〜Fate A Bond of Bluish Purple〜
〜それは誰かの独白〜
久方ぶりに味わう平穏な日々……宗一郎様の元へ戻ってこれるなど、想像していなかった。
あいも変わらずそっけない態度だけれど、そんな宗一郎様と共にいられるのが、何よりも私には幸福だった。けれど……
「あはははははははっ、葛木先生ったら、おかしいなぁ、もう」
「――――ふむ、そうでしょうか」
さすがに、この状況は如何なものだろうかと思う。
今は夕食の時間。これから二人っきりで夕食をとり(侵入者は強制排除して)、一緒にお風呂に入って(覗きは強制排除して)、そして、一緒のお布団で(略)……。
毎朝、学校に出かけてしまう宗一郎様……一緒に過ごせるのは極々僅かな時間なのに――――
「ね、ギルガメッシュ君もそう思うでしょ」
「ふむ、そういうものかな」
なんで、こんな状況になってしまっているのよっ!?
事の発端は、夕方、宗一郎様が帰ってきた時のことである。正門前に宗一郎様の気配がしたので、喜び勇んで出迎えに行くと、そこにはもう一人、見知らぬ女の人がいたのだ。
「――――ええと、あの、宗一郎様……そちらの方は?」
「ああ、同僚の藤村先生だ。少し事情があってな。いろいろと相談したいことがあったので、家に招待することにした」
――――そこまでは、まあ良い。基本的にその女性は奔放ではあるが、宗一郎様に恋愛感情は持ってなさそうだし、もし持ってても、処分してしまえばすむことである。
だが……その女の人の後ろから姿をあらわした人影を見て、私の心臓は凍りついた。
黄金の髪、鋭利な、神々しい顔立ち――――見間違うことも無い。目の前に現れたのは、前回の聖杯戦争時、私を完膚なきまでに殺し尽くした英霊その人だったのだ。
「ほう、このような所に慎ましやかな神殿があるとはな。なかなかに興味深い」
「あ、あの――――彼は?」
「あ、ギルガメッシュ君のこと? ちょっとした知り合いなの。このあたりに興味があって、観光に来たんですって〜」
藤村という女の人の口から出た言葉に、私は愕然となった。では、この女性はあの英霊のマスターなのだろうか。
とてもそんな風には見えないけど……だけど、私が宗一郎様を選んだように、何事にも例外は存在するものだ。
その英霊、ギルガメッシュはというと――――まるで値踏みをするように、私をじろじろと見つめていた。
「……何でしょうか?」
「ふむ…………、…………ま、良いか。今は小物に関わっている時でもない」
油断すれば即座に殺されるのではないか……のどに込みあがった唾を飲み込むことすら躊躇われた私だが、幸い、それは杞憂に終わった。
ギルガメッシュは私から視線を外すと、何かを探すように寺の境内のほうへと歩いていったのだった。
そして、夕食時――――相談事というのが長引いた宗一郎様と、藤村先生。それに、寺の境内をうろついていたギルガメッシュと共に、私は食卓についたのである。
宗一郎様の命だから、反対するわけにも行かなかったのだけど…………でも、この状況をどうすれば良いのよっ!?
「あはは、それで〜……」
意味も無く溌剌とした藤村先生が宗一郎様に親しげに話し掛けている。私はというと、ずっとこっちに向けられている視線に針の筵状態だった。
注目してくるギルガメッシュは無言。自分自身を守るためにも、私の方から相手を刺激するような真似をするわけにはいかず…………
そうして、奇妙な状態の夕食は、ゆっくりと過ぎ去っていくのであった……。
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