文する桜。俺も、紅茶と焼き菓子のブレイクセットを注文した。


食後の紅茶を飲みながら、俺と桜はゆったりとした時間を過ごす。
ランチメニューをきっちり全部平らげ、俺と同じ紅茶を飲む桜。

「本当に意外です、先輩がこんなお店を知ってるなんて」
「ああ、前に、遠坂に教わってな、前々からちょくちょく来ているんだ」
「そう、ですか……」

俺の言葉に、急に声のトーンを落として、俯いた桜。
ティーカップをソーサーに置き、テーブルの上で手を組む。

「昨日も、遠坂先輩と一緒に、ここに来たんですか?」
「遠坂と? いや、そういえば、この店に遠坂と一緒に来たことって……なかったな」
「えっ……?」

俺の言葉に、驚いたように顔を上げる桜。俺は思い返すように天井を見上げながら、口を開く。

「最初に薦められたのも、遠坂とは関係ない別の件だし、何だかんだで一緒に、ここに来たことってなかったな」
「――――」
「って、どうしたんだ、桜?」


俺の言葉に、ハッと我にかえると、桜はどこか嬉しそうに微笑を浮かべた。

「いえ、何でもありません。それより先輩、時間は大丈夫なんですか?」
「時間……? そうだな、そろそろいったほうがいいか……」

腕時計を見ると、時刻は二時半を回っていた。
指定席だが、会場の混雑振りを見ると、少し早めにいったほうが良いだろう。

「じゃあ、行くとしようか?」
「はい、先輩」

俺と桜は、連れ立って店を出る。
桜は何でか上機嫌で、ニコニコと笑いながら、俺の手を握って放そうとしなかった。


駅前の映画館、普通席のチケットを買う行列を迂回し、指定席のチケットを使って中に入る。
店内の売店で、パンフレットやポップコーン、ジュースなどを買って、俺達は席に座った。

ヴァージン・シネマと呼ばれるチェーン店は、ここ最近、この街にも作られた新しいタイプの映画館だった。
何でも、音響効果を利用した特設ステージで、回り全てから音が聞こえるように作られているとか。

席は、最後方の真ん中の席だった。
俺と桜は、指定の席に座り、顔を寄せ合ってパンフレットを覗き込んだ。

「楽しみですね、先輩」
「ああ、そうだな」

曖昧に返事を返しながら、俺は未だ何も映していないスクリーンに、そうして、会場に視線を移した。
真っ暗な中、続々と観客が席に着き始めるのが見えた。

「ん……?」

暗がりで、よく分からないが、なんだかあそこの二つの席だけ少し光っているように見える。
銀色……なんだろうか、わずかな光を反射するそれは、観客の髪のようだった。

「先輩、始まるみたいですよ」
「あ、ああ」

桜の声に、俺はスクリーンに視線を戻す。
映画なんて、実際に見たことなんてなかったから、実は楽しみだったりする。

そうして、映画の提供の、メーカーロゴが映し出され始め……高らかな音楽、流れる映像とともに、映画が始まった。


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