花言葉・0
〜花言葉〜
ぎんもくせい……初恋
小さい頃の思い出なんて、そうそう思い出せるものではない。
淡い恋の思い出も、切ない失恋も、思い出すこともできないほど、色あせていた。
本当に、あれが恋だったのかも分からない。
ただ、自分が勝手に、幼い頃の思い出を、都合良く作り替えただけかも知れない。
ただ、たった一つだけ、形として残ってる思い出がある。
おもちゃの、安物の指輪……。
それをもらったときのことだけは、今も鮮明に覚えている。
あの時の感情は、やはり……恋だったんだろう。
数日前、戦場に行った彼が、戻ってきたことを知った。
「……悪司」
呟きと共に、胸に暖かいものがこみ上げてくる。
生きて、帰ってきてくれた。
それは、素直に嬉しかった。
だけど……彼は私の元には戻ってこなかった。
当然だろう……彼にとって、私は幼なじみ以上の何者でもないのだから。
「姐さん、組長がお呼びですぜ」
「そう……わかったわ」
使いの組員の言葉に頷き、私は指輪を、そっと服のポケットにしまった。
想い出は美しいけど、それでどうにかなるものでもない。
今は、私と彼は敵同士……。
私の名前は、加賀元子。
わかめ組の幹部であり、山本悪司の敵として生きている……。
初恋の相手の、敵として……。
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