〜Fate GoldenMoon〜 

〜Another Seven Day〜



「ふぅ、今日も暑いな……」

夏の日差しを浴びて、ため息を一つ。
ここ最近は、日を追うごとに、季節の変わりを実感できた。

明け方早くから、暑さのせいで目を覚ますことになり、おかげで少々、体が気だるく感じられる。
藤ねえ、イリヤと一緒に朝食を済ませ、そうして今、俺は商店街にを歩いていた。

時刻は十時より少し前。桜との待ち合わせ場所はすぐそこだった。

「それにしても、公園で待ち合わせって……桜らしいけどな」

基本的に、派手なところや賑やかな所より、桜は静かなところが好きで、今回のデートも徒歩で、新都のほうの公園に出かける予定だった。
おそらくは、律儀な桜のことだ。約束の時間より早く来ているに決まっている。

そう考え、俺は苦笑を漏らした。
先日の遠坂との待ち合わせのときのような、感情の高ぶりはない。だけど、相手のことを知っている分、快い雰囲気を感じてもいた。

そんなこんなで、俺は目的の公園についたのだが――――

「桜ねーちゃん、こっちこっち!」
「う、うん、ちょっと待って――――」

公園には、桜のほかに一人の子供がいた。
小学生か、中学生くらいの男の子は、やんちゃそうな、どこか無邪気な顔で桜と遊んでいた。

滑り台、ブランコ、ジャングルジム――――見る限り、その少年に桜が引っ張られているようにも見える。
商店街の一角にある狭い公園。そこを所狭しと駆けずり回り、二人は遊んでいた。

「あ、先輩」
「桜……なんていうか、楽しそうだな」

俺のその言葉に、桜の顔が赤く染まる。
桜の姿は、ノースリープの空色のワンピース、つっかけサンダルを履き、肩から提げるバッグを公園のベンチに置いていた。

見栄えのほうは申し分ないけど、男の子に散々振り回されたせいか、汗だくだし、息も切らせている。
もともと、桜は活動的なほうじゃないからな。こういった光景は珍しいが……。

「にいちゃん、桜ねーちゃんの言ってた人?」
「ああ、そうだけど……君、近所の子じゃないよな?」

この暑い時期、わざわざ外に出て、遊ぶような子供は、商店街にいない。
そのせいで、この公園は夏も冬も放置されたままの状態だったのだが――――。

「うん、オレの名前、ルーって言うんだ。なんか用事があるって、この町に連れてこられたばかりなんだ」

へへへ―――と、ニコニコと笑う少年。なんというか、お日さまを感じさせる笑顔だった。


「それで、桜……大丈夫か? すごい汗だけど」
「は、はぃ……大丈夫ですよ、センパイ」

と、言葉ではそういうが、その足取りは危なっかしく、ふらふらしている。
そのままだと、なんとなく倒れてしまいそうな――――

「っ、危ないっ!」
「あっ……」

バランスを崩した桜を、俺はとっさに抱きとめた。
汗の纏わりついた桜の体からは、なんというか、汗とは別の不思議な香りを感じた。

「お〜」

が、少年の視線と、その声で我に返り、俺と桜はパッと身を離した。
なんとなく、心臓が早く脈打っているように感じられる。落ち着かないのは桜も同じなのか、妙にそわそわした仕草をしていた。

何を考えてるんだ、俺は。相手は桜だぞ、そんな――――

「って、桜、お前――――」
「え、先輩……きゃっ!?」

悲鳴を上げる桜にかまわず、俺は桜の足元に屈み込んだ。
桜のサンダルを履いた足は、皮がめくれて、血が滲んでいた。バランスを崩すわけである。

「いくらなんでも、はしゃぎすぎだろ、さく――――」

ら、と言おうとして、俺は身を固くした。
視線を桜の顔に向けようと、屈んだ状態で見上げたのもよろしくない。
足首から上へと登ったアングルは、ものの見事に、なんというか、その――――ピンク?

「にいちゃん、助平だな」

ぐはっ、何かしら、いろんな意味で、致命傷を受けた気がする……子供にそういわれるとは。
桜は真っ赤になっているし、ごまかすと、泥沼に嵌りそうだし……

「しょうがないな」
「わきゃっ!?」

俺は立ち上がりつつ、ひょい、と桜の体を両腕で抱えあげた。
俗に言う、お嬢さま抱っこというやつだが、はたから見ると、間抜けにも見えそうだよな。

「せ、せんぱいっ!?」
「これじゃ、歩くのもつらいだろ。薬局まで、歩かないほうがいい」

確か、商店街の中に薬局があった。湿布くらいなら、そこで売ってるだろ。

「恥ずかしいなら、おんぶでも良いけど、どうする?」
「……いえ、これで良いです」

数瞬、沈黙した後、桜はそういって、俺の腕にそっと手を添えてきた。
う、なんというか、そういう態度をとられると、非常にこそばゆい感があるな……。

「っ、ともかく、早いとこ治療しに行くぞ」
「にいちゃんたち、もう行っちゃうんだ」

俺の言葉に、とたんに寂しそうな顔を見せたのは、桜と遊んでいた少年だった。
さっきまでの闊達さが嘘のようにその表情は寂しげだった。

「ごめんね、ルー君。また、今度遊びましょう」
「ん、絶対だからな、桜ねーちゃん。ねーちゃんの彼氏のにーちゃんも、今度一緒に遊ぼうな」

そう言うと、少年は再び公園の中で遊び始めた。
遊ぶ少年に背を向け、俺は桜を抱きかかえたまま、商店街に引き返した。

最寄の薬局でシップを買い、桜の足に応急処置をすると、俺達はバスで新都に向かうことにした。
桜は歩きで行きたがっていたが、公園で少々時間をつぶしてしまったし、足のことも考えると、バスのほうが良いという結論に達したのだった。


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