The Love song for the second week..    

〜12月〜
〜聖誕祭〜



舞弦学園のダンジョンから這い出してくるモンスターの群れ……それは凶暴に、周囲に襲い掛かり、その範囲は無作為に広がって行く。
かろうじて、グラウンド周辺で動きを止めたものの、モンスターを迎撃する学生と、ダンジョン内から未だ発生するモンスター群との戦いが繰り広げられていた。

「「フレイムウエーブっ!」」

コレットの詠唱に呼応するように、もう一人の生徒――――リナの声が響き渡る。
グラウンドの一角、生徒たちに追い込まれたモンスターの只中に爆炎が上がり、一網打尽に吹き飛ばした!
しかし、まるで湧き出るかのように際限なく、壊れたダンジョンの入り口より、後から後からモンスターは姿を現していった。
一進一退の攻防、しかし、徐々に学生側に疲弊の色が濃くなり……数の圧力に押され気味になっていたのである。

「くそっ、何なんだよ、これはっ……!」

借り受けたトンファを振り回しながら……赤毛の少年は、なお続く戦場で、モンスターを相手に大立ち回りを演じていた。
その実力は、学年のトップクラスであるロイドや竜胆と比べても遜色ない。鍛え抜かれた肉体と、その身体能力を持って、周囲のモンスターを圧倒していた。
しかし、彼――――ユウキの奮闘をもってしても、戦局は凌ぎ切れるものではなくなっていた。
ユウキ、コレット、リナのを中心に、なおも抵抗を続ける生徒達。その戦局の狭間、横合いから現れた新たなモンスターの一群に、ユウキ達は不意を衝かれる形になった。

「きゃ……!」
「リナ……っ、くそおっ!」

リナへと襲い掛かったモンスターを、ユウキは渾身の力で殴り飛ばす。トンファの一撃をもろに受け、吹き飛ぶモンスター。
しかし、力を込めたせいで大振りになったその隙を、他のモンスターは見逃さない。体勢を崩したユウキに、モンスターの爪が迫った!

(あっ……駄目っ、間に合わない!)

とっさに援護しようと、詠唱をするが……コレットは内心で悲鳴を上げる。ユウキの眼前に、拭い切れない死が迫る――――、

「一閃牙!」

閃光が薙ぎ、ユウキに迫っていたモンスターが切り払われたのは、その時――――剣を持った白髪の少年が、ユウキの危機を救ったのだ。
その手には、無骨な長剣……どこか大人びた雰囲気の少年は、驚いたユウキを一瞥しただけで、次なる敵へと斬りかかる。

「飛燕襲!」
「ロイド!」
「……誰かと思えば、コレットか。何のようだ?」

声をかけられてもなお、周囲への攻撃を止めず……瞬く間に周囲の敵を殲滅する。
あまりの強さに、ひるむ事などないはずのモンスターですら、動きを止めるほど、その動きは洗練されていた。呆然と、リナはその光景を見て呟いていた。

「す、すごい……」

押されかかっていたグラウンドでの戦闘は、これを機に、変転を迎えた。ようやく状況を察知したのか、集め回った校内の生徒達を引き連れた、教員達が到着したのである。
ティオの拳が、レパードの剣が、ベネットの魔法がモンスターを蹴散らし、続く学生達が、それを援護する。負傷した学生達を、バド教官の神術が瞬く間に癒し始めた。

「怪我人を収容して、これ以上のモンスターを敷地内に入れてはいけません!」

ベネットの支持に頷き、学生達は指示を遂行しようと動き出した。そして、別の場所では、とある一団が、ダンジョンの入り口に向かっていた。
緊迫した戦場に場違いな、大きなトナカイのきぐるみに率いられた彼らは、圧倒的な強さで周囲のモンスターと蹴散らして、一目散にダンジョンの入り口に向かったのである。

「さ〜、がんばりましょうか」
「まったく、柄でもないわい」

爆弾を周囲にポイポイと投げつけるトナカイ。むすっとした表情で、剣を振るうサンタの老人。さらに、和服の美少女が弓弦をかき鳴らして周囲に矢を放つ。
そして、仮面をつけた黒い騎士が、無骨な槍を振るい、モンスターを蹴散らした。

