The Love song for the second week..
〜7月〜
I my me mine..
〜7月1日(木)〜
「ちょっと、待ちなさいよ、カイト! ったく、最近、態度悪いわよ、あいつ……!」
コレットの言葉を耳の端に聞きながら、私は何となくその理由を理解していた。
明確な目標が見つかった分、他の事に目が行かないのだろう。
相場君は、ふらふらして、いつも集中にかけるところがあったけど、今の彼は、ただ一つのことに集中しているのだ。
もっともそれを、好ましく取れるかどうかは、人それぞれだけど。
「ちょっと、陽子、聞いてる?」
「あ、ごめんごめん。えっと、合コンのことだっけ」
ミュウたちのほうから意識を戻し、私はクラスメートのほうに向き直った。
彼女は、ミュウとは別のタイプの友人で、そこそこ付き合いのある相手だった。
「そう、今度の日曜なんだけどさ、冒険者のパーティと合コンやるのよ。みんな若いんだって!」
「ふぅ、よくやるわよね、そういうこと……」
「何言ってるのよ、卒業してからパーティさがそうったって、組んでくれる相手なんてそういないわよ」
彼女の言葉に、私はなるほど、と頷く。
確かに、卒業したばかりの生徒が、いきなり熟練のパーティに入れてくれといっても、そううまくは行かないだろう。
「ね、だから陽子も参加しなさいよ。正直、あまり高望みしてても、売れ残るだけよ」
ストレートな彼女の言葉に、私は苦笑する。
私が、いつも誰ともパーティを組まないことを、彼女なりに心配してくれているんだろう。
「うん。でも、ごめん。今度の日曜は、先約があってね」
「へ、そうなの? あ、ひょっとして、デートとか?」
「さて、それはどうでしょう?」
「えー、何よ、教えなさいよぉ!」
私の言葉に、興味津々と行った彼女に、私はあいまいに微笑んで、お茶を濁したのだった。
〜7月4日(日)〜
「これから行う術は、この大陸のものとは少々異なります」
週末の日曜日、私は校門前で、刹那さんから陰陽術とやらの講義を受けていた。
……ちなみに、相場君は少し離れたところで甲斐那さんに剣の手ほどきを受けている。
まぁ、彼の得意分野は剣術だし、自然と習うべき相手も決まったというところだ。
「この大陸の魔法や神術とは違う力……これは、東の海の向こうの国で生み出されたものです」
刹那さんの言葉に、私は思考をめぐらす。
ルーベンスと海を隔てて存在する、未知の大陸コルウェイド。今から見せるのは、そんな未開の地の技らしい。
何でも、小さい頃に土地を訪れた旅人が教えてくれたということだ。
「名称は陰陽術――――この術は、その土地にある憑き神の力を借りて、力を行使するのです」
そう言うと、刹那さんはすうっと目を閉じる。
と、彼女の周りが揺らめくと、そこに無数の蝶が浮かび上がった。
「『胡蝶』……私はそう呼んでいます。あ、触らないでください。手首が燃え尽きてしまいますから」
「いっ!?」
刹那さんの言葉に、私はあわてて伸ばしかけた手を引く。
よくよく見ると、その蝶は、炎の羽でできているようだった。
「ともかく、こういった術があることも覚えておいてください」
そう言うと、刹那さんは蝶を引っ込めてしまう。
「え? 今の術を教えてくれるんじゃないの?」
「もうしわけありませんが、それはできないのです。今のは、あくまで参考ということですから……」
私の質問に、刹那さんはあいまいに微笑んだ。
ここ最近の授業で、それなりに親しくはなれ、刹那さんも時々、微笑を見せてくれるようになった。
「そも、この付近には、契約を交わす憑き神がいませんから」
「ああ、なるほど」
それはそうと、続けて発した刹那さんの言葉に、私は納得したように頷いた。
確かに、憑き神というのがいて、初めて成立するのが陰陽術というなら、この付近に憑き神がいないという時点で習得付加ということだ。
