〜Fate A Bond of Bluish Purple〜 

〜それは誰かの独白〜



闇の中、鷹の目をもって、彼方に在る街並みに目を向ける。人の絶えない夜の街。
灯りは闇を照らし出す白色をもって、今はまだ平穏な街並みを照らし出していた。
しかし、光の届かぬところには、闇よりもなお鮮明な黒がある。暗がりを歩いている犬や猫を取り込み、それは徐々に姿を変えていった。

「……まさか、こんな状況になるとはな」

未遠川にかかる鉄橋の上に立ち、私は嘆息を漏らす。予想外といえば、予想外の出来事。
衛宮士郎という人物はもはやこの世にはおらず、代わりに生まれ出たのは、なんとも形容のしがたいものだった。
それは夜の闇をわたり、暗躍を始めている。私としては、拍子抜けもいいところだった。

永きにわたる磨耗と消削の定め。やっと願った場所にたどり着いたと思えば、二度も目的は果たせぬ仕舞いだった。

「さて、これから……どうするべきなのか――――」

知らず知らず、口からはそう呟きが漏れる。目的を失った今、今後の身の振り方を、私は決めかねていた。
その時、英霊の気配を感じ、私は背後に向き直った。海浜公園の方角より、何者かが疾って来るのが見える。あれは――――、

「ったく、なんなんだよ、あれは――――って」
「こんなところで会うとは、奇遇だな」
「!」

私の声に、足を止めたのは、蒼色の鎧を着た男。獣のような相貌をした男は、呼称をランサーと言ったか。
因縁浅からぬ相手との遭遇に、向こうは警戒を強めたよう。もっとも、私としては事を荒立てるつもりはないのだが。

「てめぇ、何でこんな所に居やがる――――ひょっとして、さっきの変なやつも、お前の差し金か?」
「……さて、何のことやら」

光が流れる。夏の夜を切り裂くように幾つもの乗用車の光が、相対する私とランサーを一瞬照らしては、彼方へと消え去っていく。
その瞬きをするほどの光の切れ目。一瞬の間隙の後、ランサーの手には真紅の槍が、私の手には黒白の夫婦剣が握られていた。
様子を鑑みるに――――どうやら、向こうは十二分にやる気のようだ。さて、私はどう出るべきだろうか。

「何を知ってるのか、洗いざらい吐いてもらうぜ!」
「――――」

初撃、最初から殺すつもりで額に向けた一撃が穿たれるのを干将で弾き、私は数歩後退する。
それを機に、向こうは遮二無二攻めかかってきた! 赤き熱線の如き鋭利な刺突、それを両の手に持って夫婦剣で相殺し、私はさらに下がった。

「おらおら、どうした、少しは反撃して来いよ!」
「っ!」

挑発するように吐き捨てると、ランサーはさらに攻撃の速度を上げる。まるで流星群のように数多の光が……私に向け降り注ぐ。
私は、両の手に握った双なる剣を握りなおすと、それを全力で迎え撃った――――。


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