「さて、目標まで距離は過多――――このまま行けるでしょうかね?」

仮面の裏側……サラリーマンの青年は、どこか冷めた口調で呟くと、目標に向かい、地を蹴ったのであった。

〜12月25日(金)〜

「刹那……さん」

上半身を起こし、私は彼女のほうを向いた。漆黒の制服に身を包んだ、どこか愁いを帯びた表情の刹那さん。
彼女は、手の上に乗せた小さな動物を肩に乗せる。フェレットのような動物……しかし、違うところはその尾っぽが3つに分かたれていることだった。

「間一髪、というところでしたね。肩の方は、大丈夫ですか?」
「――――完全に外れちゃってるわよ。ま、これ位で済んで、めっけものでしょ」

苦笑をして、私は左手で右肩を押さえる。自由の効かない右腕は、まるで自分のものではないような気がした。
しかし、刹那さんが現れたってことは、やはりあの声――――数ヶ月前……ダンジョン内で聞いたあの声は確かに刹那さんだったということか。
ダンジョンの中で、何かが起こっているのは分かる。そして刹那さんが、それに関わっているのだということも。
――――……正直、核心めいた予感はあった。だけれど、それは……できれば外れてほしい予感でもあったけど。

「……それで、貴方はこんな所で何をしているの? たまたま通りかかったなんて、そんな都合の良い話じゃないんでしょ?」
「――――さすがに、見逃してはくれないみたいですね」

目を細め、泣いているかのように微笑む刹那さん。その心を汲み取ったのか、肩に乗ったフェレットが唸り声を上げる。
静かに透明な殺気を感じ、私は先ほどの攻撃を思い起こした。男子生徒の手首と、喉を切り裂いた見えない刃――――。

「駄目っ……!」

珍しい……初めて聞いた刹那さんの慌てた声とともに、空気が唸り、私の足元の床が、一直線に鋭い刃で切り裂かれた。
その瞬間、音速に近いそれを、不思議と私の目は捉えていた。フェレットのような動物の尾が、3つの刃となって私の足元に叩きつけられたのだ。

「駄目、彼女は違う……傷つけないで」

(鎌鼬――――か)
「カマイタチ……?」

フェレットもどきを、落ち着かせるように抱きかかえて、呟く刹那さん。彼女を見つめながら、頭に響いた弓瑠の声に、私はその言葉を繰り返す。
胡蝶が炎の蝶であったのを踏まえると、あの鎌鼬というのは、風を操る式神なのだろうか…………。

「刹那さん、貴方は一体…………」
「……陽子様、何も聞かないでください……私は、貴方に嫌われたくない……私は、ただ一人の友達を傷つけたくないのです」

立ち尽くす私から離れるように、刹那さんは後ずさる――――その身体が影に溶け込むように、いや、部屋の隅にある影の中に刹那さんの身体が沈み込んだ。

「!?」

慌てて駆け寄るが、そこには何もない。部屋の隅にある無謬の闇が、手に何もつかむことなく、そこに存在していた。
見えることなき闇の奥に何かがあるかと手で探るが、手に触るのは武骨な壁の感触だけであった。

「刹那さん……」

呟き、闇の中から左手を抜く。もはやこの先には何もないのだろう。彼女は闇を渡り、いずこかへ消え去ってしまったかのようだった。
知らずため息を漏らし、私は闇から身を離した。その時、わずかながら耳に、床を叩く音が聞こえてきた。
それは、人なのか……それともモンスターなのか――――どちらか判別はつかないが、複数の音がこの部屋に近づいていることは分かった。

「まったく……こんな時に……」

苦笑を浮かべながら、私は部屋に転がっていた自分の剣を拾う。敵か味方かは分からないけど、身を守る術は持っておくべきだった。
足音はまっすぐ、こっちに向かっている。袋小路のこの部屋……逃げる場所はない。聞き手ではない左手に剣を構え、私は足音の主の到来を待った……。


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