大番長・西欧編
精霊騎士団(1)
貴族達の支配する東南領域。その領域の西の端に、ダルクメシトという都市が存在する。
その都市は、公式には何もない辺鄙な片田舎。しかし、非公式には貴族達に反旗を翻す者達の、隠れ家でもあった。
ダルクメシト・領主の館
「お呼びですか、ファーン殿」
ダルクメシトの一角。その最も大きな館の主人は、眼鏡をかけた金髪の青年だった。
彼は、執務室の机にもたれかけながら、来客を迎え入れた。
「お手数をお掛けしてすみません、キリエさん」
彼の手には、書類の束が握られている。彼は一枚の紙片を取り出すと、目の前の少女に差し出した。
剣を腰に帯びた少女は、その書類に目を走らせて、眉をしかめた。
「これは……」
「はい、ヴェネティアで人事の異動があったようです。ヴラド行政官は、どちらかといえば我々の活動に同意的な感がありました」
ずれた眼鏡を押し上げながら、ファーンは少女に言う。
彼は、ダルクメシトの領主でありながら、秘密裏に貴族達に反旗を翻す、精霊騎士団の団長も兼任していた。
「ともかく、新たな行政官のことを調べ上げなければ、今後の活動にも支障が出るでしょう」
「分かりました。私もヴェネティアに向かい、事の次第を調査します」
敬礼をする少女に、ファーンは微笑みかける。
「すいませんね。何しろ、人材が少ないので」
「いえ、気にしないで下さい」
少女は一礼し、部屋を出て行く。入れ替わって部屋に入ってきたのは、白髪に、とがった耳の少女だった。
「ファーン、また戦いに行くの……?」
「アリナ、そう心配そうな顔をしないで下さい。今回は、そういったのとは違いますから」
エルフの少女は、ファーンのその言葉に、ホッとしたように息をつく。
少女は、ファーンのそばに寄り添い、その胸に顔をうずめた。
「ファーンに、危険なことして欲しくない。助けてくれた、ファーン、大切」
どこか、たどたどしい口調で、心配そうに言う少女の頭を、ファーンはそっと撫でた。
「大丈夫ですよ、アリナ。君は私が守ります。他の皆も」
貴族でありながら、貴族連合に対する旗印でもある青年。
彼のもとに集う者達は、時を得るごとにその数を増やしていた。
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