The Love song for the second week..    

〜7月〜
The 3th Summer..



〜7月1日(木)〜

「月っ末からは、夏休み♪ 海に夜祭りスイカとかっち割り♪」

妙な歌とともに、金髪のツインポニーがピョコピョコ揺れる。
楽しそうに踊りまくっているのは、見た目小学生の同級生、コレットだ。

「あ〜、楽しみよね〜♪」

見たまんま、ガキっぽいが、それも馴染んでいるんだから、問題ない。
まぁ、このテンションで委員長とかが同じ事を言ったら、いろいろ怖いが。

「うるせぇなぁ、何を喜んでんだよ」
「はぁ? 何言ってんのよ、夏休みよ、カイト! あとちょっとで夏休みが来るってのに、そのテンションの低さは何?」

幸せ絶頂の表情で、コレットは俺に言う。だが、どうもこいつは知らないらしいな……。

「あのね、コレット……」

その様子を見かねたのか、控えめにミュウが口を開く。

「武弦学園の3年には、夏休みはないのよ」
「ええええええええっ!?」

がびーーーん! という擬音が出るほどに驚くコレット。
まぁ、普通は驚くはな。もっとも、1年からこの学校に通っている俺たちにしてみれば、驚くほどじゃないけどなぁ。

一応、武弦学園にも夏休みというものはある。
ただ、3年のこの時期、卒業を間近に控えてということもあって、休日でも補習の名目で授業を受けるのが普通だ。
というか、補習を受けずに卒業できる人間は、滅多にいないそうだ。

「そ、そんなぁ〜、あたしの休みがぁ〜……」

詳細をミュウから聞いて、コレットが肩を落とす。

「ま、まぁまぁ、一応……日曜日は休みだし、縁日とかもやる事になってるから……」

どよーん、と落ち込んだコレットを慰めるようにミュウは言う。

「ほんとっ!?」

と、縁日と聞いて、パッと表情を輝かせる。まったく、現金なもんだよな。

「…………」
「カイト君?」

唐突に席を立った俺を、怪訝そうにミュウは見る。

「悪ぃ。眠いから、保健室で寝てくるわ」
「何なのよ、付き合い悪いわよ、カイト!」

コレットを無視して、俺は教室を出て行く。
そんな俺の背中に、なにやらコレットが、ぎゃあぎゃあ言っていたが、返答する気は起きなかった。

正直……今は、そういった話で笑える心境じゃなかった。


〜7月4日(日)〜

「もう一本だ、カイト」
「は、はいっ!」

甲斐那さんの言葉に、俺は手に持ったロングソードを構える。
そうして、『木刀』を持った甲斐那さんと対峙した。

「でぇぇぇぇいっ!」

気合の声とともに、俺は甲斐那さんに斬りかかる。

ギイイッ!

鋼鉄製の刀身が、木の棒によって止められていた。
鉄と木とが触れ合った部分は、銀と白緑の交じり合った光が発生している。

「まだだ」

甲斐那さんが、そういった次の瞬間……。

ゴウッ!

