The Love song for the second week..    

〜12月〜
〜聖誕祭〜



「それにしても、さっきはどうしたの、いったい? 何か、もめてたみたいだけど」

聖誕祭の行われている、舞弦学園。人でごったがえする校内を歩きながら、赤みがかったツインテールの少女は、コレットに問いかける。
同じツインテールっ子としての仲間意識なのか、ただ単に気が合うのかどうかは知らないが、コレットはしばし考え、事の次第を簡潔に、彼女にも伝えることにした。
ミュウの幼馴染の少年が、クラスの女子と揉め事を起こし、ミュウと少年、その女子との間が気まずくなっていること。
今日の聖誕祭にかこつけて、ともかく関係の修繕をしようと、ミュウを連れ出したのはいいが、その少年と二人っきりにするきっかけがつかめなかったこと。

「ま、リナ達がきたのは渡りに船だったわ。そんなわけで、今日はこのまま、ミュウとは別行動をとることにするわ」
「ん……そっか、それじゃあ仕方ないわよね。いろいろ、聞きたいこともあったんだけど」

どことなく残念そうに言うと、彼女は自らの前を歩く赤毛の少年を見る。
リナが見つめているのに気が付くこともなく、ユウキはものめずらしげに周囲の様子を見渡している。
周囲を歩く女生徒に目がいっている――――のでなく、純粋に祭りの様子を楽しんでいるようであった。

「さ〜、いらはい、いらはい☆ 舞弦学園名物、チンドン屋だよ〜」
「――――え?」

そのユウキが、怪訝そうに足を止め、廊下の向こうから来る行列に目を向けたのは、耳に聞こえた間延びする旋律のせいだった。
トナカイの着ぐるみ……なぜか、普通のものより二周りは大きい着ぐるみを先頭に、サンタクロース、和服の美少女、黒色の仮面の騎士などが並んで行進する。
一種異様な集団は、周囲にビラをまきながら、廊下を通り過ぎていってしまった。
落ちたビラをユウキが拾ってみると、そこには学園内の見取り図と、簡単な紹介が書いてあった。

「あの声……また、ロニィ先生の仕業ね……あの人も好きよね、こういう事」
「驚いたわ、話には聞いた事があったけど、本当にやる人が居るんだ――――あれ、どうしたの、ユウキ?」
「ん、いや……」

呆れるようなコレットの言葉に頷いた後で、ユウキの様子が変なのにリナは気づいたようである。
声をかけられた当人はというと、どこか狐につままれたような表情で、チンドン屋の去っていたほうを見ていた。
しばらくして、赤毛の少年は唇の端から、戸惑いを含めた声を、ポツリと漏らす。

「なんかさっき、鉄仮面さんの声が聞こえた気がしたんだけど」
「は? なに言ってんのよ、そんなわけないじゃない。いくらあの人が神出鬼没だからって、こんなとこまで出没するはずがないわよ」
「ま、そうなんだけどな……」

リナの声に半ば自分を納得させるように頷くと、少年は疲れたようにため息をついた。
お祭りはこと平穏に続く。今はまだ、大騒ぎになるような大事件までは、時間が残されていたのである。

〜12月25日(金)〜

「はい、これで大丈夫。でも、驚いたわ。いったいどうしたの、その怪我」
「……ああ、まぁ、この前の冒険でちょっとな」

俺の腹部、激しい一撃で青あざになった怪我を治療してくれたミュウに、俺はあいまいにそう答える。
実際のところは、某ちびっ子のガゼルパンチにやられたのだが――――男の尊厳と諸所の事情より、それは伏せておくことにする。

保険委員のクレアは、俺達が保険室に入るとき、ちょうど部屋を出て行くところだった。
なんでも、食堂で大食い大会が行われるため、そのサポートに行くらしい。幸い、保険室は常に開放されるので、器具は十分に使う事ができた。
治療を終え、俺とミュウは向かい合わせのベッドに、なんとなく示し合わせたように座った。

廊下から、外からは騒がしいほどの活気、対照的に保険室内は静まりかえり、息苦しいほどの圧迫感すら感じた。
互いに気まずいその沈黙の中で、俺に気を使ったのか、先に口を開いたのはミュウだった。

「ね、カイト君……聞いてもいい? あの日、陽子ちゃんと、何があったの?」
「ん、ああ……そうだな、ミュウにはちゃんと話すべきなんだろうな」

俺は言葉を選びながら、ここ最近の……俺と委員長のことをミュウに話した。
委員長に好きだと告白したこと、だけど振られたこと。詰め寄って逃げられ――――ミュウの手を振り払ったあの日の事を。

「そう、そんなことがあったんだ」
「…………」
「カイト君はまだ、陽子ちゃんのことが好きなんだよね」

ミュウの問いに、俺はハッキリと頷く。少なくとも、この気持ちは嘘じゃないと、俺自身は思っている。
そんな俺に、一つ短く息を吐くと、ミュウはどこか吹っ切れたように笑いかけてきた。

「うん、分かったわ。私も応援することにする」
「…………いいのか、ミュウ」
「カイト君も陽子ちゃんも、好きだから――――私はいいの。それより、陽子ちゃんを探してあげて、カイト君と同じように、ううん、もっと苦しんでると思うの」

その言葉は、俺に勇気を与えてくれた。うじうじと悩んでいた俺の背中をそっと押してくれる、優しい一言。
ミュウが居てくれて、本当に良かったと思う。俺は幼馴染の少女に言葉にないほどの感謝の思いを感じながら、ベッドから腰を上げる。
一つ大きく息をつくと、俺は元気を出して、ミュウの肩に手を置き、頭を下げた。

「ありがとな、ミュウ。俺、お前のことも嫌いじゃないから。それじゃ、いってくる!」
「うん」

頷くミュウから手を離し、俺は保険室から飛び出した。学園内のどこかに居る彼女を探すため。
人通りの多い廊下を駆けながら、俺は見知った彼女の姿を捜し求めた――――。



「ふぅ…………駄目だな、私」

一人、保険室に取り残されたミュウは、ベッドに腰掛けたまま、暗くうつむいた。
カイトの前では、いくらでも元気に振舞えるが、やはり一人になったときは、どうしようもなく寂寥感を感じてしまう。

「嫌いじゃないから、か。言われなかったら、諦めれたかもしれないのに」

ポツリと呟き、ミュウは懐から古ぼけた手帳を取り出す。『ぼうけんしゃのちかい』と書かれたそれをめくり、ミュウは一つの行を見つめ、口に出す。

「どんなときもなかずに、あきらめないこと……」

それは、古い誓いの記憶……幼いころより長い間、カイトと一緒に居ることを望んだ彼女は、その誓いを忠実に護ってきた。
いつか、願いが叶い、彼の傍らにずっと居られることを夢見て……それは、今も決して変わらないカイトに対する想いだった。

「諦めたくないよ……カイト君」

手帳を胸に抱き、ミュウは呟く……決して誰にも言わず、悟らせず、それでもミュウは、彼を好きという気持ちをこれからも持ち続ける。
運命の日が来る、その日、その時も……想いは彼女だけのものであり、そして、叶うものだと信じていたかったから。


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