〜FATE・Avaron〜 

〜いつものような放課後〜



「それでは、本日の連絡事項は以上だ。氷室、号令を」
「はい。起立――――、礼」

クラス委員の氷室の号令とともに、ホームルームは終了。今学期の通常授業はこれで締めくくられることになった。
これで後は、明日の終業式を終わらせれば、冬休みに入ることになる。

「……衛宮君、ちょっといい?」
「ん?」

机から出したノート類を鞄に詰めてると、見知ったツインテールの女子が俺に声をかけてきた。
冬服に身を包んだ、溌剌とした表情の女生徒は、言わずもがな、遠坂その人である。

「別にかまわないけど……何か用か、遠坂」
「うん。今日は一緒に、桜のところに行かない?」
「……ああ、弓道場か」

今日は、確か弓道部の大掃除があるらしい。冬休みに入ると、さすがに道場のほうも寒いので、まだ寒さが本格的ではない今日、掃除をすることにしたのだとか。
しかし、遠坂の方から言って来るなんて珍しいな。確かに今日は、弓道部のほうに顔を出そうか考えていたところだけど。

「衛宮君のことだから、どうせ頼まれなくても手伝いに行くんでしょ? だったら一緒に行こうと思って」
「はぁ……それは構わないけど、何でだ?」
「――――」

俺が聞くと、遠坂は一瞬、ぽかんとした顔になると、急に何故か、照れたような顔になった。

「いいじゃない、単なる気まぐれよ。ほら、さっさと準備しなさい」
「あ、ああ」

急かす遠坂に促され、俺は慌てて荷物をかばんに詰め込むと、席を立った。



放課後、遠坂と一緒に弓道場に行くと――――そこではすでに、弓道部の生徒たちが大掃除を開始していた。
胴着に着替えてめいめいに、外で掃き掃除を行っている者、弓道場の床を雑巾掛けしているものなど、多種多様である。

「ふぅん、何だ、けっこう片付いちゃってるのね」

どこか拍子抜けした顔で、遠坂は弓道場を見渡して小首をかしげる。そんな遠坂を男子部員達が、こそこそと盗み見ているのが伺えた。
やっぱり、なんだかんだ言って目立つんだよな、遠坂と居ると……そう考えていると、胴着を着た生徒が声をかけてきた。

「なんだか下級生がうるさいと思ったら、衛宮と遠坂じゃないか。どうしたんだ、いったい」
「美綴、お前も来てたのか」
「ああ、OBのよしみでね。暇だから付き合うことにしたのさ。衛宮は遠坂とデートかい?」
「いや、俺もなんか手伝えることはないかなって……そういえば、藤ねえと桜は?」

弓道場を見渡すが、目の届くところには二人の姿は見えない。清掃中の道場を見渡していると、背後から声をかけられた。

「あ、先輩――――来てくれたんですか?」
「お、噂をすれば影、だねぇ……間桐、衛宮のやつは、あんたに会いたくて、飛んできたんだってさ」
「えっ」

振り向くと、そこには胴着を着た桜がいた。なにやら照れているようである。と、俺と桜の間に割って入るように遠坂が顔を出した。

「桜、私も居るんだけど」
「あ、す、すみませんっ……」
「――――まったく……、予想していたとはいえ、油断できないわ」

などとぶつぶつ言いながら、なぜか遠坂は俺の腕に、自分の腕を組ませたりしている。その様子を見て、桜の表情が険しくなってるんだが……。

「お、おい、遠坂……?」
「へぇ……んじゃまぁ、あたしも」
「って、美綴まで何やってるんだよ!」

今度は反対側の腕に、なぜか美綴が絡んできた。楽しんでる、その表情は、絶対に楽しんでる。
桜はと言うと、どうやら完全に怒っていらっしゃるかのようだった……なんというか、普段温厚な分、怒ると非常に怖い。

「――――3人とも、お暇なら裏の雑木林の掃除をお願いできますか? 落ち葉を掃除しなきゃいけないので」
「裏の雑木林、って……」

弓道場の裏には雑木林がある。だだっ広いうえに、今は完全に葉が落ちてしまい……見渡す限り落ち葉の海だった。
あれを掃除するとしたら、一日じゃすまないだろうが――――と、そんなことを考えていると、つつつ……と遠坂が俺から離れて奥へと行ってしまった。

「さ、冗談はこれくらいにして、きりきり働くとしますか」
「――――あ、そうだ、あたしもやることがあったっけ」

さすがに、形勢不利と見て取ったのか……美綴も俺から身体を離すと、他の部員のもとへと走っていってしまった。
後に取り残されたのは、俺一人――――怒るよりも怖い桜を前に、俺はどうしたものかと考え込んだ。

「さ、先輩――――倉庫に竹箒がありますから、どうぞ頑張ってきてくださいね」

ニコニコ笑顔を絶やさずに、桜は小首を傾げて俺に言う。どうやら、前言を撤回するつもりは無かったようだ。










































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