大番長・西欧編 

統一教会・上層部(1)



北西の島にある一つの都市。
そこは、ヨーロッパ全土に影響を及ぼす、統一教会の本部がある都市だった。

現在は、市外のあちこちに戦の爪痕の見られる都市。
ヨーロッパにおいて、魔界孔の発生した場所であるが、住人達の表情は、決して絶望に満ちてはいなかった。

統一教会の所持する騎士団は、生まれ出てくる魔物の群れを殲滅し、張られた結界は一歩もロンドの外に魔物を出さなかった。
人々は、魔物に怯えつつも、日々を過ごしている。


統一教会本部


「では、ディーナ様、そのハルという子供に全権を与えたと申されるか?」
「はい、彼に関することは、手元の資料を見ていただければお分かりになると思います」

統一教会本部の一室、そこでは現在、文官と武官が居並び、会議の真っ最中だった。

武官側は3名の騎士、「不死身の騎士」・デュラハン=カース聖騎士団長。
「氷雷のジキル」こと、ジキル=ゲルニック。
「爆炎のハイド」の二つ名を持つ、ハイド=バルデイス。

「若干、十五歳で神法士の資格を取得……確かに優秀ですね」
「優秀かどうかは、問題ではない!」

デュラハン騎士団長の言葉をさえぎったのは、文官側の代表人物、ゾール=エンリーコート大神官である。
齢50歳というところの老人であるが、まだまだ若々しく権力欲のある人物である。

ディーナを頂点に、騎士団をつかさどる武官側と、結界を整備する文官側に分かれている。
もともと、決して仲が良いとはいえない両陣営だが、ここ数年は、さらに対立を深めている。

「いくら人材が足りないとはいえ、そのような子供に全権を任せるのは、問題だというのです」
「そりゃ、ゾール大神官からみりゃ、みんな子供でしょうよ」

皮肉っぽくそう応じたのは、ハイドという騎士。
老神官は、大柄な青年を一瞥しただけで、完全に無視し、なおもディーナに詰め寄る。

「お考え下さい、もしその少年が、与えられた権力を振りかざし、横暴の限りを尽くしたら、いかがいたします?」
「彼は、そのようなことをする人ではありませんよ、大神官様」

ディーナは、穏やかな顔で何度目か分からない言葉を口に出した。
しかし、言葉と表情とは裏腹に、両手はきつく握り締められている。さすがにうんざりしているようだ。

「ですが……」
「たしかに、少々不安ではありますね」

なおも言いつのろうとするゾールだが、デュラハンの漏らした言葉を聞き、動きを止めた。
数瞬の思考の後、咳払いと共に、ゾールは前言を撤回した。

「まぁ、ディーナ様の決めたことですから、いたしかたありますまい。このうえは、成功なされることを望みたいものですな」
「…………」

白々しい空気をまとって、会議は終了した。



統一教会通路

「しかし、渋ってた割りには、あっさりと認めたものですね、あの爺さんは」

会議に出席していた三人の騎士は、通路にたむろって雑談をしていた。
炎騎士・ハイドに皮肉げに笑ったのはデュラハン騎士団長。

「何かあれば、聖女様の責任にするつもりだろう。大神官は権力を握ることに躍起になっているからな」
「成功の可能性が薄いから、ですか。やだねぇ、権力の亡者ってのは」

ハイドは呆れたように肩をすくめ、傍らの同僚の肩を叩く。

「お前も大変だな、あんな爺さんの娘が婚約者なんだから」

同情的な言葉を放つハイドに、氷騎士・ジキルはため息をつき、無表情にハイドを見た。

「別に、同情してもらう言われはない。親はどうであれ、セラは悪い人間ではない」
「結界の巫女様か……ま、悪い噂を聞いたこともないけどな」

統一教会の表の代表がディーナであるとすると、裏の権力者がセラ=エンリーコートである。
大神官の娘である彼女は、数年前の魔物発生の折、大規模な結界を張り、ロンドの外への魔物の拡大を防いだのである。

そのため、セラの名は一気に高まり、ディーナと共に統一教会のシンボルとなっていた。
ゾールにしてみれば、セラの名がさらに高まれば、権力を独占できるのである。ディーナが失敗を起こして、失脚するのも良いと思っているのだ。

「ま、これ以上あの爺さんの好き勝手にさせておくのも癪だし、そのハルって子供には頑張ってもらいたいものですね」
「ああ、そうだな」

ハイドの言葉にデュラハンは頷く。

ヨーロッパ全土に権威を示す、統一教会。
その権力は巨大ではあるが、決して一枚岩ではなかった。

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