The Love song for the second week..    

〜12月〜
〜聖誕祭〜



純白の空に、小鳥が舞う。舞弦学園内では、放課後になると聖誕祭に向けての活気のある準備を行っている。
例年の聖誕祭は、ベルビア王国内に伴わず、隣国のラスタル王国からも、見学に来る者が訪れるくらいの華やかなものであった。

冒険者育成校である舞弦学園にも、光綾学園ほか、多数の訪問客が訪れることとなっていた。
さて、時刻は平日の昼過ぎ……学園の門は閉ざされ、この時間帯は学園周辺に人気はない。
学園を囲む塀が写す影が、ささやかに自己主張するその場に、影に溶けてしまいそうな漆黒の二人組の姿があった。

「本当に、実行するのですか? 兄様……」
「無論だ、我々に――――お前に残された時間は、決して多くはない。この機を逃せば、もはや機会は巡り来ぬかもしれん」

囁かれる言葉には、氷の意思と渇きの音色――――影をまとう青年の言葉に、少女は嘆息する。

「カイト様と陽子様は、お嘆きになるでしょうね」
「――――気に病むな。そう思うからこそ、彼等とは縁を分けたのだ。それに、彼等が出張るとは限らない」
「……詭弁ですよ。お二人とも、こういったことに見てみぬ振りをするほど、愚かではないのですから」

苦笑とともに、わずかな微笑を、黒の少女は浮かべる。それは、友人に対する誇りに満ちた表情だった。
しかし、ずっとそれを浮かべることもできなかった。すでに覚悟は決めたこと。

「行きましょう、兄様……準備をするにも、時間が必要でしょう?」
「ああ、始めるとしよう……『器』探しと、復活の儀式の準備を」

頷きあう二人……陽光が途切れ、周囲を影が覆うころ――――二人の姿は忽然と消えうせていたのだった。

〜12月21日(月)〜

その日のホームルーム、担任のベネット先生は、一通りの連絡事項を述べたあと、思い出したように付け加えた。

「そういえば、今週末は聖誕祭が行われますね。それの関連で、金曜日から日曜日の間は、休日扱いとなります」

その言葉に、わっと教室が沸き立った。早々と約束を取り付ける者、目配せしあう者など様々である。
急に騒々しくなった教室内に良く通るように、少し大きめの声で、ベネット先生は言葉を放った。

「三年生はクラス単位での参加などはありませんが、個々の参加は自由になっています。くれぐれも学生の本分に基づいて……」

真面目な顔で、そんな風に言っているが、その言葉が耳に入っている人間は、ほとんど居なかった。
仏頂面で、視線をわずかに巡らせる。視界の隅に、委員長の姿が見えた。どこか上の空の表情で、視線を机に落としていた。
…………あの出来事から一月、俺と委員長、それにミュウとの間には、何かギクシャクとした、錆付いた歯車の出す音のような、そんな空気が流れていた。



十二月になると、放課後の時分には、すでに辺りは朱色の夕焼けに覆われていた。
僅かな昼と夜の境目の、些細な刹那の時――――俺は屋上のベンチに腰掛け、何をするでもなく、何をしようというでもなく、そこにある空を見上げていた。
何をしていいのか、どうすればいいのか分からない。

「まったく、何だってんだよ……」

愚痴るようにつぶやくが、それで何かが解決するというわけでもない。
いったい、何がいけなかったんだろう、俺は今、どうしようもなく孤独だった。

「カイト」
「?」

考え事をしていた、その時――――声をかけられて、俺はそちらに視線を移す。
赤色のライトが照らす屋上の風景。日光に金色の髪を染め上げて、小柄な少女がそこに立っていた。
それは、どことなく郷愁を誘うような光景――――俺は昔、こんな光景を見ていたことがあっただろうか?

しかし、考え事はそう長くは続かない。コレットは屋上のベンチ、俺の隣にぴょんと飛び乗ると、怒ったように俺を見る。
体格上、俺のほうが、はるかに背は高いが、この体制では、コレットに見下ろされる格好になる。
コレットの気迫にも押されて、俺はなんとなく目をそらした。その耳朶に、響きやすい高い声が聞こえてくる。

「もう、何をボーっとして、腑抜けて、だらけて、腐りきってるのよっ。このままじゃ、卒業するまで、ずっとこのままよ!?」
「そうは言ってもな、もう……何をすりゃいいのか、分かんねぇんだよ」

あの事件から数週間……俺とミュウの間には会話こそあるものの、どこかぎすぎすとした空気が漂っていた。
俺と委員長のほうはというと、まともに視線を合わせることもなく、言葉すら交わせれない状況である。

いったいこんな状況で、どうやって互いの関係を修復したらいいんだろうか。
いっそ、どうとでもなれというような、投げやりな気持ちになっているのも事実であった。

「――――しょうがないわね、もうっ。私も協力するから、カイトも頑張んなさい」
「…………頑張れって、何を」
「そうね……まずは、ミュウと仲直りしちゃいなさい。そうすれば、きっと委員長とも仲直りするきっかけになると思うわ」

その言葉は、見当外れのようでいて、意外に正鵠を射ているかも知れなかった。
ミュウとの関係が修復されれば、委員長も少しは話を聞いてくれるだろう。逆に言えば、このままじゃ委員長とはまともに話せない。
委員長がピリピリとしている理由の半分以上は、ミュウに関連していることもあるだろうから。

「幸い、聖誕祭が近いし、決行はその日にしましょ。ミュウには話を通しておくわ。文句はないわね」
「――――あ、ああ」
「よしっ、じゃあ、聖誕祭の日、いつもの場所でね。遅れないでよっ」

頷くと、満足をしたのか、コレットはベンチから飛び降りると、屋上から出て行ってしまった。
元気だよな、あいつは……朱烙の色の空から、闇主の色――――鮮やかな赤から、闇をまとう赤へと、屋上は染まっていく。
夕焼けから夜空へと、空に星の瞬きが煌き始める中、俺はコレットの闊達さに、少し救われたような感じがした。



それは、運命の日とも呼べる聖誕祭の日を週末に控えた、ある日の出来事。
そうして数日後……俺は、どこかジワジワとした感情を抱えながら、その日の朝を迎えたのだった――――。

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