The Love song for the second week..
〜10月〜
十月十夜
〜10月2日(土)〜
トンテンカンテン…………ハンマーを打ちつける音、資材を切り出す音、あちらこちらで騒がしい喧騒が聞こえてくる。
今は昼過ぎ、空き教室の一室を借り切って、生徒会の役員が仕事をしてる中、俺もそこにつき合わされていた。
「ふぅ…………」
立て付けの看板に一しきり釘を打ちつけ終えて、俺は一つ息をついた。
ふと、視線を感じてそちらを向く。そちらには二年生の生徒達が、こっちをチラチラ盗み見ていたのが分かった。
(やれやれ、勘弁してほしいよなぁ……)
音の出ないように、ため息をつき、内心でぼやく。
この前の決闘騒ぎのせいか、最近は興味本位にこっちに視線を向けてくる生徒が多い。いつも、あちこちから視線を感じるようで、妙に落ち着かない。
……その過半数が、男子というのもどうかと思うが。
「ほら、なにサボってるの?」
ぽかっ、と丸めたノートで後頭部を叩かれた。しゃがんだまま振り向くと、呆れたような表情の、委員長がそこにいた。
十月十日に迫った文化祭に向けて、生徒会も何かしらのイベントを開催するらしい。
で、三年でありながら、実行委員を申し出た委員長に付き合って、俺は他の生徒に混じって作業をする羽目になったのである。
「サボってなんかないって、休んでただけだよ……あ〜、何でこんなことしてるんだか」
「はいはい、愚痴らない、愚痴らない。世の中、ギブ・アンド・テイクっていうでしょ?」
真面目な表情で、その目はきっちりと笑っている。どうやら、鉢巻きとTシャツ、大工姿の俺が面白いらしい。
何だかんだ言って、委員長はこういうのりが、けっこう好きなのかもしれない。
委員長と一緒にダンジョン実習を始めたのだが、その結果は、なかなか好調であった。
もとより、オールラウンダーなのは分かっていたけど、実際に一緒に冒険すると、委員長の凄さと言うのがいっそうよく分かった。
魔術に神術、加えて剣術の心得もあり、マップを把握する能力もあった。
委員長と一緒に冒険した最初の冒険では、何と五階層突破という、とんでもない記録を出せた。
ただ、委員長は、暇人な俺と違い、けっこう忙しい身分である。先生の手伝い、後輩の指導、その他の雑務、etc、etc……。
そんな雑務に忙殺され、一緒に冒険できない時があった。で、考えた末、俺はどうしたのかというと……。
「幾ら、俺が手伝うからって、何でもかんでも引き受けるなよな〜……この数週間、働き漬けだぜ?」
「あら、相羽君が仕事を手伝ってくれたおかげで、みんな助かってるのよ? 良かったじゃない、人気が上がって」
委員長の言葉に、俺は憮然となった。俺は委員長と冒険したいのであって、わけの分からん仕事をしたいわけじゃないんだが。
俺の表情から意図を汲み取ったのか、委員長は楽しげに笑みを浮かべる。
「ま、本当に相羽君には頭が下がるわ。おかげで、私の卒業までの仕事は大体こなせたし、これで落ち着いて、実習が出来るもの」
「え……ってことは?」
「そう、お仕事もこれで終わり。あとは後輩に任せてもいいと思うし、相羽君も終わっていいわよ。お疲れ様」
その言葉に、身体の力が抜けた。俺はばったりと、その場に倒れ伏す。
「あら……どしたの?」
「やっと終わった……もう今日は動きたくない」
本当に、ここ最近は地獄的に忙しかった……それに、今日も今日とて、朝から駆けずりまわされていたのである。
朝一番に、教室に機材を搬入し、それを区分けし、看板に必要な絵を書いたり消したり、釘を打ったり……大雑把な事から細かい事まで色々とやったのだ。
他にも、便利屋よろしく、呼びつけられるたび手を中断し、手伝いに回されたので、手間も数倍に増えたし。
――――なにより、他の三年生は特別週間ということで、授業もなく、昼からダンジョン実習に出ればいいのだ。
