〜Fate GoldenMoon〜 

〜Another Seven Day〜



「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきまーっす」
「うーん、おいしそう、やっぱ、ご飯は山盛りよね!」

各自めいめいに、そんなことを言いながら、夕食を開始した。
ちなみに今日の夕食は、スパイスをたっぷり入れたシチュー、生野菜のドレッシングがけと、炒飯である。

あと、汗を拭くタオルも用意してある。
夏は食欲がなくなりがちなので、たまには、こういう刺激のあるものを作ろうかと思ったのだ。
もっとも、その理由の一つは、なし崩し的に案内した、中華料理屋が印象に残っていたのかもしれないが。

「士郎、おかわり」
「あ、私もお願いね」
「はいはい、あと、炒飯は一人、おかわり一杯分しかないから。そのあとは普通のご飯になるからな」

そんなこんなで、和やかに夕食は進行していった。
まぁ、藤ねえがシチューをご飯にかけて食べたしたのを、イリヤが真似しようとしたのを止めたり、ほかにも些細な出来事はあったが、割愛する。


桜が遠坂におずおずとした口調で質問したのは、夕食も、ほぼ終わるころだった。

「あの、遠坂先輩……その指輪、どうしたんですか?」
「指輪?」

桜の言葉に、俺は遠坂を見る。気づかなかったが、遠坂の右手には指輪がはまっていた。
その質問に、遠坂は俺のほうをちら、と見てニコッ、と笑みを浮かべる。

……なんか、非常にやな予感が。

「自分で買うわけないじゃない。買ってもらったの、衛宮君にね」

ぴしり、と空気が凍った。
桜も、藤ねえも、イリヤも驚いたような表情で俺を見ている。

「ど、どういうことですか、先輩っ!」
「いや、どういうこと、って」

ずずいっ、と詰め寄ってくる桜。俺は助けを求めて遠坂を見るが、遠坂は我関せずといったふうに、食事を続けている。
流れ出した汗は、どうもスパイスのせいではないらしかった。

「遠坂には、借りがあるから、そのお礼で買っただけだ。別に、他意があるわけじゃないぞ」
「じゃあ、何でリンは、それを薬指に付けてるわけ?」

不機嫌そうに、今度はイリヤが追求をしてきた。
それに対し、悠然と口を開いたのは遠坂である。

「あら、聞いてなかったの? 衛宮君は、私に借りがあるって。で、その借りを返すために、私の恋人役を演じてくれる事になったの」
「恋人、役……?」
「ええ、最近学校で、私に言い寄る人が、けっこう増えていてね。このままじゃ、勉学に支障をきたしかねないから」

だから、衛宮君に虫除け代わりになってもらうことにしたの。
そう続ける遠坂に、周囲はしばし沈黙すると――――

「やっぱり駄目ーーーーーっ!」×3

見事に異口同音に、反対の言葉を口にした。

「シロウは私のなのっ、リンが独占するなんて許さないんだからっ!」
「前半部はともかく、後半部はそのとおりですっ! 遠坂先輩と先輩がくっつくなんて、納得できません!」
「そうよぅっ! 士郎はずっと私の食事の面倒を見なきゃならないんだから!」

そんな風に、めいめいに叫ぶ三人。しかし、遠坂はあわてるそぶりも見せなかった。
炒飯の最後の一口を食べ終わると、遠坂はあっさりと、

「じゃあ、みんなも頼めば良いじゃない、恋人役」

そんなことを口にした。



「さっき言ったとおり、私はあくまでも恋人役を頼んだだけで、衛宮君を独占する気は無いわ。それがうらやましいなら、あなた達も頼めばいいのよ」

こともなげに、そんな事を言いやがります、遠坂さん。
なんというか、桜もイリヤも藤ねえも、呆気にとられたように遠坂を見ている。

そうして、その体がカタカタと震え始め――――

「その話、乗ったわっ!」
「なんですとっ!?」

イリヤが、握りこぶしを振り上げて、がぁ――――、と叫ぶ。
藤ねえも桜も、こっちを見た。いや、なんかその目が、小動物を狙う肉食獣に見えたのは気のせいじゃないだろう。


「――――じゃ、俺は後片付けがあるから」

席をたって台所に逃げようとする。が、素早く藤ねえがその前に回りこんできた。
これはまさに、前門のトラ、後門の――――

「じゃあ、シロウは明日は私とデートよっ! リンに負けないプレゼントも買ってもらうわっ」
「駄目ですよっ、先輩は明日、私とデートするんです! せっかく、弓道部も休みなんだし……」

決然とした表情で、叫ぶイリヤと、デートといったあと、恥ずかしそうに語尾を濁す桜。

「士郎〜、お姉ちゃんは駅前の高級料理店、一度行ってみたかったのよね〜」

そうして、藤ねえもヤル気満々の表情で、俺に詰め寄ってきた。


「お、俺を破産させる気か――――!」

思わず叫ぶが、誰もそんなこと聞いちゃいなかった。いや、ただ一人、離れた所で遠坂が笑っていたが。
そんなこんなで、明日は桜、明後日はイリヤとデート。明々後日は、藤ねえと駅前の高級料理店に出かけることになった。

明日からも忙しくなるな……。寝床に着きながら、俺はこれからのことを考えようとし……途中でやめた。
蒸し暑い夜、せめて何も考えず、ぐっすりと眠りたかったのだった。


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