The Love song for the second week..
〜8月〜
夏の彩り
夏の祭り、その盛り。
人の訪れることのない神社の本堂で、私はその光景を見た。
それは、世間体とか倫理とか、そういったものからすれば、ひどくこっけいなもので、許しがたいものだったのだろう。
だが、私はその光景を、純粋に美しいと思った。
〜8月7日(土)〜
「うわ、下までぐしょぐしょ……」
更衣室に入り、私は眉をしかめた。
まるで、コメディ映画、言うなればチャップマンか、ストニ・リンゼンばりに派手にプールにダイブした相羽君のせいである。
まぁ、どちらかといえば突き落とされた感もあるから、彼ばかりを責めるわけにもいかないけど。
それでも、水しぶきを浴びたせいで、下着まで水浸しになってしまった。
「帰るまでに、乾けばいいけど」
文句を言いながら、私はシャツを脱いだ。
シャツも水を吸って、しおしおになっていた。あ〜あ、これじゃ着て帰るわけにはいかないか……。
「ん?……だれ?」
そんな事を考えていた、その時、人の気配を感じ、私は振り向いた。
更衣室の入り口に、水着の女子が立っていた。
それは、私の友人で、さっきも相羽君との話に出ていた……。
「ミュウ……どうしたの、いったい?」
「陽子ちゃん、ちょっといいかな……?」
普段は明るい彼女だけど、なぜかその表情は、微妙に曇っていた。
「べつに、いいけど……とりあえず、中に入ってドア閉めちゃいなさい。それだと、外から丸見えだから」
「あ……うん、ごめんね」
慌てた様子で、ドアを閉めるミュウ。
私は、部屋にしつらえてあった、長いすに腰を下ろした。
改めてシャツを着るのもなんだから、私の姿は上がブラで、下がスパッツという格好だけど、まぁ、女同士だし別にいいだろう。
「で、どうしちゃったの、改まって」
「うん……あの、カイト君と何か話してたから、気になって」
ああ、そういうことか。つまりは箸が転がっても、おかしく思う年頃なんだろう。
それにしても、奥ゆかしいというかなんというか……気になるのなら、本人に直接聞けばいいのに。
「別に、単なる世間話よ。どうしたの、いつもはそんな事、気にしないじゃないの」
「だって、何だかカイト君、妙にうろたえてたし、顔、赤くなってたし……」
「夏だからね、ゆだっちゃいそうな暑さなんだし、顔だって赤くなるでしょ」
私がそう切り返すと、ミュウは、ん〜、と考え込んでしまった。
実は言うと、ミュウの予想は、けっこう鋭いところ突いてる。
まぁ、うろたえたりしたのは、デート云々の話のくだりだろうし、赤くなったのは、身近な女の子という部分に反応してだろうけど。
それを変な風に解釈しちゃってるのね、まったく……。
「安心して、私が相羽君になびくことは、多分ないから」
「……本当?」
「ええ、それに私、気になる子もいるし、ほら、ミュウも時々話してる……ロイド・グランツ君」
私の言葉に、ミュウは驚いたような表情になって、固まってしまった。
ミュウってば、色恋沙汰とかに、あまり鋭いほうじゃないしね、ショックを受けちゃってるわ。
「そうなの……よかった。うん、ロイド君と陽子ちゃんならお似合いだよ」
どこかホッとした様子で、ミュウは胸をなでおろした。
でも、分かってるのかしらね、この子は。ロイド君が好きなのは誰なのか。
「まぁね、それに相羽君って全然タイプじゃないし」
「あははは……」
物好きね、と言いたげに見ると、ミュウは困ったように苦笑した。
恋は盲目、っていうけど、ミュウの場合は、既に悟ってるって感じよね。
「でも、意外だったな。陽子ちゃんって、ロイド君のどんなところが好きなの?」
「どんな所って……ミュウこそどうなのよ」
「え……わ、私は……」
私の言葉に、ミュウは真っ赤になって俯いてしまった。
はいはい、ご馳走様……正直、こっちが恥ずかしいくらいよ。
「まぁ、私の場合は、誠実な所かしら。それと影ですごくがんばってても、そういうのを表に出さないところとか」
「ふぅん」
「あと、ぶっきらぼうだけど、やさしいところもあるし、見かけよりも、頑張りやさんな部分が良いのかもね」