朝、のんべんだらりと寮で過ごしてる生徒達を尻目に、俺だけ働かされるのは……正直、心がくじけそうでしたよ……ええ。
「そう、でも……そろそろ時間よ。ダンジョン実習の」
「…………」
面白そうな、委員長の声。一緒に行こう、とも、今日は止めようか、ともいわず、こっちの返事を待っているようだ。
なんだか、試されているようで気分が良くないぞ……あ、なんかそう考えたら急に力が沸いてきた。
「わかったよ……真面目な、いいんちょのこった、サボるなんて許さないだろ?」
「あら、よく分かったわね。もっとも、相羽君はヤル気満々みたいだけど」
ええ、そりゃあもちろん、やる気だか犯る気だか知りませんが、気力は充実してますよ。
「よろしい。それじゃあ、私達は上がらせてもらうわね……皆も、頑張ってね」
「はい、お疲れ様でした、先輩」
「相羽先輩も、ご苦労様です!」
「陽子お姉さま、実習、頑張ってくださいね……ぽっ(*´д`*)」
「押忍! 相羽先輩、相羽先輩の勇姿は、生徒会一同、末永く語り継いで行こうと思うっす!」
委員長の言葉に、銘々に言葉を返す、生徒会の後輩一同。
……なんだか、後半部に変なのが混じってたような気もするが、スルーしておこう。
そんなこんなで、委員長の抱えていた問題ごとも片付いたので、その日も俺と委員長は連れ立って、ダンジョン実習を開始したのだった。
ダンジョンにもぐって、一時間経過した頃……。
「あ、ふ……」
「え?」
「あ……やだ、見てた?」
急に、委員長があくびをしたのである。それも、けっこう可愛らしく。
どうやら、本人は見られたくなかったようだし、ここは一つ、ジェントルメンらしく返答しよう。
_、_
「( ,_ノ` )y━・~~~ フッ・・・・・・・・・・・・ミタゼ・・・」
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
「……………………で?(#゚Д゚)」
「ゴメンナサイ、お美しいご尊顔を拝見させていただきました」
委員長が怖い顔をされましたので、俺は平謝りに謝りましたよ。
やっぱ、なれない事はするもんじゃないですな。
「まったく、ふざけるなら時と場合を選びなさい。それと……タバコは持ち込み禁止!」
「あら……」
さすが委員長。小道具であるタバコは、あっさりと取り上げられてしまった。
それをポケットにしまうあたり、妙に気になるが……突っ込むと縊られそうだし、ここは我慢しよう。
「ま、それはそれとして……珍しいな、いいんちょがあくびするなんて」
「う……ん、なんだかね、最近妙に眠くなるのよ。いつも通り、夜更かしとかはしてないんだけどね」
「いいんちょも、ここ最近は忙しかったしな。疲れが溜まってるんじゃないか?」
俺の言葉に、そうね……と、どこかやっぱり眠そうに、委員長は応じる。
結局、その日のダンジョン実習は、委員長はどこか元気がないように思えた。
〜10月10日(日)〜
秋の日も、半ばに掛かった晴れの日。今日は文化祭ということで、俺は寮から出て、校舎の方にやってきていた。
今日は、ミュウやコレットと一緒に文化祭を見て回る予定なのである。
「あ、遅〜いっ、カイト! 何を待ち合わせの時間ギリギリに着てるのよっ!」
「おう、早いな、コレット、おはよう、ミュウ」
「おはよ、カイト君。コレットったら、カイト君がなかなか来ないから、寮の方に乗り込もうって言ってたのよ」
コレットの様子にクスクス笑うミュウと俺は朝の挨拶を交わす。
しかし、寮に乗り込むって……さすがに、それは勘弁して欲しい。妙な噂が立ったら困る。
まぁ、既に手遅れのような気がしないでもないけど…………。
「ともかく、一番遅く来たのはカイトだし、今日はカイトのおごりねっ」
「待て待て、妖怪・欠食児童。何を勝手に決めてんだ!?」
金髪のちびっ子エルフのその言葉に、俺は慌てて食って掛かる。しかし、
「は、何? ひょっとして割り勘とか言うの? 女の子にたかるなんで、サイテー」
「ぐっ…………」
