〜Fate GoldenMoon〜 

〜Another Seven Day〜



深山町の北西。郊外にある森の中に、人を寄せ付けぬ荘厳な城がある。
夜半過ぎ、二人の来客がこの城を訪れることになった。

「はぁ、ここがアインツベルンの城ですか」

興味深げに、城のロビーでおのぼりさんよろしく、周囲を見渡す女性。
その連れ添いの男性のほうは、興味なさげに、むすっとしたような表情をする。

「ヒルダ、少しはしゃんとしろ。出迎えがきたようだぞ」

男の言うとおり、ロビーの階段を下りながら、単調的な歩調で歩いてくる影が二つ。
女性も、そちらのほうを向き、近づいてくる影に視線を向けた。

人影は、二人の女性。似たようなメイド服に身を包んだ彼女らは、来客に対し、深々と礼をする。

「フロイライン・アイゼンベルク様ですね、お待ちしておりました」
「もう、お嬢様(フロイライン)と呼ばれる歳じゃないんですけどね……あなた方は?」

苦笑する女性に、侍女の一人、鋭い眼をしたほうの女性が、淡々と応じる。

「私は、セラ。こちらは、リーズリットと申します。お二方の滞在中、お世話をさせて頂くことになっております」
「……よろしく」

もう一人のトロン、とした目の女性は、対照的に一言、よろしくという挨拶だけだった。
その態度に、セラは何か言いたそうだったが、お客の手前上、何も言うことはしなかった。

「こちらこそ、よろしくお願いします。私は、ブリュンヒルデ・フォン・アイゼンベルクと言います。そして、彼は私のパートナーで……」
「シグだ。ランクは……セイバーのランクを習得している」

ニコニコ笑顔の女性、ヒルダと、どこか、中世の騎士のような風格の男性、シグ。
軽い自己紹介が終わり、セラとリーズリットに引き連れられて、二人の来客は客間へと向かう。

城の内装は、どこも凝っていて、相変わらずヒルダは興味深げにあちらこちらを見ていた。

「そういえば、アインツベルンの姫様は、今、どちらにいらっしゃるんですか?」
「イリヤスフィール様は、今は市井の方に身を置かれています。おふた方が会う必要は、ないと思いますが」

セラのその返答は、丁寧ではあったが、どこか警戒する響きが混じっていた。
まるで、この二人がイリヤを狙った刺客ではないかと疑っているようでもある。

そんな彼女の態度など意に介さず、質問したヒルダは残念そうに肩を落とした。

「まぁ、会わなくても良いんでしょうけど、私としては、会ってお話してみたかったんですけどね」
「あなた、イリヤと友達になりたいの……?」
「はぁ、友達というか、知り合ってはおきたいとは思いますけど」

リーズリットの言葉に返答するヒルダ。
その様子を、セラとシグは、それぞれ不機嫌そうな表情で見つめていた。


「こちらです。客間は二部屋が続いておりますので、よろしければそちらもお使いください」
「そうですか、それはどうも。それじゃあ、夜ももう遅いですし、寝ることにします」

ヒルダの言葉に、ごゆっくり、と短く応じると、二人の侍女は、廊下を歩き去っていった。

「さて、それじゃあ休みましょう、シグ。ずっと歩き通しで、疲れたでしょう?」
「……まぁ、俺の背中に負ぶさってたお前は、ぜんぜん疲れてないようだがな」

獣も迷う、樹海のような森を、地図もなしに女性一人を背負って、わずか数時間で走破した青年は事も無げに応じる。
青年の言葉に、ヒルダは不満そうに唇を尖らせた。

「ひどいですね、シグは。負ぶさるのだって、けっこう体力を使うんです。それに、昼間もあちこちを見て回ったし」
「九割以上は、観光気分だったように見えたがな」
「うぐ……」

反論もできず、黙るヒルダ。そのシルバーブロンドの頭に手を置き、シグは苦笑を浮かべた。

「まぁ、疲れているのは事実だろう、今日はもう休むとしよう」
「それ、さっき私も言ったんですけど……」
「それで、明日からの方針は?」

頭をなでられながら、ヒルダはしばし考え、自らの英霊、セイバーに向かって言う。

「アインツベルンのお姫様を探しましょう。それが、聖杯への手がかりにもなるでしょうから」

アインツベルンのもとより遣わされた、新たな魔術師。
鉄の獣(アイゼンベルク)の異名を持つ女性は、決然とそう言ったのであった。



〜キャラクター情報が追加されました〜


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