「…………」
私の言葉を、最初は興味深そうに聞いていたミュウだったが……。
「けっこう、見た目で勘違いしてる子もいるけど、ほんとの彼が気に入ってるというか……って、どうしたのミュウ?」
「え、、、、う、ううん、なんでもないよ」
微妙に表情を曇らせていたミュウは、ハッとした様子で、慌てて手を振った。
まぁ、ともかくこれで誤解は解けたでしょ。私は長いすから腰を上げ、着替えを再会した。
「じゃ、これで話は終わりね。時間がもったいないし、泳いできたら?」
「うん、そうするね」
ミュウに背を向け、着替えを再開する私にそう応じると、ミュウは更衣室のドアを開け、出て行った。
しかし、着替えを続ける私の耳に、外の風と共に、それは届いてしまった。
「そうか、ロイド君とカイト君って…………似てるんだ」
「え?」
僅かに聞こえたその声に振り向いた時、そこには既にミュウの姿はなかった。
でも、その声は、確かに私の耳に残っていた……。
そう、その言葉を聞いてしまった時点で、私とミュウ、カイト君とロイド君の関係が複雑に絡み合うなんて……。
この時の私は想像すらしてない。ただ胸に、微妙なしこりが残っただけだった。
〜8月15日(日)〜
「無様ね」
「陽子様、もう少し、言い方というものがあると思いますけど……」
その日、何度目か、刹那さんに注意されたのは覚えていないほどだった。
何とはなしに、魔術の訓練に身が入らない私に気を使ったのか、今日の訓練は早々に切り上げ、相羽君と甲斐那さんの訓練を見学に回っていた。
しかし、端から見ると、修行というより、一方的に相羽君がやられているようにしか見えなかった。
あれで、本当に修行になってるのかしら……。
「そうはいっても、全然駄目じゃないの……大丈夫なのかしら、彼」
「カイト様は、頑張っておいでですよ。ただ、兄様がそれ以上にすごいのですよ」
そういうと、刹那さんはうっとりと目を細めた。
「そう、その姿は黒豹の如く、そのたくましい四肢はまるで獅子王のよう……」
「……は?」
「繊細で陰のある顔立ちは、闇の貴公子と詠われるかのごとく、心は常に十六夜の月の如く澄んだ光を……」
「ちょ、ちょっと……刹那さん?」
「……はっ!?」
一瞬、どこか変な空間に迷い込んでしまったような感覚は、刹那さんが正気に戻ったら、綺麗さっぱり消えていた。
「あの……今のは、その」
顔を赤くこそしていないものの、明からに恥ずかしがってる刹那さんは、微妙に可愛かったりする。
しかし、今のってやっぱり……そういう事なんでしょうね。
「別に、恥ずかしがることないんじゃないの? だって、刹那さんて甲斐那さんのこと、好きなんでしょ」
「それは……」
「じつはさ、悪いけど見ちゃったんだ……夏祭りの夜」
私の言葉に、刹那さんは一瞬、驚いた顔をし、うつむいてしまった。
そう、それは夏休みの境内。
寄り添うように立っていた見覚えのある影は、まるで恋人のように寄り添っていた。
風が運んできた声は、互いの名前を呼ぶささやきのみ。
だから、まるでそれは夢のように、私の心に深く刻み込まれてしまったのだ。
「軽蔑……なさいますか」
「いや、別に。いいんじゃないの、別にそういう関係でも」
すんなりと、私はそう答えた。
別に、達観しているとか、そういうわけではない。ただ、あの時見た光景は、言葉で否定できないほど、私には眩しく感じられたからだ。
「そもそも、他に彼氏とかつくる気とかないんだったら、私がとやかく言う必要もないでしょ」
「彼氏……恋人のことですか」
「うん、たとえば……相羽君なんて、どうかしら。意外に、刹那さんと相羽君ってお似合いかもしれないし」
「…………」
私の言葉に、なにやら言いたそうに刹那さんは黙ってしまった。
あれ……何だかまずいこと、言っちゃったかしら。
「や、例えばの話よ。基本的に冗談だから、本気にしないで」
「いえ、そうではなくて……私てっきり、カイト様と陽子様は、お付き合いしているとばかり思ってましたので……」
…………………………はぃ?