さすがにそう言われると、こっちは立つ瀬がない。ミュウはというと……面白そうに様子を見ているだけだ。
…………まぁ、コレットはともかく、ミュウに払わせるのは、ちょっと心が痛む。
ここは一つ、大人な対応をしようじゃないか…………うむ。
「はぁ……分かったよ。言っとくが、そこまで金を持ってるわけじゃないから、程ほどにしとけよ」
「大丈夫よ。カイトのお財布の中身くらい、ちゃんと分かってるんだから。ね、ミュウ」
「うん、それじゃあ、行きましょうか?」
ミュウのその言葉に頷きを交わし、三人で校舎の方に歩いていく。
さあ、今日は文化祭。思う存分、楽しもうじゃないか。
寮から出て、校門まで続く一本道。左にはいつも俺達が過ごしている校舎が、右にはプールや体育館などがあるグラウンドがある。
すでに、気の早い生徒は準備を始めていて、和気藹々とした空気が漂っている。
特に、何らかのイベントに参加しているわけではない俺やミュウ、コレットは外来のお客さんと一緒で、自由参加の扱いとなっていた。
参加しなければならないというわけではない。まぁ、こんな日に寮に篭ってるのもアホらしいんだがな。
「さて、んじゃまず、どこから行こうか?」
手にパンフレットを持って、俺は二人に聞いてみる。ちなみに、このパンフレットは数日前、俺も製作を手伝ったものであった。
瓦版のようなパンフレットには、生徒会のマスコット、切りさき君が描かれている。包丁を手に持った、ポジティブなキャラが売り、らしい。
それを頭つき合わせて読みながら、俺達はどこから手をつけようか、考え込む。
真っ先に口を開いたのは、お祭り気分にすっかり酔いしれている、コレットであった。
「ともかく、お腹が空いちゃ、あちこち回れないわ、まずは腹ごしらえね」
「やっぱり、最初はそれか……太るぞ」
あんまり食べ歩き回られると、それだけで資産がなくなりそうなので、牽制の意味も込めて言う。
しかし、俺の牽制球を、コレットは平然とした顔で打ち返してきた。
「ふんっ、成長期だからいいのっ。カイトこそ、男だからって太らないなんて思わないでよね」
「はっ、俺は運動量が違うんだよ。いつも剣の鍛錬してるし、燃費が違わぁな」
「むっ、確かにそうかもしれないけど……ほら、ミュウも何か言ってよ!」
言い争っていた俺とコレットだが、ミュウの返答がないので、おかしく思ってそっちの方を見た。
見ると、ミュウはパンフレットを手に、なんだかぶつぶつと呟いている。
「ええと、最初は食堂に行ってから、三階を全部を回って、それから二階に下りて…………あれ? 二人とも、どうしたの?」
どうやら、計画を立てるのに夢中で、俺達の言い争いを聞いていなかったようだ。
なんだか、気が削がれたのは、俺だけでなく、コレットも同じようだ。互いに、顔を見合わせて苦笑を交わす。
「?」
知らぬはミュウばかりなり……そうして俺達は、文化祭を見て回る事にしたのであった。
校内、屋上、グラウンド……体育館と回っているうちに、時間は過ぎ、夕方の時分に差し掛かっていた。
日は地平線に差し掛かり、お祭りも夜の催し物の為、生徒があちこちに駆けずり回っていた。
「お〜、集まってる、集まってる」
「うゃ〜、呑気な事、言ってないでよ、カイト〜……」
夜のお祭りのメインは、やっぱりキャンプファイアーでしょう。グラウンド中央に置かれた祭壇には、特大の篝火が設置されようとしていた。
うちの学園のキャンプファイアーは、夏の売れ残りの花火を使った、偉く派手なものになっていた。
ただ、学園祭の定番とも言うべき、篝火を囲んでのフォークダンスは禁止されている。
何でも、十年ほど前、フォークダンスをしながら、魔王だかなんだかを呼び出した事があるらしい。
まぁ、篝火を囲みながら踊りを踊るというのは、降霊魔術に近いらしいし、事故だったんだろう、多分。
そんなわけで、俺達も、花火を見るため、グラウンドに集まっていた。ただ……、
