〜FATE・Avaron〜
〜冬の始まり〜
蒼色の濃くなった空に、流れるは小さな飛行機雲。
それを見ながら、慣れ親しんだ道を学校へ向かうため歩いていく。隣には桜の姿。
終業式が近いこの時期、藤ねえ担当の弓道部は、開店休業状態……平たく言えば、休みのようなものだった。
「すっかり寒くなりましたね……」
ふぅ……と白い息を吐きながら、薄桃色のマフラーを首に巻き、学校指定の冬用のコートに身を包み、桜はつぶやく。
その言葉のとおり、この年は頓に短かった秋の季節も瞬く間に過ぎ去り、いまや季節は、冬へと姿を変えようとしていた。
今年は、例年とは違い……冬木市の冬は寒冷と、北風が合言葉かのように、見事に冬の季節を表現していた。
――――ただ単に、今までの暖かい冬というのが異常だったのかもしれないが……。
「ああ、こう寒いと、コタツにでも入って鍋でもつつきたくなるよな」
「はい。ライダーがちょっぴりうらやましいです。朝からずっと、コタツに入りっぱなしですから」
「……いや、でもあれって健康には悪いよな。風邪とか引かないんだろうか」
俺が言うと、桜はう〜ん、と考え込んだ。そもそも英霊は人と一緒で風邪を引くのかどうか、俺も桜も知らないのだ。
ちょうど会話が途切れたころ、俺たちは町の中央の交差点へとたどり着いた。
折りよく、向こうの丘の上から、見知った女生徒が歩いてくるのが見える。黒髪に、ツインテール。
「おはよ、士郎。桜は今日は、士郎と一緒なんだ」
「おはよう、遠坂」
「おはようございます、姉さん」
挨拶を交わすと、遠坂はいつも通り、俺の隣……桜とは反対側に並び、歩き出す。
ここ最近は、いつもこの交差点で遠坂と鉢合わせになる。どうやら遠坂の方は意識してのことらしいが……どうやってるんだろうか?
交差点を抜けると、同じように学校へ向かう生徒がちらほらと増えてくる。
人が増えるたび、俺達に向けられる視線が増えていると思うのは、自意識過剰ではないだろう。
遠坂は相変わらず、3年生になってもクラスでは人気者だし、桜は男女問わず、後輩に慕われている場面をよく見かける。
まぁ、だからと言って、この場所を誰かに譲るほど、俺は臆病でも大らかでもないんだが。
「さ、今日も真面目な学生を演じるとしますか」
「もう、姉さんったら……」
「遠坂らしいと言えば、そうかもしれないけどなぁ」
無遠慮な遠坂の発言に、俺と桜は顔を見合わせて笑う。そんな様子に一人、遠坂は仲間はずれにされたと思ったのか、ちょっと拗ねたような顔になる。
もう十日もすれば、年が明ける……季節は冬、いつも通りの朝は、そうして過ぎ去っていった。
明日は、終業式――――今日は二学期の最後の授業である。
授業といっても、俺を含めて、大半の生徒は冬休みのことに頭をめぐらせていたが。
「さて、何か質問はあるか?」
相変わらず、一人マイペースな葛木先生。と、女子の蒔寺が手をあげた。
普段は質問どころか、授業中は机に突っ伏して寝ているのが普通なのに、珍しいこともあるなぁ……と思ってると、先生に指し示された蒔き寺は、
「先生は冬休み、奥さんとどこかに出かけるんですか?」
などと、大胆にも……そう質問をしたのである。ちなみに、葛木先生の奥さんとは、つい最近になってこの学園に転任してきた、メディア先生のことである。
堅物先生と、美人教師。最近では学校の話題にもなる組み合わせであるが、当の本人の返答は、いたってそっけないものであった。
「その質問には、少々語弊があるな。私はあれとは、結婚していない」
その言葉に、さわめきだした教室が、しん、と静まり返る。と、そんな中で――――、
「だが、請われれば出かけるだろうな」
あくまでも淡々と、葛木先生はそんなことを言ったのであった。
再び、ざわめきが教室内を満たす。先ほどとは違った意味の、好意的な、ざわめきだった。
「さて、授業を続けるぞ」
そんな様子などお構いなしに、黒板へと向き直る葛木先生。
休みの前の浮き足立った教室……皆がそれぞれ、相応に浮き足立った時間をすごしていたのだった。
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