大番長・西欧編 

ロゼット研究所跡(1)



「ここが、研究所があったところか……」
「ええ、そうみたいですね」

焦げ付いた瓦礫の山を目の前に、一人ごちた久那妓にカミラがそう応じる。
ヴェネティアの郊外、人里はなれた場所にそれはあった。

かつては二階建ての建物であったそこは、ハル達の拉致事件の折り、火を放たれて全焼している。

「ものの見事に、何もないな」

かがみ込み、焼け焦げた瓦礫を見つめる久那妓。
カミラも周囲を見渡すが、それで何か解決したというわけでもない。

「ハル達の両親は、行方知れずということだが……」
「ええ……」

久那妓の言葉の裏を察したのか、カミラも幾分沈んだ口調で頷く。
あの事件の後、ハル達の家族の行方は、ようとしてしれてはいない。

そのことに関して、ハルもミスティも何も言わない。だが、気にしていることは明確だった。

「ともかく、肝心の場所がこれでは、な」

片田舎で、唯一物事に精通している学者を訪ねようとしたが、それは見事に空回りしたようだった

「ここにいてもしょうがない、戻るとするか……カミラ?」
「え……は、はい」

声を掛けられ、ハッとしたように久那妓を見るカミラ。

「どうしたのだ?」
「いえ、何となく……」

微妙に何かが気になったのか、しきりに首をかしげるカミラ。
しかし、答えが見つかるわけでもないことは事実であり、結局、久那妓の後に従った。

放置された瓦礫の山……それは、かつての姿を掻き消すかのように、そこに存在していた。


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