〜Fate A Bond of Bluish Purple〜 

〜蒼空の騎士〜



出会ったときの印象は、いつかの時とそのまま、群青のどこまでも果てしなく広がる青い空。
かつての聖杯戦争のときの強敵――――槍使いの英霊、ランサーは私に気がついたのか、どことなく不敵な表情で笑いかけてきた。

「ん――――おお、嬢ちゃんじゃねえか。あの赤いのは、一緒じゃないのか?」
「ランサー……何で、アンタが……?」
「そんなの、呼び出されたからに決まってるだろ? 俺としちゃ、迷惑なことこの上なかったんだがな」

不満げに鼻を鳴らし、肩をすくめる群青の騎士。しかし、何か違和感がある。
そもそも、私のことを知っているということは、目の前のランサーは、半年前に私が遭遇した……あの英霊ということになる。
だけど、半年前のあの戦争で生き残ったのは、セイバーただ一人のはずだ。そして何より、さっきの言葉に気になる部分がある。

「さっき、赤いのって言ってたわよね……まさか、アーチャーも居るっていうの……?」

恐る恐る、ランサーに聞いてみる。結果的に、捨て駒にしてしまった、私の英霊。彼のことを考えると、今も胸の奥が燻る。
そんな私の様子に何を察したのか、どこか野性的な表情が、歪む。それは、苦笑か、嘲りか、どちらだったのだろう。

「その様子だと、未だ遭っちゃいないみたいだな。ま、俺には関係ないことなんだけどな」

ランサーは、私の問いに答えを出さぬまま、こちらへ向けて足を踏み出す。立ち上らせる殺気を向ける相手は、私か、それとも――――、
私は、イリヤを背中にかばうようにして、ランサーをにらむ。まともに戦闘したのは一度……過去の推察から、相手が強敵なのは分かりきっていた。

「ジャネット!」
「はい、マスター」

私の言葉に応じるように、ジャネットが愛剣を構え、私の前に出る。私もサポートするため、懐からいくつかの宝石を取り出した。
こちらの戦闘準備を見てか、ランサーは踏み出しかけていた足を止めた。その顔には、うんざりとしたような表情が浮かんでいる。

「おいおい、勘弁してくれよな、こちとら、慣れない鬼ごっこに付き合わされてたんだ。いらいらして、手元が狂っても知らねえぜ」
「?」

どうも、口調から察するに、ランサーの狙いは私達というより、そこに転がって気絶している二人組みのようだ。
だったら、無益な戦いは――――、

「ま、こういうのも悪くないけどな」
「――――!」

ぞくり、と空気が震えた。いや、ランサーの放つ気迫に、肌があわ立ったのだ。正直、相手を測り間違えていた。
目の前の相手は、経緯がどうであれ、目の前の戦には全力を尽くすタイプなんだと、直感した。

「イリヤ、もうちょっと下がってて」
「う、うん」

赤い槍を構えたランサーから眼を離さぬまま、イリヤに下がれと命じる。イリヤが大人しく従って離れていく間に、私は深呼吸をひとつ。
――――大丈夫、戦える。最初の遭遇の時みたいに、ただ呆然と見ているのは性に合わない。

「準備はできたか? 俺を失望させてくれるなよ」
「ええ、そっちこそ、手を抜いたりしない事ね。ジャネット、いくわよ」
「はい、ご随意に」

おそらくは、初手から激しい戦いになる。そんな予感がしていたこの戦い。余裕綽々のランサーを、いかに崩せるかが勝負の分かれ目のようだった。
考えろ。恐らくは数秒と残されていない有余の中で、私は勝つための算段を巡らせようとしていた――――。


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