〜Fate A Bond of Bluish Purple〜 

〜それは誰かの独白〜



地の底より響く呻き声……漆黒の太陽を模した球体は、その中をのぞこうとしても、幾重にも分かれた彼岸のごとく在る。
およそ人の身では、如何様にしてもその深淵に辿り着くのは不可能に思われた。
――――しかし、先ほどの出来事は、その予想を覆すものであった。

光の槍が、世界を染め上げ、黒き杯を純白に塗りこめたとき、私の胸に飛来したものは何であったのか……。

「しかし、アーチャーは来ないみたいだね……せっかく、聖杯が手に入ったのに」

祭壇の丘に腰掛け、嘆息する少年。その手には無骨な槍を持ち、まるで侍従のように、魔術師をつき従えている。
私達の頭上には、黒き聖杯の孔―――――――それを完全に制御し、少年は共の者を待っていた。
あの赤い騎士……あれも、相手にするのであれば否はないが……今はそれよりも興味のある相手が目の前にいた。

「頃合、ということなのだろうな」
「――――? どうしたんだい、アサシン」

ポツリと呟いた言葉は、少年に聞こえるかどうか、一種の賭けではあった。聞きとがめられなければ、私はまた、違う道を選んでいたのかもしれない。
しかし、犀は投げられてしまった。経緯がどうあれ、一度は進むとした道を変えることが出来るほど、私は器用ではなかった。
手には愛用の刃。長丈のそれを、今一度握りなおし……私は静かに呟いた。

「死合おうか」
「――――えっ?」

その言葉を予想していなかったのだろう。少年は戸惑うように、私を見返した。彼の背後、魔術師のほうは不機嫌そうに私を見たが、さして気にもならなかった。
私は自ら、距離をおく。槍使いの彼の者に対しては、無謀極まりないことであったが、呆けているところを斬り伏せても意味はない。
腰をあげながら、しかし尚も武器を構えない少年に、私は静かに言い放つ。

「私の目的は、強者と斗うことだ。そして、聖杯を御した御主は間違いなく強い。これ以上の相手はないだろう」
「アサシン、僕は――――君のことが好きだよ」
「ふっ……男色の気は無いが、私とて君のことは気に入っている。だが、それとこれとは別というものだ」

物干し竿を持ち直し、構えると、さすがに無防備ではいられないのか、少年は自らの得物を構えた。
それでいい……強さを突き詰める故の道に、例外は存在せず……ただ弾き合う鉄の火花こそが語り合う。
生涯で完成し得なかった道――――今、この一瞬……せめて一歩でも真理に近づけることを願い…………私は、地を蹴った。

「アサシン……っ!」
「往くぞ――――秘剣……」

乾坤一擲を投じ、飛沫の如く軌跡を描く……自らとて出し方を理解できぬ必殺の業。
自らを超えるため、自らこそを越えるため――――私は、すべてを出し切り、刃を解き放った。

「燕返し!」


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