夢・その続き
夢・その続き
朝の日差し、気怠い疲労感……。
目覚めたことで、私は夢の終わりに気付いた
「…………は」
しばらくして出てきた言葉は、自らを嘲るたった一言。
何を考えて居るんだ、私は。
夢というのは、願望の産物だといった者がいる。
決してかなわぬからこそ、夢として現れるのだと。
「にゃあ」
「…………ああ、おはよう、シキ」
しばらく前に、道端で拾った黒猫が、寝ている私の頬にすり寄ってきた。
ザラザラした頬の感触に、私は間違いなく、コレが現実だと分かった。
私の名は、岳画殺。
私は悪司の叔母。それ以上でもそれ以下でもない。
一つ身伸びして、私はベッドから降りた。
着替えようと、着ていたパジャマに手を伸ばす。
「む……」
パジャマのボタンに手を掛けたとき、何者かの視線を感じた。
無言で、傍らの『ナンブ式小型自動拳銃』を手に取る。
市販されている拳銃で、護身用として使い勝手がいい。
私は無造作に、それを天井に向かって撃ちはなった。
タン、タン、タン、タン!!!!
『−−−−−!!』
数発を天井に打ち込むと、ゴトゴト、という音とともに、何かが逃げていく気配があった。
どうやら、静かになったようだ。まったく、昨今は妙なヤツが多い。
私は改めて、着替えるためにパジャマを脱いだ。
バタンッ!
その時いきなり、部屋の扉が開けられ、私は思わず、そちらに拳銃を向け、硬直した。
部屋に飛び込んできたのは、背の高い、刀を持った男だ。
私の護衛で、柳秋光という名前。
しばらく前、悪司組に雇われてから、私の用心棒として働いているのだが……。
さっきの銃声を聞いたのだろう。
いつも、私の部屋の前に毛布を敷いて寝泊まりをしているから…………。
ああ、そんな事はどうでもいい。
多分、私も……らしくなく動揺しているのだろう。
なにせ私は、下着姿で上半身は裸なのだ。
武器を持ったまま、私も柳も、硬直していた。
それにしても……下まで脱いでなくて、よかった。そんな馬鹿げた事を内心で考えていながら。
柳は、放心したような表情で、私の姿を見続けている。
放っておいたら、何時間でもそのまま硬直していそうだ。
仕方無しに、私はその場にしゃがむと、パジャマを拾い、それで前を隠した。
それでようやく、柳も我に返ったようだ。
「何があった……?」
「天井裏に、誰かが居た。銃を撃ったら、逃げていったのだが……」
そう返答すると、柳の表情が剣呑なものになった。
おそらく、覗きの類なのだろうが、柳の表情からすると、放っては置かないだろう。
「わかった……」
言葉少なげに言うと、柳は部屋から飛び出していった。
おそらく、犯人を捕まえに行ったのだろう。こと私のこととなると、警察犬並の嗅覚を働かせる男なのだ。
柳に捕まれば……なます斬りにされてオオサカ湾に直行だろうが、同情する余地はないだろう。
「ふぅ……」
柳が出ていって、私は大きく息を吐いた。
動悸が激しい……さすがに、異性に裸を見られれば、私だって動揺する。
いや……覗きとか、下衆な目で見られたりとかなら、全然同様はしない。
むしろ、そう言った相手には冷たい感情しかわかないのだ。
しかし、今回は違った。全くの不可抗力なのだ。
おまけに、私も心構えしていなかったせいで、動揺が表に現れた。
こんな事は、オオサカに来ての2年間、一度もなかったのに……。
「幻滅は、されなかっただろうか……」
自分の身体を見下ろし、私は思わず、そう呟いていた。
それなりに膨らみをおびた胸……伸びた手足。
二年という歳月は、私の身体をそれなりに育ててはいた。
まぁ、中身の方は自分でもあまり変わっていないのだと思う。
御世辞で綺麗だと言われたことはあったが、自分ではそうは思っていない。
何というか、身近に綺麗所が多いため、自分が綺麗なのかどうか、良く分からないのだ。
「何を考えてるんだ、私は……」
口に出して呟き、私は一つ頭を振った。
誰にどう見られようと、私は私ではないか……たとえ、裸を見られても……。
そんなふうに苦悩する、私の足もとでは、私の内心などお構いなしに、黒猫が身をすり寄せている。
それを見て、私はなんだか動揺していた自分が馬鹿らしく思えた。
苦笑をし、私は制服に着替える。
「シキ、行くぞ」
「にゃあ」
部屋の扉を開け放ち、私は黒猫を先に行かせる。
私はドアを閉め、事務所の廊下を歩きだした。
さて、今日は学校だ。遅れないように朝食を摂らないとな……。
そうして、私の夢から覚めた後の、だれかの夢の続きが始まった−−−。
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