真紅の霧
真紅の霧
内腑を切り裂き、肉片を飛ばし、ただ、怒りのままに疾駆する。
哀しみよりも、怒りよりも、感じるのは……ただ、憤り。
何故、こうなったのか、何故、そうなってしまったのか。
答えなぞ、出るはずもなく。
応える声は、どこにもなく。
ただ、
感情にまかせ、剣を振るっていた……。
その時……感じたのは、何だったのだろう。
戦いの中、一歩間違えば、命を落とすのは当たり前だったはず……。
しかし、戦いのさなか、あの娘が敵の刃を受けた瞬間……目の前が真っ赤になった。
そして俺は……剣術の技量など関係なく、
技も間合いもお構いなしに、ただ、彼女に危害を加えようとする敵を、
全て、
完膚無きまでに、斬り殺し、殴り、潰し、消滅させた−−−。
気が付いたとき、俺は、全身に返り血を浴び、無数の骸の中で、ただただ、立ちつくしていた。
あの娘の姿は、見えない……。
「おーおー、こりゃあ、派手にやったもんだなぁ」
近づいてくる足音。
あの娘の甥という青年。
その関係は、俺と、失ったあいつに似ていて……。
「ん? どうした?」
「守れ、なかった」
だからこそ、失ったときの衝撃も、俺は知っていた。
真紅の霧。真紅の血だまりに倒れ伏す、大事な人…………。
「守れなかった……俺は−−」
「大丈夫だ、柳。さっちゃんの怪我は、そんなにひどくねぇよ」
その言葉は、絶望に引き込まれていた俺には、天啓のように聞こえた。
目を見開き、青年を見つめる。
「お前さんが大暴れしたおかげで、注意がみんなそっちに行ってな。さっちゃんを助けることが出来たんだ」
「そう……か」
ほっ、と、胸をなで下ろし……また、自分に嫌悪する。
彼女を守りきれず、彼女を傷つけてしまった俺が、どうして安堵することが出来るのか。
彼女を傷つけてしまった。守りたいと思い、常に側にいたというのに……。
「とりあえず、着替えて……シャワーでも浴びろよ。全身、どろどろのグチャグチャだぜ?」
「いや、かまわない……。少し、一人にさせてくれ」
「お、おい、柳……!」
頭を振り、俺は目的もなく歩き出した。
頭を冷やすため、少し歩いていたかった。
全身の血の匂いも、足に伝わる肉片の感触も、耳に残る絶叫も、俺には関係なかった。
あの娘が生きている。それだけで、俺は充分だった。
生きていれば、再び守ることが出来るから。今度こそ、あの娘を守りたいから……。
今度こそ、傷つけないよう、今度こそ、守れるよう……俺は、自らに言い聞かせる。
怪我が治れば、あの娘は躊躇わず、戦場に出るだろう。
そして俺は、この身を持って、あの娘の盾となろう。
彼女を守るため、俺は剣を振るう。
たとえ、幾度と真紅の霧を、この身に浴びようとも。
それは、自らに課した、誓いだった……。
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