「確かに、こんな滅茶苦茶に込み合ってるとは、誰も思ってなかったよね」
「まぁ、文化祭のメインだしなぁ……っと、すいません」
隣の人と肩がぶつかって、俺は謝るが、そうこうしているうちに、さらに場は込み合ってきた。
まるでイモ洗いの現場だな、これは、あちこちにぶつかり合って、きりがない。こりゃあ、はぐれたら合流できないな……
「おらおら、どいたどいた!」
「ワショーイ、ワショーイ!━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!」
「うわっ!」
「きゃあっ!」
「コレット、こっち!」
俺達の目前を、花火を担いだ屈強な男達が駆け去っていく。
準備の為だろう、どうやらあちこちで同じように人ごみに割って入り、歓声と悲鳴を上げさせているようだった。
「あー、びびった……………………あれ? ミュウ、コレット?」
周囲を見渡すが、二人の姿はない。野次馬の中で、いい場所をとろうとする一団が、男達の後について、空いたスペースに入り込んでしまったようだ。
たぶん、向こう側に二人はいるんだろうけど……どうやら、はぐれてしまったようだ。
まいったな……どうするか、そう考えていたとき、とんとんと、肩を叩かれた。
「ん、ミュウか?」
「やあ、カイト、一人かい?」
「なんだ、シンゴか、それに、クーガーと、クレアも一緒か」
振り向くと、クラスメートの中で見知った顔が、そこに、たむろっていた。
どうやら、向うも俺達と一緒で、グループであちこちを見て回っていたらしい。その手には色々と荷物が提げられていた。
「なんだよ、いつもの二人と一緒じゃなかったのか?」
「ああ、さっきまで一緒だったんだが、妙な奴らのせいで、はぐれちまってな」
「は、そりゃついてねぇな……どうする? ついでだから、俺達と一緒に回ってみるか?」
クーガーのその提案に、俺はしばし考え込む。さっき、ミュウがコレットの手を引いて避難してるのを見たような気がする。
二人がはぐれていないなら、俺も誰かと一緒に行動した方が、見つかる率が上がるような気がしないでもない。
ここは一つ、一緒に行動した方が良いかもしれないな。
「あの、それじゃあ私……委員長を起こしてくるね」
「そうだな、じゃあ、俺も一緒に……って、クレア、今、なんて言った?」
俺は驚いたように、クレアのほうを向く。シンゴに声を掛けていた、保険委員の彼女は、どこかオドオドした様子で、えっ、と俺の方を見つめた。
「あの……今日は委員長が、調子が悪いって、ずっと保健室で寝ているの……でも、せっかくの花火だし、起こしてあげようと思って」
「けどなぁ、起こしに行っても、戻ってこれるのか? そのドンくさい動きじゃ、また人ごみに流されるぞ」
呆れたようにクーガーは言う。その言葉に、クレアは困ったように黙り込んだ。
しかし、委員長か…………、今日は見かけないな、と思っていたが、調子が悪いのは治ってなかったのか。
「クレア……いいんちょは、保健室で寝てるんだな」
「え、う、うん。そうだけど」
「わかった。俺がいいんちょを起こしてくる」
返事を待たず、俺は人ごみを掻き分けて歩きだす。人の流れに逆行して、その人垣から抜け出すと、俺は一路、保健室へと向かった。
人気の絶えた校内を歩き…………俺は保健室のドアを開けた。
照明が落とされ、薄暗い室内には、誰もいない。俺は、室内にしつらえられていたベッドに歩み寄った。
「お〜い、いいんちょ……起きているか?」
「んぅ……」
ベッドに寝ている委員長を揺すって、声を掛けてみる。返事はなく、彼女は身じろぎしただけだった。
横になった顔が仰向けになり、寝顔が覗く。
…………なんというか、寝てるときって委員長の顔は、きつさが消えるよな。
可愛いって言うのがピッタリだし、こう、悪戯したくなると言うか…………。
「……ごくっ」
知らず知らず、喉が鳴る。彼女に触れたい衝動に駆られ、その顔に、顔を近づける。
ドーン!!!!!