「うわっ!」

まるで、衝撃波のようなものに押し飛ばされ、俺は地面を二転、三転した。

「弐堂流・烈式」

呟きとともに、木刀を纏っていた輝きが消える。

「それでは駄目だといったろう、カイト。武器と身体を一体化させなければ、この技の片鱗すら発動できない」
「そんな事言ったって、よくわかんねえよ……」

そう俺が言うと、甲斐那さんはため息をついた、どうも俺は、あまり覚えのよい生徒ではないようだ。

「いいか、物質には総じて気というものが存在している。弐堂流武術は、その気を使いこなす方法だ」

甲斐那さんの手には、先ほどの木刀に映っていたものと、同じ光が現れている。

「それは、未熟さを気合で補うといった類ではない。気そのものの操作と具現だ。これを極めれば……」

飛んできた蝶に、甲斐那さんは手刀を振るう。
その手刀は、明らかに蝶に届いていない。だが……。

「魔法であれ、精神体で、魂であれ……切り裂くことが出来る」

その蝶は、その形のまま、地面に落ち、動かなくなった。
地面に落ちたときには、その蝶はすでに死んでいた。元の形を保ったままで……。

「今のは、弐堂流・断式。全ての命を断つ技だ」

そう言うと、甲斐那さんは死んだ蝶を広い、再び光を放つ。
その光に包まれた蝶は、死んでいたはずの蝶は、再び息を吹き返し、空へ舞い上がった。

「無論、それだけではない。方法によっては、命を救うことも出来る。もっとも、死人の命を吹き返すには、少々無理があるが」

ほんの少し、苦味のこもった口調で、甲斐那さんは言う。
何となく、その表情はどこか冷たく、悲しそうだった。

「なんにせよ、この弐堂流武術は、言葉だけで理解できるようなものではない。ともかく実践あるのみだ」

そう言うと、甲斐那さんは、木刀を構えなおした。

「やれやれ、結局そうなるわけか。ま、そのほうが俺にとっちゃ、わかりやすくて良いけどな」

苦笑すると、俺はロングソードを構えなおした。
武器は手の延長……甲斐那さんは、そう考えろといった。

「さぁ、来い、カイト!」
「おうっ!」

そうして、俺は再び甲斐那さんに剣を向けた……。

〜7月25日(日)〜

「……夏祭り?」
「ああ、今日の夜、この近くの神社でやるみたいなんだ」

何回かの修行を繰り返したその日。
いつも通り、校門前に姿を現した甲斐那さん、刹那さんに、俺はそう提案した。

「そういえば、白山様のお祭りって今日だったわね」

俺の言葉に、委員長も思い出したように言った。
白山神社は、遠い異国からこの地へとやってきた神様で、豊穣と祈りの神らしい。

まぁ、なんにせよ。
俺にとっては神の内容より、お祭りのほうが重要なわけだが。

「ま、そんなわけだから、気が向いたら気てくれよ。じゃ、始めようぜ」
「……ああ」

剣を構えた俺に、甲斐那さんは曖昧に頷いた。


そうして、祭りの夜。

「わあっ、すごいすごい!」
「うふふ、コレットったら、はしゃいじゃって」

出目金の柄の浴衣を着て、はしゃぐのはコレット。
そんなコレットを見て、微笑んでいるのは葵の柄の浴衣を着たミュウだ。

「やれやれ、元気だよな、二人とも……」

はしゃぐ二人を見て、俺は苦笑した。
すでに二人の手にはヨーヨーやら、杏飴やら、綿菓子やらが握られている。

ちなみに、全て俺のおごりだ。……俺を破産させる気か?

「あっ、ミュウ、焼きそば食べよ〜」

まったく、この無制限欠食児童が……。

「カイト君、半分は私が出すから……」
「いや、いい」

すまなそうに言うミュウに、俺は首を振った。
そもそも、この二人を誘ったのは俺だし、さすがにこういう所で甲斐性がないと思われるのも、癪に障る。

「しかし、人が多いな、これじゃあ……」

探しても見つかるかどうか、と思った先に、その姿を発見したのはその時。

「カイト君?」
「悪い、ミュウ、ちょっと待ってくれ」

そういって俺は、彼女のほうに駆け出した。

「だから、良いじゃないですか、陽子さん」
「あなたも本当に、しつこいわね」

紅桜をあしらった浴衣の少女が、男に言い寄られている。
まぁ、その光景はあまり興味がないが、言い寄られているのは知り合いだったので、放っては置けない。

「よう、いいんちょ」
「相場君、こんばんわ」

俺が声をかけると、委員長は微笑みながら俺のほうを見た。
長い髪を結い上げたその姿は、普段の委員長とはちょっと違って見えた。

「おう、浴衣、似合ってるぜ。甲斐那さんたちは?」
「それが、人ごみはあまり好きじゃないから、花火の見やすい所に行ってるって」

なんだよ、せっかく祭りを案内しようと思ったのになぁ。
っと、そういえば、さっきの男は……?