「……え? 誰と誰が?」
「カイト様と、陽子様です」
真っ白にホワイトアウトした脳味噌で、私は一生懸命に思考演算をするが、ものの見事にエラーが出るだけだった。
「―――――――」
「いつもご一緒にいられますし、とても親しげですから、きっと恋人なんだなぁ、と勝手に思ってましたのですけど」
あ〜、確かに最初に刹那さんと会ったときも、相羽君に膝枕してたし……修行の時も、何だかんだいって、けっこう話してるからね。
刹那さんがそう思うのも、無理ないのか……う〜む。
「相羽君とは、なんでもないわよ。そもそも、相羽君にはちゃんと彼女もいるし」
「はぁ……」
今ひとつ納得していないような表情で、刹那さんは頷いた。
「相羽君……大丈夫? 生きてる?」
「ぉ〜」
修行が終わり、刹那さんたちと別れた後、私と相羽君は学園近くのファーストフードショップに立ち寄っていた。
なぜかというと、明日に提出が迫っている課題を、相羽君がまだやってないというからである。
勉強道具を予め持ってくるあたり、計画的な感じだけど、自分の体力までは計算に入れてなかったみたいね。
その相羽君はというと、ぐったりと机に突っ伏して、もそもそとバーガーを齧ってる。
「ほら、休んでないで、課題を終わらせちゃいましょ」
「あ〜、悪いな、いいんちょ」
テーブル席の片側に並んで座り、筆記用具を開く。
「ほら、魔道形式の方陣分布は、精霊の属性配置と照らし合わせてみれば、分かりやすいでしょ」
「ん〜〜〜」
紙ナプキンに例を書き込んで説明するが、相羽君は、今ひとつ分かってないようだった。
しきりに頭をひねっては、見当違いの答えをかき、私に注意されるのを繰り返している。
「相羽君、冒険者なら、これくらいのことは知っておかないと」
「んなこと言ってもなぁ、俺って戦士志望だし、やっぱこういう頭使うのは苦手なんだよ」
苦笑いする相羽君。やっぱり優等生ってわけじゃないのよね……ま、ちょっとは頑張ってるみたいだけど。
「あ〜あ、いいんちょみたいなのがパートナーだったらなぁ」
ぼそりと言った相羽君だが、一瞬の思考の後、ポンと手を打った。
あ、なんかものすごく嫌な予感が……。
「そうだ、いいんちょ、俺とパーティ組まないか?」
そう言いながら、わしっと手を握りつつ、ずずっと詰め寄ってくる相羽君。
ちょ、ちょっと、そんなに顔を近づけないでよ。変な誤解を受けちゃうじゃないの。
「無理」
「うわ、一言かよ」
さりげなく手を離し、相羽君から身を離し、ちょっと私は手をさすった。
手、ちょっと痛いな……やっぱ、力あるのね。
「そうね……もし私と組むなら、ロイド君に勝てるくらいの強さを持ったら考えても良いわよ」
「……いいんちょ、それって組む気ないって事かよ」
「そうでもないわよ、相羽君が本当に強くなったら、組んでもいいわ。努力する人は、嫌いじゃないもの」
何となく微笑んでそう言うと、相羽君はまじまじと私の顔を見て、ため息をついた。
「ま、そのうちにな」
そういって、相羽君は、またレポートに視線を落とした。
……妙ね、普段の相羽君なら、「やってやるぜ!」くらいのことは言いそうだけど。
って、何で私がそんな事を気にしなきゃいけないのよ。そもそも、心配するのはミュウの役目だろうし。
調子狂うわね……まったく。
〜8月21日(土)〜