「う、うわっ!?」
「ん……?」
腹に響く大きな音…………どうやら、グラウンドの方で、花火が打ち上げられ始めたらしい。
委員長の目が開かれ、俺は慌てて、彼女から飛びのいた。薄暗い部屋で、彼女は眠そうに周囲を見渡す。
「なんなの、この音…………」
「おう、起きたか、いいんちょ」
周囲を見る委員長に、俺は声を掛けると、彼女に近寄った。
眠そうに、寝ぼけた様子の委員長は俺を見上げ、ぼうっとした表情で首をかしげた。
「相羽君……? なんなの、これ」
「ああ、外で花火をやってるんだよ。保健室で寝てるって、クレアに聞いて、いいんちょを起こしに来たんだ」
俺の言葉に、委員長はしばらく考え込むと……何かに気がついたように、顔を上げた。
「…………ミュウは?」
「う、いやその……はぐれたんだが」
俺の返答に、委員長は沈黙し――――はぁ、と溜息をついた。
「私を起こしに来るより、ミュウを探しなさいよ……優先順位を間違えると、後で後悔するわよ」
「いいんだよ、ミュウにはコレットがついてるし、いいんちょが一人で寝てるって聞いて、心配になったんだよ。だって、さっきも……」
「?」
「あ…………」
思わず、委員長に手を出しそうになったのを自白しそうになり、俺は口ごもった。
幸い、委員長の方は寝起きのせいか、頭がしっかり働いていないのか、追求する事はなかったけど。
「ん、まぁ……ともかく外に出ましょうか。せっかく起きたし、花火も見たいし」
「あ、ああ、そうだな」
半分寝ぼけてベッドから降りる委員長に賛同し、俺は彼女と共に、保健室を離れ……中庭に出た。
ドーン!!!!! ポン!!!
ドーーーーーーーーーン!!!! パラパラパラ…………
「お、やってるな……それにしても、派手だよなぁ」
「相羽君、こっち、空いてるわよ」
中庭には、人気がない。立ちそびえる校舎が、花火の一部を見えなくしてるせいか、みんな、良く見える位置取りに移動してしまったらしい。
誰もいない中庭のベンチに腰掛け、俺は委員長と共に、夜空に浮かび上がる花火を見た。
正直、花火自体にはさしたる興味はない。確かに綺麗だけど、それでも、心動かされるものじゃなかった。
俺が気持ちを捕らえられたのは、一緒に花火を見る、委員長の横顔――――誰かと見る花火は、こうも心安らぐものなのだろうか。
「綺麗ね……花火」
「ああ、それに――――」
「いいんちょも綺麗だぜ、なんて台詞は無し、よ」
からかうような委員長の声。俺は委員長と微笑を交し合い、そうしてそれから、ずっと花火を一緒に見ていた。
夜空の下、俺の肩に軽い重さとぬくもり――――委員長の頭が当たったのを知ったが、それをどうこうする気もなく、俺はそのまま、打ち上がる花火を見つめていた。
そうして、最後の花火が撃ちあがって、しばらくたった。
グラウンドの方からは、未だにお祭りのような騒ぎが聞こえてくる。どうやら、花火も終わってしまったらしい。
「いいんちょ、これからどうする……ん?」
「すぅ、すぅ……」
俺の肩に頭を預けたまま、委員長は、また眠ってしまっていた。よっぽど疲れてるんだろうか。
これは、休ませた方がいいかもな。
「ほら、起きろよ、いいんちょ、寮にもどろうぜ」
「ん…………」
ぺちぺちと、頬をたたくが、反応がない。
なんというか、ものすごく熟睡されていますよ。これじゃ、起こすのも可哀想だ。
「しょうがねえな……よっ、と」
眠りこけた委員長を背中に負う。耳元につけた委員長の口から、寝息が聞こえてくる。
背中には、暖かく、柔らかい感触……う〜む、平常心を保つのが大変だ。
そうして俺は、中庭からでて、寮の方へと向かう。
左手にあるグラウンドでは、お祭り騒ぎが繰り広げられてるが、心引かれることは無かった。
自室のドアを開け、俺は自らの部屋に戻ってきた。背中に背負った荷物を、ベッドの上に降ろす。
寝息を立てた荷物は、それでも目を覚ます事は無かった。
――――結局、委員長が起きないので、鍵のありかが分からず、俺は委員長の部屋に入るのを諦め、自分の部屋に連れてきたのだ。
「まったく、気持ち良さそうに寝てるな……いい気なもんだ」
ベッドで眠る委員長に、布団を掛ける。そうして、俺もあくびを漏らした。
さすがに、今日は少し疲れた……お祭りってのは、後片付けが大変だし、明日も忙しくなりそうだ。
「俺も、寝るか……」
物置から、毛布を一枚取り出すと、俺は部屋の照明を消した。
そうして、床の上に寝転がる。静かな部屋の中、委員長の寝息が聞こえてきて、何となく落ち着かない。
「ちゃつみが一匹、ちゃつみが二匹……」
「ん…………」
やれやれ、どうやら、寝付けるのは、当分先になりそうだ。
委員長の寝息に落ち着かない気持ちになりつつ、そうしてその日の夜は暮れていった…………。
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