「相場君が来るなり、逃げちゃったわよ。よっぽど苦手らしいわね」

周囲を見渡す俺に、委員長はクスクスと笑う。
袂を口元に当てて笑う姿も様になっている。まるで、異大陸のお姫様みたいだった。

「ん……そうか、んで、いいんちょは、これからどうすんだ?」
「そうね、本当は一人で見て回ろうと思ったんだけど……」
「そうだな。またあの手の奴が寄ってくるかもしれないし、んじゃ、一緒に見て回るか?」

俺の言葉に、委員長は、え? と驚いた表情を見せた。

「相場君と、二人で?」
「おいおい、何心配してんだよ。ちゃんとミュウとコレットも一緒だぜ」

俺の言葉に、委員長はそう、とホッとしたようなため息をついた。

「ほら、行こうぜ」
「あ……」

俺は委員長の手を握ると、ミュウたちのほうに歩き出した。
てっきり振りほどかれると思ったが、委員長はおとなしく、俺の後をついてくる。
何となく、今日の委員長はおとなしいというか、可愛いというか……。

「って、何考えてんだ、俺は……」

きっと、浴衣姿のせいだろう。
普段は睨まれるだけで喰われるような感じがする委員長が、こんなに可愛く見えるのは。

「何か、失礼なこと考えてない?」
「いやいや、そんなことはないぞ」

考えが読まれたのか、ジロリと睨まれたが、なぜか今日は、そんな委員長がほほえましく見えた。


んで、二人のところに戻ったわけだが……。

「よう、お待たせ」
「…………」
「…………」

委員長の手を引いて、二人のところに戻った俺だが、帰ってきたのは何とも言えない視線が二つ。

「えっと、カイト君、その娘……誰?」
「あんた、ほんっとに最低ね!」

と、いきなりミュウは混乱するわ、コレットは激怒するわ……一体何なんだ?

「お前ら、何言ってんだよ。いいんちょだよ、委員長」
「え?」
「……うそ!?」

俺に言われて、ようやっと気づいたのか、二人とも驚いた顔を見せる。

「こんばんは、ミュウ、コレット」
「こんばんわ、陽子ちゃん。でも、本当に驚いたよ」
「そーね、まるで別人よね……」

困惑した表情のままで、委員長にそれぞれ返事を返す二人。

「なんだよ、お前ら、今まで気づかなかったのか?」
「うん、それにしても、カイト君、よく分かったよね」

得意げに言う俺に、ミュウがそう聞いてきた。
そういえば、確かに。近くで見たときは分からなかったもんな。……なんでだろ?

「……ん、まぁそんな事いいじゃんか、さ、見て回ろうぜ」
「って、アンタ、いつまで委員長の手を握ってんのよ、このスケベ!」

バキッ!

背中にコレットの飛び蹴りが炸裂し、俺はすっころんだ。

「まったく、油断も隙もないんだから……」
「ほんとに、ミュウも大変よね」
「あ、あはは……」

俺の背中を踏んづけて、毒づくコレット。
要領よく、繋いでいた手を離し、一緒に転ぶのを防いだ委員長。
なんと言っていいのか分からず、苦笑するミュウ。

「おまえらなぁ……」

大いに、くさった表情で身を起こした俺だが……。

「ほら、行くわよ。カイト」
「花火、始まっちゃうよ」

腕をぶんぶん振りながら、言うコレット。
微笑みながら、小首を傾げて言う、ミュウ。そして、

「相場君、エスコートよろしくね」

微笑みながら、手を差し出してくる委員長。

「……ま、いいか」

そんな姿に、毒気を抜かれた俺は、委員長の手を取って歩き出した。
−−−さぁ、今日はお祭り、存分に楽しもう。



追記。

その後、なぜかミュウと手を繋ぐことを、コレットに強制されたり。
コレットと腕を組んで歩くことをミュウに進められたり。
委員長に色々と、夜店でおごったりと、気苦労が2.2倍くらいに跳ね上がった……祭りだったような気がする。

……と、クラスの男子に言ったら、なぜか目の敵にされ、その日一日追い回されることになった。


……なんでだろう?


戻る