「では、今回も魔法の行使と、神術の応用ということで」
「ええ、それじゃ、始めましょうか?」
刹那さんと少し間合いを取り、対峙をする。
それにしても、見たこともない術を使ううえに、魔術も神術も、私よりも遥か上に行っている。
「上には上がいる、ね……」
魔術の詠唱を始める直前、私はそう呟いた。
弐堂刹那。彼女はとても、強い存在だった
〜7月11日(日)〜
「さ、ここがそうよ」
「ここが……図書館ですか」
その日、私は何となく思いついて、刹那さんに学園内を案内した。
購買、自分たちの使う教室、学食、魔術の実験室と案内し、最後に訪れたのが、ここ、図書室だった。
「まぁ、図書館というほど、たいそうなものじゃないけどね」
「いいえ、すばらしいです……あの、読んでも良いのですか?」
普段の彼女では、決して出さない明るい表情に、私は笑いながらどうぞ、と頷いた。
刹那さんは、楽しそうに図書室を回りながら、数冊の本を手に取る。
そうしてその日は、読書会となった。
「『セリィの手記』、『十六夜物語』、『月詠みの姫』……刹那さんって、恋愛物がすきなのね」
「はい……」
私の問いに、彼女はあいまいに頷いた。
「陽子様は……学術書ですか」
「うん、これといって、読みたい本もなかったし」
というよりも、最近はあまり興味が持てることがなかった。全部において。
「やっぱり、だめかな……勉強だけ出来るというのも」
「……どうでしょうか?」
本を読む手を止めて、刹那さんは私のほうを向く。
「勉強が出来るというのも、その方の特性の一つだと思います」
「ありがと。そういってくれると、気が楽になるわ」
本当に、どうして言ってほしいことを言ってくれるのだろう。
刹那さんは、そのまま曖昧に微笑み、また本に視線を落とす。
結局、それ以上会話することはなく、その日は一日、図書館で過ごした。
帰りがけ、私の名義で本を借り、刹那さんは嬉しそうに、その本を持って帰っていった。
借りた本は、やっぱり恋愛もので、何だか微笑ましい。
今日は、刹那さんの、違う一面を見たような気がする。
〜7月25日(日)〜
驚きの鼓動が、胸を駆けている。
さっきまでの光景が、脳髄をフラッシュバックする。
ああ、なんて光景を見てしまったんだろう。
薄暗い月夜、抱き合っているのは二つの黒い影。
正直、驚きを隠せないでいた。だって、あの二人は兄弟だし、普段はそんなそぶりもぜんぜん見せないし。
落ち着け、私。
この動揺を、悟られてはいけない。
「おう、浴衣、似合ってるぜ。甲斐那さんたちは?」
それを聞かれたくないというのに、何で聞くのだろう、この相場君は。
もうちょっと、顔色というか、そういうので察してくれても良いのに。
「ほら、行こうぜ」
ほら、だからどうして、そんなに簡単に手を握ってくるの!?
まったく無神経なんだから、本当に、何だか意味もなくムカムカしてきた。
「って、アンタ、いつまで委員長の手を握ってんのよ、このスケベ!」
あ、相場君がコレットに蹴倒された。
本当に、いい気味。女性の心が分からないなら、しょうがないわね。
でも、何で私、こんなにドキドキしているんだろう。
さっきの光景を見てきたせい? それとも私、相場君に……って、そんなわけないでしょ。
……ない、はずよ。
「相場君、エスコートよろしくね」
だから、確かめよう。
この気持ちはどういったものなのか。戯れに、恋をしてみるのもいいかもしれない。
私は私。他の誰でもない私。
確かめてみよう。私という存在を、本当に、空っぽではないということの証明に……。
だって、刹那さんだってそういった心を持っていたんだから。
そう、似たもの同士の私たち。持っているものも、きっと同じはずだ……。
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