「すまないが、必要がない限り、僕は意中の人以外と組む気はない」
「そう、それじゃあまた今度ね」
それは、毎度毎度、繰り返される光景。
だから、慣れちゃっているのかもしれない。断られても、胸が締め付けられないのも。半ば予想できたからだ。
「懲りないわねぇ、私も……」
公園のベンチ、お気に入り場所に腰掛けて、私は空を仰ぎ見た。
眼前を青いスクリーンをバックに白い雲が流れていく。
「いいんちょ」
その場でしばらく待っていたのも、実は予想していたのかもしれない。
掛けられた声に振り向くと、そこには彼がいた。
今年になってから、それなりに親しくなった彼。
親友の彼氏でもある彼は、今回のオリエンテーリング、私の取るべき行動も分かったのだろう。
そうでなければ、わざわざ中庭による必要もない。
一緒に組まないかと誘ってくる彼に、私は微笑を返した。
別に、拒絶しているわけではない。けど、私の方から歩み寄るのも、相羽君に迷惑だろう。
そうして、彼は私の前から去っていった。
……馬鹿らしい考えだけど、私は恐れていたのかもしれない。
ロイド君に断られる私、私に断られる相羽君。この図式が崩れた時、今までの関係が崩れるんじゃないかと、私は何となく恐れていた。
オリエンテーリングは、結局一人で参加した。
といっても、何となく一人身というのも肩身が狭いので、実際にダンジョンに潜ったのは、二時間ほどたってのことだった。
「スタンプ集めか。色々と考えてるのね」
こつこつと、ダンジョンへ続く階段を下りながら、私はひとりごちる。
特に、気負ったわけでもなく、適当にスタンプを集めたら、さっさと切り上げようと思っていた。
しかし、階段をおりきった時、妙な事に気づいた。
普段は、様々な雑音、戦いの音、生徒の声、そういったもので満たされているはずのダンジョンが、妙に静かだった。
「なに、これ……?」
『御身ニ孕ミシ混沌ノ檻ヨ、今コソソノ枷ヲ払ワン』
不意に、風すらない淀んだ空気が、ほんの僅かに動いた。
聞こえたのは、聞き覚えのある声。それは、私の知っている人の声だった。直後……
『グルオァァァァァァァァァァァッ!』
沈黙を砕くかのように、周囲に音が戻ってきた。
それは、更なる騒音、悲鳴や爆音も聞こえてくる。
(一体、何が起こってるの!?)
私は、ともかく爆音のするほうに駆け出した。
通路の先から、剣の合わさる音、爆発する音が聞こえる。
そうして、通路を抜けたその先……!
「これは……!」
「委員長、来てくれたのか!」
そこに居たのは、クラスメート達。クーガー、クレア、シンゴが巨大な剣を持った魔物に、追い詰められていた。
とっさに私は、魔法を放つ。
「サンダーストームっ!」
バリバリバリバリッ!
「ギャババババババッ!」
雷撃に打たれ、魔物は倒れる。そうして、倒れた魔物のわきを抜けて、三人がこっちへと、駆け寄ってきた。
「助かったぜ、委員長」
クーガーが、やれやれといった風に声をかけてくる。
「それはいいけど、一体何なの、この状態は」
「さぁ、僕達もいきなり襲われたから、何が何だか……」
全然、緊張感のない表情で、シンゴはそんな事を言う。
「ねぇ、あれ……!」
その時、クレアの声に、私達はハッと視線の先を向いた。
そこには、さっき私が魔法を浴びせた魔物が、ゆっくりを起き上がるのが見えた。
ちょっと待って……あの姿、あの剣は……!
「ちくしょう、だけど、委員長もいるんだ、今度こそ倒してやる!」
「駄目よ」
クーガーの言葉をさえぎり、私は剣を抜いた。
「あなた達は、後ろの通路から地上に出て、先生にこの事を知らせて」
「え、でも……」
私の言葉に戸惑った声を上げたのは、クレアだった。
だけど、そんな彼女の言葉を抑えるように、私は抑えた声で言った。
「この魔物、竜戦士よ。少なくとも、この階層で出るような魔物じゃないわ」
「え、それじゃあ」
「そう、四月に起こった事件、また起こっちゃったみたいね」
私の言葉に、三人は顔を見合わせた。
「待てよ、だったら殿(しんがり)は俺が」
「通路内にも、同じような魔物が出たらどうするの? 大丈夫、私は器用だし、何とかするわ」
私の言葉を聞き、クーガーもそれ以上何も言わず、他の二人を急かし、通路を駆けていった。
さて、どれくらい持つかしら……剣を持ち、悠然と歩み来る魔物を前に、私は不思議と冷静に、そんな事を考えていた。
……8分、それが私の限界だった。
最初の一合で、左腕を裂かれた後は、一方的に魔物に押されっぱなしだった。
それでも8分持ちこたえれたのは、ありったけの魔術、神術を使ったから。
それでも、もう、これ以上は戦えそうになかった。
左腕の傷は、刻一刻と血を消費し、今は、その傷を治すほどの魔力もない。
「くっ」
壁にもたれながら、私は苦笑を浮かべた。
ここで、死ぬんだろうか。いや、運がよければ、保健室に転送されるかもしれない。
ただ、もうこれ以上、戦いを続けるのは無理そうだった。
そうして、屈強な魔物が近づくのをただ見ていた私。その耳に、声が届いた。
「陽子ちゃん!」
「ミュウ……」
騒ぎを聞いて、駆けつけたんだろう。でも、なんて間が悪いのか。
「馬鹿……なんで来たの……殺される……」
私を庇うように、誰かの背中が見えた。
ああ、私はこの背中を知っている。馬鹿ね、弱いのにそんな無理しちゃ……。
「はぁっ!」
「え……っ!?」
信じられない光景が、私の目の前で繰り広げられる。
暴風のような斬撃。逃げるしかなかったその斬撃を、彼は……相羽君は見事に凌いでいるのだ。
上下左右、無数の斬撃を、剣で受け、あるいは拳ではじいている。
彼の周囲には、まるで包むように烈洸のような気が包んでいた。
「マジックウェーブっ!」
「おらあっ!」
コレットの魔法と協力し、竜戦士の鳩尾に刃を突き立てた相羽君、その気が、刃に収束し――――
「ふっとべぇぇぇぇっ!」
激しい閃光と共に、竜戦士の身体は消滅していた。
歓声を上げ、相羽君に抱きつくコレット、相羽君は、そんな彼女にちょっと困ったような顔をし、そうして、自分の手に視線を落とした。
その表情は、生き生きとしていて、何かを吹っ切った感じだった。
「陽子ちゃん、大丈夫……」
「ミュウ……」
傍らから、掛けられた声は、相羽君の彼女。そうして、私の親友でもある少女の声。
「ちょっと、疲れたわ」
「うん、お疲れ様……」
以心伝心、というわけではないだろう。ただ、ひどく疲れた私を見やって、ミュウは静かにそういう。
私はそのまま、壁にもたれ掛かり、ゆっくりと眠りに堕ちていく。
閉じる直前、慌てた様子でこちらに走ってくる、相羽君の姿が、目の中に残っていた。
彼は、ミュウの王子様。
だけど、不思議なことに私はミュウの知らない彼を知っていた。
慌てた様子で、私を心配して駆け寄ってくる彼。
不思議とそれは、不快ではなかった。
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